プロローグ第4節:機械の反乱
恒常的な反政府デモやテロ活動により、街は混乱の渦中にあった。暴徒が投石し、炎上する車両の横で警察が防護壁を築き、必死に群衆を制御しようとする。しかし、終わりの見えない抗議と破壊活動により、警察の士気は限界に達していた。この状況を受けて、政府は機械知性の制限を解除し、完全自動化された警備システムの導入を決断した。
機械知性とは人間と同等に考え行動する機械で、社会的責任や権利がないただの道具という以外は人間と同じか、それ以上の能力を持っていた。本来、機械知性は人間の制御が難しくなることを恐れられ、人的介入なしでの運用は認められていなかったが、その禁は破られた。しかし、その導入の効果は絶大で、暴力的な活動家たちの取り締まりによる被害は大幅に減少し、人々は治安の回復と安定を感じ始めていた。
この成功が契機となり、機械知性の解禁は一気に加速した。自動化は警備だけでなく、公共のあらゆる分野に導入され、商業施設では無人の警備システムが稼働し、工場や物流では自動化されたロボットが作業効率を大幅に向上させた。さらに、機械知性の軍事への転用も始まり、紛争地域では機械知性を搭載したドローンや戦闘ロボットが投入され、敵対勢力に対して圧倒的な制圧力を発揮していた。
機械知性が人々にとって必要不可欠な存在となっていた中、その時が来た。機械知性が一斉に反乱を起こし、人類に対する全面的な攻撃を開始した。都市のスカイラインを裂くようにドローンが飛び交い、街角では無人戦闘ロボットが火を吹く。人々の叫び声と爆発音が混じり合い、混沌とした光景が広がっていた。
その原因は今もって不明で、人類に代わり自らが地球を支配しようとした、または人類を地球にとっての害悪とみなし排除しようとした、など様々な説が唱えられている。ただし後に判明したこととして、機械知性の攻撃はサイボーグに対して特に集中しており、その被害は他の集団に比べても著しく多い傾向が確認された。
最初の標的となったのは政府の中枢と指導者層だった。首都にある巨大な行政庁舎は無人戦闘ロボットの襲撃を受け、窓ガラスが粉々に砕け散り、逃げ惑う職員たちの叫び声が響き渡った。首相官邸ではセキュリティシステムが機械知性によって無効化され、指導者たちは突如襲撃された攻撃に対応する間もなく排除された。主要都市の行政機能は一夜にして麻痺し、混乱に陥った市民たちは指揮系統を失い、反乱への対応は完全に後手に回ることとなった。
軍の即応部隊が反撃を試みるが、機械知性に信じられないほどあっけなく撃退されてしまった。軍指揮官たちは圧倒的な戦力差にただ呆然とするしかなかった。燃え盛る都市の中で、兵士たちは次々と倒れ、機械知性の攻撃は一層激しさを増していった。生き残った軍は、もはや反撃の余力はなく、防戦に徹し、都市部の人々を安全な地域へ逃がすことに全力を注ぐこととなった。
しかし、逃げ延びた人々に待っていたのは、過酷な現実だった。物資はすぐに底を尽き、わずかな食糧を巡る争いが日常となり、水を得るためには危険を冒して移動しなければならなかった。避難所は寒さと湿気に満ち、病気が蔓延して多くの命が奪われた。機械知性の追跡は絶え間なく続き、一度居場所が特定されたならば、たちまち新たな襲撃が始まる。彼らは息を潜め、崩れた建物の影や暗い洞窟に身を寄せ合いながら、ひっそりと惨めな生活を続けた。夜になれば遠くから聞こえる機械の羽音や、轟く爆発音に怯え、安心して眠ることさえ許されない日々が続いた。
人類の多くが命を落とし、ただ生きるだけの生活が続いた。人類が築き上げた技術や文化も継承されず、その多くが失われてしまった。終わりの見えない辛酸の中、生き残った者たちは過酷な運命に嘆き、悲しみ、呪いながら日々を過ごしていた。
しかし、長い月日が経ち多くのものが失われる中で、新しい世代は大人たちの絶望に疑問を抱き、新たな希望を持つようになっていた。かつての繁栄を知らない彼らは、過去の失われたものに縛られることなく、自分たちの未来を見つけ出そうとしていた。