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第1章第6節:未知との邂逅 VI

 トウマたちは廃ビルの影へと移動し、さらに観察を続けていた。すでに日は高く昇り、太陽の光が瓦礫に反射し、昔日の人類の街が照らし出された。


 人影が近くにいる数体の機械知性(オートマトン)に何か指示を出すかのように手を動かし、それに合わせて機械知性(オートマトン)たちが瞬時に反応し、整然と動く。その様子は、まるで兵士が軍事演習を行っているようであり、トウマたちはその光景に目を奪われた。


「人間が機械知性(オートマトン)と合同で演習でもしてるというのか……」


 トウマは低く呟いた。


「ほう、機械知性(オートマトン)がパートナーとダンスの練習でもしてるのか?やつらにそんな趣味があるとは知らなかったな。」


 ジョージは冗談を口にするが表情は固いままだったため、冗談と気づくものはいなかった。


「人型の機械知性(オートマトン)……」


 誰に向けるでもなく、ポツリとリョウが呟く。


「人型の機械知性(オートマトン)……?」


 マリアが困惑した表情を浮かべながら言った。


「そんなもの、本当にありえるの……?」


 トウマも驚きを隠せなかった。彼は大きく目を見開き、前方の人影に視線を戻しさらに深く観察する。


 まだ人類文明が健在だった時代、サイボーグと機械知性(オートマトン)が混同されるのを避けるため、人間の形状に近い機械知性(オートマトン)を製造することは厳しく禁じられていた。その後の反乱以降も人型の個体が出現したという情報はなく、どのような文献にも記述はなかった。トウマたちもこのような存在と遭遇はおろか噂すら聞いたことがなく、彼らにとっては全く想像もつかないものだった。


「まだ敵と決まったわけでないが、どうする?接触するのか?」


 ジョージが尋ねた。その声には明らかな緊張が込められていた。


「いや、今はこのまま様子を見よう」


 トウマは迷いを残しつつも答えた。


「あいつが人間であろうと、人の形をした機械知性(オートマトン)であろうと、近くには他の機械知性(オートマトン)が控えている。接触すれば戦闘は避けられない。今は様子を見て、できるだけ多くの情報を集めよう。」


 彼らは風雨にさらされ隙間だらけになったビルの壁面に身を潜めながら、正体不明の人影の動きを注視した。


「もっと近くで観察できないだろうか」


 トウマは体を起こし、視線を人影へ向けた。


 そのとき、人影が突然こちらを向き、何やら指示を出すような動作を見せた。トウマたちはとっさに物陰に隠れたが、その瞬間、近くにいた他の機械知性(オートマトン)たちが反応し、トウマたちのいる付近を攻撃し始めた。


「うわっ、見つかった!」


 ケイが低く叫び、ハルが慌てて身を伏せる。


「いや、当てずっぽうだろう、まだ見つかったとは限らない。」


 トウマは耳をつんざく射撃音の中でも動じる気配がなかった。敵の銃口と視線の動きから、正確な居場所までは特定されていないと判断した。


 機械知性(オートマトン)たちは備え付けの電磁投射砲でトウマたちがいる隣のビルを射撃する。投射された鋼鉄の弾雨がビルの壁面を削り、破片があたりに散らばる。支えを失い衝撃を受けたビルが自重に押しつぶされ倒壊を始める。轟音が響き渡り辺り一面に砂煙が舞い、トウマたちは人影を見失う。


「どうするの?見つかってないなら、このまま隠れてやり過ごす?」


 ビルが倒壊する様子を目の当たりにしても泰然としているトウマの様子に勇気づけられ、余裕を取り戻したマリアが問いかける。


「いや、いったん退こう、いつものセーフハウスまで退却だ。」


 トウマは撤退の指示を出すと即座に行動を開始した。迷いのない迅速な判断にみなも落ち着きを取り戻し指示をすばやく実行する。


 攻撃は止む気配がないが、彼らはビル倒壊の砂塵に紛れその場から離れた。幸いにも発見はされておらず仲間たちはそれぞれが周囲を警戒しながら、目的地のセーフハウスへ撤退を開始した。


「あれはいったい何なんだ……」


 トウマは自問しながら走り続けた。疑念が頭を支配していたが、その一方で、未知の存在への興味が恐怖を上回り、彼自身、心の奥底で湧き上がる興奮を抑えられなかった。







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