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第2章第1節:未踏の地平 I

 セーフハウスに帰還したトウマたちは、先ほど遭遇した人影について議論を始めていた。その姿は人間と見間違うほどだったが、何か異様な雰囲気を纏っており、彼らはその正体に困惑していた。


「一体、あれは何だったんだ?」


 ケイは床に寝そべりながら、気だるそうに疑問を口にした。


「見た目は人間だったけど、他の機械知性(オートマトン)には攻撃されるどころか、むしろ指示を出してたように見えたんだよな……」


「あの人影、本当に新型の機械知性(オートマトン)だったのかな。もし、機械知性(オートマトン)だったとしても、どうして人の形にする必要があるんだろう?」


 ハルはケイと同じように床に寝そべり、答えの出ない疑問に思案を巡らせていた。


 今までに何度も交戦してきたトウマたちには、機械知性(オートマトン)が形状を人型にする理由が理解できなかった。


 日常生活において、機械が人の形を模すことに利点は多い。なぜなら生活空間にあるもののほとんどが人間が使うことを前提に作られているからだ。例えば、ドアノブを回す、階段を上る、狭い通路を通るといった動作は人間の身体に合わせて設計されており、人の形であることが最も効率的だ。


 人々がサイボーグ技術で機械の体を手にした後も人間の形にこだわるのも心理的な抵抗以上に利便性の問題が大きい。しかし、純粋な機械知性(オートマトン)にとって、人型という形状は無駄が多い。戦闘効率を考えれば、四脚や車輪など、より安定し強力な形状のほうが合理的である。彼らには、なぜ機械があえて人型を選んだのか、その理由がどうしても見えてこなかった。


「人間に紛れ込むためなのか、それとも別の理由があるのか……」


 マリアは眉をひそめて自問気味にひとりごとを言う。


「俺たちがあいつらに敵わないのは分かり切ったことだ、小細工をする必要があるとは思えない。」


 リョウはいつもの無表情で、マリアの考えを婉曲に否定する。


 事実、彼らの火器は機械知性(オートマトン)に対してほとんど打撃を与えられず、戦闘において人類は常に劣勢を強いられていた。そんな圧倒的優勢な状況で、機械知性(オートマトン)があえて人型にしてまで小細工を弄する理由が見えない。


「そもそも問題はそこじゃないだろう。あいつの戦闘力を見ただろう。あれが敵になるなら脅威は計り知れん。」


 ジョージは性能を重視し、形状にはそれほど関心を示していない様子だった。


 他の隊員たちも次々と意見を述べ、議論はなかなかまとまらなかった。


「でもさ、あれがもし人間ならどれだけ心強いか考えてみろよ。何とかして仲間に引き込めないかな?」


「いや、楽観的すぎる。敵か味方かもわからないんだ。」


「これ以上敵が強くなるなんて考えたくもないな。」


 活発な意見が飛び交うが、答えは一向に出ず、行き詰まりの様相を見せ始めていた。みんなが口を閉ざして一瞬の沈黙が訪れた後、今までの話し合いに加わらず静観をしていたトウマが口を開いた。


「よし、ここでどれだけ憶測を重ねても答えは出ないだろう。それなら行動するしかない。」


 彼の目には未知に対する高揚が宿っていた。


「正体を突き止めるために、もう一度探索に出るぞ。再び奴を見つけ出し、必要なら接触する。」


 マリアは驚いたように目を見開き、反論しようとした。


「あれが何かもわからないのに、また危険を冒すつもりなの?物資なら十分集まったのだから一旦出直して――」


 トウマはマリアの言葉を遮り、真剣な表情で彼女を見つめた。


「確かに危険だが、今後のために情報を集める必要がある。一度戻っていては時間が経ちすぎてしまう。それでは再び発見できるかもわからない。今動かなければ、きっと後悔することになるだろう。」


 確かに彼の言い分ももっともだった。味方に出来るなら大幅な戦力向上が見込める。新たな脅威となるとしてもあらかじめ事態を推し量る重要性は高い。


「わかった。あなたの言う通りだわ。正体くらいは突き止めておくべきよね……」


「ありがとう、マリア。」


 トウマは軽く頷き、仲間たちに目を向けた。


「全員、準備を整えろ。次はあの人型の正体を突き止める。議論や憶測を重ねるより、行動することが一番確実だ。」


 各人がそれぞれ荷物をまとめ、再探索へ向かう支度を始めた。皆が再び未知の存在と向き合う覚悟を決める中で、トウマはひとり、停滞から解き放たれる期待に胸を膨らませ、冒険心で満たされていた。


「よし、行こう。全員、気を引き締めていくぞ!」


 トウマが声を掛け、隊員たちは準備を整えた。


 月が隠れ灯りのない闇夜の中、彼らは再び探索へ向かった。誰も口を開かず、静寂の中で足音だけが響いている。その中で、トウマだけが体を巡る脈動を、まるで運命の歯車が動き出す音のように感じていた。







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