プロローグ第1節:サイボーグの戦争
日は既に沈み、農村を包む静寂は不気味な緊張感に変わっていた。乾いた土の匂いと崩れかけた家屋が並ぶ中、砂塵に隠れるようにしてサイボーグ兵士の小隊が整然と進む。農地の中に築かれたゲリラの防衛拠点が目前に迫る。トラップや待ち伏せを警戒し全員が感覚センサーの感度を最大に引き上げ敵の動きに神経を研ぎ澄ませる。
「熱源反応、3時方向。」
一人の兵士が低い声で告げると、全員がその指示に従い即座に体勢を変える。遠くの茂みの中から火花が飛び散り、銃声とともに弾丸の嵐が吹きすさぶ。
重機関銃の曳光弾が夜闇を切り裂き、泥の壁や乾いた地面に激しく衝突する音が響く。サイボーグたちは機械的な感情を乱すことなく、携行するカーボンシールドで弾丸を防ぎつつ、反撃の準備を整えた。
陽動を行う間に、別の分隊が拠点の反対側で夜の闇に紛れて侵入する。混乱に乗じて兵士たちは驚異的な静音機動能力で見張りのゲリラの背後に忍び寄る。
「見張り、排除。」
低い声で指示が飛ぶと、兵士たちは一瞬で距離を詰め、敵の首筋に内蔵ナイフを突き立てた。他の見張りが異変に気付く間もなく、次々と音もなく無力化して行く。
拠点中央にある司令部と思しきバラックに到達すると、全員が一斉に突入を開始した。閃光弾が投げ込まれ、一瞬でゲリラの視界が奪われる。銃撃が始まり、圧倒的な火力で敵を即座に制圧していった。
一方、広場ではすでに時代遅れとなった戦車と装甲車がサイボーグ兵士と激しい戦いを繰り広げていた。戦車の砲撃が乾いた大地に大きなクレーターを刻む中、兵士たちは爆発で巻き上げられた砂煙に紛れ、死角を縫うように俊敏な機動で装甲車に近づく。携帯火器を展開し、正確に敵の車両を破壊する。
戦車の砲塔が敵を捉えようと旋回するが、その鈍重な動きでは小回りの利くサイボーグに追いつけない。戦車は次々と撃破され、装甲車も無力化されていく。広場全体が火と煙に包まれ、兵士たちは機械的な無感情さを保ちながら戦いを続けた。
「状況終了、撤収。」
最後の抵抗をするゲリラ兵士を無力化し、広場全体が再び静寂に包まれた。黒煙が立ち昇り、戦いの跡が広がる広場には、破壊された装甲車と戦車の残骸が散らばっている。敵の抵抗が完全に終息したことを確認した兵士たちは、迅速に撤収の準備を進めた。
戦争の形は劇的に変わった。サイボーグ技術の発展により、戦場では人間と機械の境界が曖昧になり、戦争の様相がこれまでにないほど変化していた。体を機械化された兵士たちは生身の兵士を遥かに凌駕する戦闘能力を持ち、従来の戦争の常識を覆していった。
サイボーグ兵士は、強力な機械の身体を持ち、驚異的な精密性と耐久力を誇っていた。彼らは自動車並みの速度で走り、無手で厚い装甲をも簡単に貫通することができた。もはや、戦車や航空機といった従来の兵器は時代遅れと化し、戦場での主役はサイボーグへと移行していった。