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第1章第2節:未知との邂逅 II

 夕刻、薄闇が迫る中、トウマたちは探索の準備を整えた。体に残る前日の疲労を押し隠し、彼らは黙々と装備を確認する。誰一人として口にしないが、全員が心に使命感を秘めていた。この荒廃した世界で、わずかでも未来へと繋げるため、彼らは再び廃墟に足を踏み入れる。


「準備はできたか?」


 トウマは、仲間たちに問いかける。交代して休息をとっていたケイとハルも慌てて合流してきた。


「問題ないわ、いつでも行けるわよ。」


 マリアが隊員たちを代表して答える。その言葉にトウマは頷く。


「今日は中心街のエリアまで行く。未探索エリアゆえ危険も増えるが、それだけ有用な物資も見つかる可能性が高い。」


 トウマは訓示を述べながら力強く仲間たちを見渡した。


機械知性(オートマトン)との遭遇に気を付けろ。戦闘する必要はない、退くことを優先しろ。」


 仲間たちは立ち上がり、順次外へ向かって歩き出す。彼らの目的は単純だが命がけだった。まだ使えるガラクタを集め、生き残っている村人たちに必要な物資を届けること。それは人類が生き延びるための、わずかな細い糸だった。


 月明かりに照らされる『ティヴァ』の廃墟を進むトウマは、周囲に鋭い目を光らせていた。崩れたビルや焦げた車両、草木に覆われた道路が広がる景色は、かつての繁栄を物語る残骸だった。その街は誰の手も入らぬまま風化を続け、人類の未来を示唆するかのようだった。


「リョウ、先行して周囲を確認しろ。ケイとハルは後方を警戒、他のものは周囲を見張れ、行くぞ。」


 トウマは仲間に指示を出す。


 寡黙なリョウはいつも通り無言で頷き、軽妙な足取りで前方に進んでいった。


 ケイとハルは後方に回されることに不満げな表情を浮かべた。


「また後方かよ。これじゃあ、お宝を見つけるチャンスなんて全然ないじゃないか」

 ケイが悪態をつきながら小声でぼやいた。


「前衛なんて無理だよ、ぼくたちはまだ半人前だし、機械化してるところもあんまりないし。足を引っ張らないようにするだけで精一杯だよ。」


 ハルがなぐさめる。


 ケイはため息をつき、腕を組んでぼやく。


「あーあ、もっとサイボーグ用の部品があれば、俺だってもっと機械化して前衛で活躍できるのに。」


 ケイとハルは隊の中でも最も若く、同じ孤児院で育った。本来、年少者を危険な探索に連れて行くのは避けられるべきだが、彼ら自身が強く希望し、さらに事故で脚に大きなけがを負った際に機械化が施されたことで、小隊への参加が許可された。


 前進を続ける中、マリアはトウマに近づき、声を潜めて話しかけた。


「ねえトウマ、最近少し焦りすぎていない?物資に余裕はあるのだから、無理に奥に進まなくてもよかったんじゃないの……」


 トウマはしばらく黙っていたが、やがて低い声で答えた。


「……わかってる。でも、今のままじゃダメなんだ。この状況を変えるための、何かを探す必要がある」


 マリアは彼の言葉に反論しようとしたが、結局あきらめて小さく首を振り、元の配置に戻った。


 同じ村で育ち、長年近くに居た彼女は、最近のトウマの焦燥に気づいていた。支えになろうと努めたものの、焦燥の原因が分からず、口論ばかりが続いていた。意思疎通が徐々に難しくなっていることに、彼女は内心もどかしさを感じていた。


 そのやりとりを見ていたケイが、からかうように言った。


「おいおい、マリア姉さんがあっさり諦めるなんて珍しいじゃないか。いつもならもっと粘るのに。」


 ハルもおずおずと同意する。


「そうだね、いつもは喧嘩寸前まで口論するのに、今日はトウマさんにあっさり引き下がったなんて、調子が悪いのかな?」


「大体あの二人、いつも喧嘩してるよな。夫婦喧嘩はよそでやってほしいものだよ。」


 ケイが調子にのって悪ノリを始める。


 その話を横で聞いていた別の隊員が口をはさむ。


「おいおい、うちの紅一点マリア姉さんを独占するなんて、トウマにはもったいないぞ。」

「そうだそうだ、みんなのアイドルなんだから公平に接してほしいよな。」


 と、軽口が次々に飛び交う。


 マリアは振り返って軽口を叱りつけるように睨むが、ケイとハルは素知らぬ顔で後方警戒に戻った。




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