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第2章第4節:未踏の地平 IV

 トウマたちは地下に足を踏み入れた。長く緩やかなスロープの途中には制御室と思われる小部屋や、格納庫のような広い空間が並んでいる。彼らは一つ一つの部屋を確かめながら、敵に見つからないよう用心しながら奥へと進んだ。


 スロープの行き止まりにたどり着くと、目の前には広大な空間が広がっていた。眼下には無数の培養カプセルが柱のように整然と立ち並び、異様な光景を作り出している。カプセルは淡い赤色の液体で満たされ、その中に浮かぶ生物のようなものがかすかな光に照らされていた。しかし、その正体は薄暗い照明のせいで判然としない。


 トウマたちは目の前の光景に衝撃を受け、思わず足を止めた。


「下へ降りて詳しく調べよう。」


 トウマの声が響くと、彼は螺旋状の階段を音を立てないように降りていった。彼の背を追うように、隊員たちも一人ずつ階段を降り始めた。


 フロアに降り立ったトウマは、近くのカプセルに歩み寄り、調査を開始する。赤い液体の中に揺れる培養体を見つめながら、疑問の声を漏らした。


「ここは……何なんだ?」


 カプセルを一つ一つ調べながら奥へ進むうちに、カプセルの中身が次第に変化していくことに気づいた。最初は未成熟な形をしていた培養体が、次第に輪郭を持ち始め、やがて見慣れた形へと変わっていく。


「……これは、人間なのか?」


 トウマの呟きに誰も答えなかった。仲間たちの足音が、わずかに震えているのが聞こえるだけだった。カプセルの中に浮かぶ培養体は人間の赤子の形状をしており、淡い赤色の液体の中で微かに揺れていた。


 機械知性(オートマトン)の拠点で人間が培養されている事実を、隊員たちはすぐに受け入れることができず、呆然とその場に立ち尽くしていた。


「しっかりしろ!」


 トウマの呆然としている仲間たちに鋭く声をかけると、隊員たちはハッと我に返った。彼の言葉に背中を押されるように、マリアは散開して調査を続けるよう指示を出す。限られた時間の中で、彼らは疑問を胸の奥に押し込め、それぞれの役割を果たすべく動き出した。


「こんなものがあるなんて、予想外もいいところよ……」


 マリアは壁に沿って並ぶ機械の間を進んでいた。絡み合う配線や時折点滅する小さな光に目を向けながら、その用途を推測する。そんな中、不意に彼女は違和感を覚えて立ち止まった。視線の先には、小さなドアのようなものがあった。


 一瞬の躊躇いの後、彼女は意を決してそのドアを静かに開けた。ほこりっぽい空気が彼女の顔に漂い、中は暗闇に包まれていた。マリアはハンドライトを掲げ、その内部を注意深く調べ始めた。


 薄明かりに照らされた部屋の中央には、フロアにあったカプセルよりも一回り大きい培養カプセルが置かれていた。中に浮かぶ存在を見た瞬間、マリアの胸は締め付けられるような感覚に襲われた。


「アイラ……?」


 赤い液体の中で眠るその人物は、2年前に行方不明となったアイラだった。


 アイラはトウマとマリアの同郷であり、ひとつ年下の幼馴染だった。2年前の探索で機械知性(オートマトン)に遭遇して戦闘になった際にはぐれ、そのまま行方不明となっていた。すでに死んだものと思われていた彼女が、まさかこんな形で目の前に現れるとは、マリアには思いもよらなかった。


 カプセルに手を当て、中のアイラに向かって声をかける。


「アイラ……聞こえる?私よ、マリアよ……」


 しかし、アイラは何の反応も示さなかった。彼女は穏やかな表情のまま、まるで眠っているように液体の中に漂っていた。


「どうして……どうしてこんなところに……」


 マリアは涙を堪えながらカプセル越しにアイラの顔を見つめる。彼女が生きていたという喜びと、思わぬ再会の衝撃、そしてなぜここにいるのかという疑問が心を乱す。目の前にいる幼馴染の姿が、マリアをその場に縛りつけた。







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