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第2章第3節:未踏の地平 III

 陽動部隊は迅速に廃墟のビル街に散開し、それぞれの持ち場についた。ジョージは迫撃砲を設置するよう指示しながら、周囲を見渡して地勢を把握する。


「ここは高いビルが多い。この地形なら発射点が容易にはバレないだろう。焦らず動け。」


 廃墟のビル群は夕日に染まり、その影は地面に複雑な模様を描いていた。リョウは観測手として高所に陣取る。双眼鏡越しに敵の拠点入り口付近を監視し始めると、小さく息を吐いた。


「ケイとハルの偽装が甘い。ここからでも分かるぞ。」


 その報告にあきれたジョージは、こめかみを押さえ首を振る。


「……時間だ。作戦を開始する。」


 迫撃砲が沈黙を破るように放たれる。砲弾は高い弧を描き、廃墟の街並みに吸い込まれるように消えた。ジョージたちは次弾発射の準備を始める。しばらくして遠くで爆発音が響き、廃墟の街全体に低い振動が伝わった。


「弾着を確認。諸元そのまま。」


 リョウが双眼鏡越しに状況を報告する。


「よし、じゃんじゃん撃ち込め。」


 ジョージは効力射を指示する。数秒後、風を切る音が耳をかすめ、リョウのすぐ近くに砲弾が落ちて爆発した。火花と破片が散り、瓦礫が跳ね上がる。


「予定通り発見された。」


 リョウが淡々と状況を伝えると、ジョージは軽く頷いた。


「よし、敵を引きつけながら撤退するぞ。全員、散開して撤退ルートを確保しろ。」


 陽動部隊はそれぞれ予定されたルートへ散らばり撤退を始める。敵の砲撃が次々と追いかけてくる中、彼らは冷静に建物の影を縫うようにして姿を隠していった。




 一方その頃、トウマたちは敵拠点の入り口付近に展開していた。


「来たぞ。」


 トウマが低い声で呟く。爆発音が響いた直後、歩哨として配置されていた機械知性(オートマトン)がその場を離れるのが見えた。さらに、拠点の奥から新たな機械知性(オートマトン)が数体出てきて、一斉に陽動部隊の方向へと移動していく。


 敵拠点の扉は無防備にも開いていたままだった。その光景にトウマたちは一瞬動きを止め、互いに顔を見合わせた。


「無防備だな……」


 トウマは罠の可能性を考え逡巡するが、圧倒的優位にある機械知性(オートマトン)が人類を恐れる理由はないのだと自身を納得させた。


「俺が先行する。みなはここで周辺警戒、異変があれば知らせろ。」


 トウマは指示を出した後、開かれた扉へ向かって行動を開始する。身をかがめ音を殺し、一直線に入り口と思しき場所へ忍び寄る。辺りは静まり返っており、ひんやりとした風が肌を撫でる。機械化された心臓の鼓動は高まる緊張の中にあっても常に同じリズムで拍動する。


 トウマは扉のすぐ近くにたどり着くと、そっと中を覗き込む。扉の向こうには薄暗い地下へと続くスロープが広がっていた。建物の大きさから地下があることは予想していたものの、地下へ突入するとなると、退路が制限されるリスクが頭をよぎる。内部に侵入後に、もし敵に発見された場合、入り口を固められてしまえば、一瞬にして袋小路となり、逃げ場を失い全滅は免れない。


 トウマは立ち止まり、思考を巡らせた。


「(他の出入り口があれば退路の安全性は高まる。しかし、そんなものが本当にあるのだろうか。あるかどうかも分からない出入口を探して時間を無駄にすれば、陽動に釣られた敵が戻ってくる可能性が高くなる。それならば、ここで即座に侵入するべきなのか――)」


 扉の前で動きを止めたトウマを見て、外壁の陰から見守る他の隊員たちはいぶかしむ。


「どうしたの……時間に余裕はないのよ?」


 マリアはわずかに眉をひそめ、声をかけるべきかどうか一瞬迷った。しかし、トウマの鋭い視線が扉の向こうに注がれているのを見て、彼の決断を待つしかないと言葉を飲み込んだ。


「元より危険は承知の上だ……この機会を逃すわけにはいかない。」


 トウマは決断すると合図を送り仲間を呼び寄せる。皆が集まったところでトウマが手早く指示を出す。


「ここから先は何があるか分からない。敵に発見されれば全滅は免れないだろう。手間取りすぎても敵が戻ってきてしまう。内部に突入し情報を得たなら即座に退却だ。」


 マリアは任務の困難さから言葉が出ない。普段は賑やかなケイとハルも戦慄して押し黙り、沈黙の時が流れる。


 トウマはかつてない危険に仲間を巻き込むことへの良心の呵責を感じながらも、未知の世界に踏み込む高揚感を抑えられなかった。相反する感情が胸の中で渦巻く中、彼は深く息を吸い込み、号令を放つ。


「突入……!」


 その言葉に仲間たちは動き出す。トウマが先頭を走り地下へのスロープを降りていく。仲間たちも遅れず地下への道を下り降りる。







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