プロローグ第2節:技術の進歩と新たな文明
――22世紀も後半に差し掛かる頃、人類の技術は飛躍的に進歩し、「機械の体」というかつての夢が現実となり、人々が自らの体を徐々に機械へと置き換えることが一般的な日常へと変わりつつあった。
それは最初、身体の一部を失った人々のための義肢技術として始まった。最初は、目や腕、脚などの機能回復を目的とした補助装置だった。しかし、それらの機械は次第に進化し、純粋な人間の身体よりも優れた性能を持つようになった。人々は、より強く、より速く、より耐久性のある身体を手に入れることを望むようになり、サイボーグ技術の需要は急速に高まっていった。
街の片隅で見かけるのは、鋼鉄の腕を持つ労働者や、光学センサーを装備した警備員たち。彼らの所作は自然で、生身の人間のそれと変わらない。だが、よく見るとその肌の下には金属の輝きが見え隠れし、時折聞こえるギアの駆動音が、彼らがただの人間ではないことを物語っていた。
社会はこの新しい存在に急速に適応していった。身体を機械に置き換えることはもはや障害を補うためのものではなく、むしろ人間の限界を超える手段となったのだ。
スポーツ界では機械により身体強化された選手がスターダムを席巻し、ビジネスでは長時間の労働にも耐えられるサイバネティック社員が重宝された。機械の体は実利だけでなく、ステイタスを表すものとなり、人々は全身を機械に変えることすら選ぶようになり、新たな「サイボーグ人類」という種が形作られた。
機械化は労働力の向上に大きく貢献した。建設現場や製造業では、機械の体を持つ労働者たちが強力な力と耐久性を活かし、過酷な作業を昼夜を問わずこなしていた。その生産性は従来の人間の労働者を遥かに上回り、社会全体の生活を豊かにした。
街並みは大きく変貌していた。高層ビル群の間にはサイボーグ向けの整備された歩道が広がり、空中を走る輸送ドローンが日常の一部となっていた。街路には光学センサーを搭載した街灯が並び、通行する人々の動きを監視していた。これらの設備はすべて、都市の効率を最大化するために設計されていた。
社会もまた大きく変わり、サイボーグ技術の発展に伴い新たな文化が生まれていた。サイボーグ同士が集まるコミュニティは、独自の価値観を育み、新しい生活様式を作り上げた。芸術分野においては、機械化された身体能力を活かしたダンサーが重力を無視した動きで舞うパフォーマンスが人気を博し、音楽では内蔵されたデバイスを駆使して演奏される電子音楽が新たなジャンルとして定着した。また、サイボーグによるスポーツ大会も開かれ、人間の限界を超えたパフォーマンスが観客を熱狂させた。
一方で、伝統的な文化もこの変化に適応しつつあった。古くからの祭りや儀式はサイボーグ技術を取り入れ、ホログラムや機械的な装飾が融合することで新たな形を得ていた。多くの変革や革新が展開するこの時代において、人々は効率的な社会を享受しながらも、かつての歴史や文化を大切に守り、失わないよう努めた。
しかし、この進化は全てが肯定的なものではなかった。身体を機械化することを受け入れた人々と、そうでない人々の間に軋轢が生まれたのだ。身体を機械に変えることを望まない、あるいは経済的にその選択ができない人々は、次第に社会の中で取り残されるようになっていった。彼らは機械化された人々が享受する恩恵から遠ざけられ、社会的な地位や機会の面で格差が拡大していった。