第2章第2節:未踏の地平 II
トウマたちは再び人型の機械知性と遭遇した地点まで到達した。すでに夜が明けてから時間も経ち、周囲は十分に明るくなっていた。いつも以上に楽しくないピクニックに口を開くものは誰もいなかった。彼らは前回と同じ道を辿り、目的地が近づくほど緊張が高まるのを感じていた。
「ここだ……」
リョウが手を止め、小声で仲間たちに知らせた。
彼らは辺りの瓦礫や壊れた建物を確認しながら、どこかに手がかりがないかを探し始めた。
「何も変わった様子はないな……あいつら、本当にここにいたのかな。もしかして、全員で同じ夢を見てたんじゃないか?」
ケイは不安を紛らわせるように軽口をたたいた。
「あれ……あそこに何かあるよ。」
ハルがそっと視線の先に指をさす。彼の指の示す先には、周囲に広がる瓦礫の街並みと比べて明らかに違う、建造されて間もないように見える小さな建物があった。
その建物は古い壁に囲まれた敷地の中にあった。小さな倉庫ほどの大きさだが、土台は頑丈で、光沢のない金属製の壁が高い耐久性を思わせた。黒色の無機質な外壁には余計な装飾が一切なく、その無言の威圧感が用途不明の建物の謎を深めていた。正面にある、地下への入り口と思しき場所には、強化セラミック製と思われる扉が一枚だけ設置されており、扉の脇には2体の機械知性がまるで歩哨のように立っていた。
「あれは……機械知性の拠点なのか?」
トウマが驚きを抑えつつ声を漏らす。これまでの探索で機械知性と遭遇することはあっても、拠点と呼べるような場所を目にするのは初めてだった。
「こんなところに……敵の拠点があるだなんて……」
マリアは驚きを隠せず思わず声を張り上げそうになるが、すぐに気を取り直して言う。
「早く戻って村のみんなに伝えなくちゃ、場合によっては村を捨てることも考えなくちゃ。」
トウマはしばらく考え込んだが、やがて意を決して途方もない提案をする。
「いや、リスクは高いが侵入して内部を探ろう。まだ人型も見つけていない。この建物が敵の拠点ならば何か手がかりもあるはずだ。」
マリアは思いもよらぬ提案に、到底受け入れられないと翻意を促す。
「あなた正気!?中がどうなっているかなんの情報もないのよ?そんな状態で敵の拠点に飛び込むなんて自殺行為よ。」
トウマはマリアの反応を意に介さず指示を出す。
「部隊を二手に分ける。リョウ、ジョージ、お前たちは半数を連れて陽動だ。敵の注意を引きつけてくれ。その間に、残りのものが内部に侵入する。」
いさめる言葉を聞かないトウマの身勝手な態度にもマリアは引き下がらず、翻意を迫り声を荒げる。
「無謀すぎるわ。一度情報を整理して、しっかりと対策を練ってから出直すべきよ。」
トウマは真っすぐなまなざしでマリアを見つめる。
「……わかってる。合理的に考えればその通りだ。でも、今行かなければいけない二度と機会はない、そういう予感がするんだ。」
敵の拠点があるとわかっている場所にわざわざ向かおうとする者は少ない。その場の恐怖が彼らの足をすくませ、再びここに戻る勇気を奪いかねないと思われた。
トウマの固い決意を悟ったマリアは、それでもなんとか翻意を促すが、トウマの決意が変わることはなかった。
「……わかったわ。命令には従う。でも、無理だと判断したらすぐに撤退するわよ。」
トウマは再び仲間たちに指示を出す。
「陽動部隊は敵をひきつけ終わったらそのままセーフハウスまで退却しろ。俺たちを待つ必要はない。」
「了解した。」
リョウがいつもの無表情で答えるが、その声はかすかに震えていた。
ジョージは苦虫を噛み潰したような顔で苦言を呈する。
「まったく、無茶を言う。勇敢と無謀をはき違えるなよ。……また後で会おう。」
陽動部隊が出立した後、侵入部隊も動き始める。
「ハル、準備はできたか?」
ケイが緊張するハルに軽快に声をかけた。
「うん……でもさ、ボクたち、生きて帰れるのかな?」
怯えた表情を見せるハルはケイに問いかける。
ケイはそんなハルの背中を強く叩き、笑顔を見せた。
「何言ってんだよ、ハル。心配するな、俺たちならやれるさ。それに、敵の拠点なんだ、とんでもないお宝が見つかるかもしれないぜ?」
「そうだね……」
ケイの言葉に励まされ、ハルは気持ちを奮い立たせた。
「がんばるよ。」
それぞれがそれぞれの役割を果たすため配置へと移動を開始する……