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第2章第5節:未踏の地平 V

 トウマは仲間たちを背後に残し、さらに奥へと進んでいった。培養カプセルの並ぶフロアを抜けた先にある薄暗い通路を一人進む。敵地の奥深くへ入り込んでいるという事実が緊張の度を高め、周囲の空気が徐々に冷たく、重苦しく感じられた。どこかから聞こえてくる機械の微かな音と、自分の足音だけが、長い通路に響き渡る…


 通路の突き当たりにたどり着いたとき、一つの扉を見つけた。その扉は、まるで彼の存在を察知したかのように、ひとりでに開いた。部屋の中は明るく、中央に大型の工作機械が設置されているのが目に映った。その工作機械は、人類が機械化施術を行うときに使用するポッドに似た形状をしていた。


 部屋の中に動くものがないのを確認したトウマは、そのポッドに引き寄せられる。


「これは……機械知性(オートマトン)が作ったのか?一体何のために?」


 未知に対する好奇心に導かれるまま中を覗き込む。


「……!」


 ポッドの中に人型の機械知性(オートマトン)がいるのを見つけ、反射的に後ろへ飛びのき、即座に武器を構えて戦闘態勢を取った。


 しかし、いくら経ってもそれが動きだす気配がない。


「動かない……?」


 ゆっくりと息を整え、警戒を解かずに近き、改めてポッドを覗き込み中の様子を観察する。


 観察を始めてすぐに、人型の頭部の骨格が開いており、中が空っぽであることに気づいた。


「人間であれば脳が収まる場所か、からっぽのようだが中身はどこかにあるのか……?」


 その異様な光景に、彼は怖気を覚えると同時に、かつて遭遇した人型機械知性(オートマトン)の手がかりが得られる可能性に心が躍る。


 トウマはその人形のような機械をポッドから引きずり出し、床にそっと横たえ、詳しく調査を始めた。


「こんな素材の機械部品は見たことがない……」


 外殻は黒く妖しい光沢を放つ金属でできており、光が当たると滑らかな反射を見せ、まるで異次元から来たような雰囲気すら漂わせていた。トウマがこれまでの探索で得たガラクタの中には似たものは一切なかった。


 手のひらでその外殻に触れながら、機体の構造をさらに詳しく調べる。機械の構造自体は、サイボーグ人類のものとそれほど差がないように見えた。一瞬、彼の表情に落胆の色が浮かぶ。


「いや、これは……」


 しかし、胸部に位置する動力炉に目をやると、その構造が自分たちの知るものとはまるで異なることに気づき、再び興味が湧き上がった。


 その時、部屋の隅から何かが崩れるような音が響いた。


「敵……!」


 反射的に部屋の隅に向かってトリガーを引く。銃声が部屋に響き渡る。トウマは武器を握りしめ攻撃を続けながら視線を向けた。その視線の先には、以前遭遇したレーダードームを背負った新型の機械知性(オートマトン)が、弾丸を浴びてうずくまるように倒れこむ姿があった。


「やったのか……」


 その個体はまったく反応を見せなかった。トウマはしばらく警戒を続けたが、動かないことを確認し、ゆっくりとその個体に近づいていった。


 倒れた機械の背中は、ドーム状のカバーが外れて中身が露わになっていた。


「まさか……」


 レーダードームと思われた球状の中身は、偵察用のレーダー装置ではなく、淡い液体に漬けられた人間の脳だった。それはまるで生きているかのように脈動し、液体の中でわずかに揺れていた。


「……嘘だろ。」


 トウマの中で一つの推論が浮かび上がった。


 人型の機械知性(オートマトン)は、人間の脳を使って動いている。


 培養されていた人間たちは、機械知性(オートマトン)に脳を供給するためだけに育てられていた。


 ここは人間の養殖場だった――。


 人類が家畜を養殖するように、機械知性(オートマトン)が人間を養殖している。その恐るべき結論に、彼は言葉を失った。


 しかし、しばらくの自失の後、まるで天から与えられたかのような閃きを感じた。


「ハハハハハ!そうか、その手があったのか!」


 それは狂気に満ちた、恐ろしくも大胆な発想であり、仲間たちが耳にすれば間違いなく反対するだろう。しかし、トウマはその選択こそがこの状況を打開する最善の道だと確信して歪んだ笑みを浮かべた。







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