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第2章第6節:未踏の地平 VI

 新たな発見の興奮醒めやらぬ中、トウマは仲間たちがいる方向から激しい銃声が響くのに気づく。銃声は重く、金属が擦れるような音も混じっていた。敵との交戦が起こっていると直感し、トウマは急いで通路へ引き返し仲間と合流を図る。


「ちくしょう、こんなところで……」


 トウマは通路を駆ける。その先にはマリアとケイが通路口に隠れながら敵と交戦している姿が映っていた。


 二人の表情は険しく、通路口の壁に身を隠しながら必死に応戦をしている。


「何があった、現状報告!」


 トウマは二人の元にたどり着くと同時に状況の説明を求めた。


「ーー!」


 マリアは交戦を続けながら素早く、且つ、簡潔に状況を述べる。


 トウマはマリアの説明に耳を傾けながら横たわっている3体の人影を見る。


 1人は敵の奇襲をまともに受けて頭部を撃ち抜かれた隊員で、すでに絶命していた。


 1人は同じく奇襲で重傷を負ったハルだった。息はあるようだが呼吸は浅く、傷口からは血が流れ続けている。すぐに手当てをしないと危険な状態だった。


 最後の1人は行方不明になっていたアイラで、培養カプセルに閉じ込められていたのを救出したという。


「アイラ……?」


 あまりに予想外の報告にトウマはひどく混乱した。アイラがここにいる理由は何なのか、どうやって生き延びていたのか。疑問が次々と押し寄せる。しかし今は問答をしている余裕はなかった。彼はすぐに思考を切り替え、目の前で激しく攻撃を続ける敵の状況を探る。


「くそ、完全に囲まれてる!」


 敵はカプセルが立ち並ぶフロアで、トウマたちを取り囲んでいる。


 攻撃を仕掛けているのは、小型の警備ロボットだった。シンプルなカプセル型のフォルムに、中央の銃座だけが目立つ簡素な設計の動く砲台のような存在だった。


 その武装は外で遭遇する機械知性(オートマトン)よりも小口径で、装甲もそれほど厚くない。おかげで、マリアたちはなんとか応戦出来ていたが、あまりにも数が多く、すでに十重二十重に包囲を敷かれてしまっていた。


「他の隊員は?」


 トウマは問うがマリアは無言で首を振る。


「なんとか突破できないかしら?」


 トウマに問いかけるが、答えがわかっているためかその表情は暗い。


 たった一つの出口は遥か遠く、この数の敵と交戦しながら脱出するなどまったく荒唐無稽だった。


「くそっ……」


 状況は最悪だった。トウマは自身の心を絶望が支配するのに必死に抗いながら、活路を求め深く、さらに深く考えを巡らす。


 銃撃の音は徐々に遠くに感じられ、まるで世界がスローモーションになったかのようだった。マリアとケイの叫ぶような問いも、霧の向こうから聞こえるかのようにぼんやりとしたものになっていく。ただひたすらに考えを巡らせる時間が流れ、喧騒が遠ざかっていく感覚に包まれた。


 長い一瞬の果てにトウマはひらめきを得る。


「二人とも聞いてくれ、アイラとハルを抱えて奥の部屋へ行くんだ、そしてーー!」


 マリアとケイは唐突な指示に逡巡するが、もはやトウマを信じて行動するしかなかった。二人はそれぞれアイラとハルを抱えて奥の部屋へと進む。


 トウマは敵と交戦を続けながら絶命した隊員の体を引き寄せた。そして、胸部を腕でえぐり、中に埋め込まれている動力炉を強引に引き抜く。金属が擦れる不快な音が響き、動力炉が体から離れる瞬間、彼の腕には抵抗と共に、まだ稼働していることを告げる重い振動が伝わってきた。


 動力炉は核融合反応からエネルギーを取り出す装置で、通常は頑丈な殻と強力な磁場で反応が閉じ込められているため危険はない。しかし、トウマはあえてその安全装置を無効化する。そして、残った燃料をすべて炉に注ぎ、プラズマを閉じ込める磁場の制御装置を破壊する。


 連鎖的なエネルギー放出が始まり、暴走が避けられないと判断したトウマは、動力炉をその場に投げ捨てた。斃れた仲間の遺体を利用し、その動力炉を暴走させる行為に強い後ろめたさを覚えながらも、この状況を打開するためにはこれしかなかったと自らに言い聞かせる。そして急いで奥の部屋へ向かった。


 置き去りにされた動力炉から発生する数億度のプラズマが炉壁を破壊し、エネルギーが一気に放出される。


 一瞬の閃光と灼熱の炎が敵を焼き尽くし、激しい衝撃がフロア全体を包み込む。基地の天井は熱と爆風に耐えきれず崩落し、地下をすべて土砂で埋め尽くした。







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