銀狼の狩り IV
「どうも気がかりだ。レッド5の宙賊でもあんなものをただで手にすることなんてできないはず……。」
『ええ。どうやら、何か裏があるようです。』
「ああ、この件は後で詳しく調べておこう。ひとまず、最後の仕事に取り掛かろう。」
──────
─貨物船内─
「クソッ、ボスと繋がらねえ。」
「急に明かりが消えるなんてな。予備電源はどこだ?」
ガコン!
上から、大きな物音と共に強い振動がした。
「上だ。侵入者か?」
2人の男は銃を手に、慎重にハッチへ上がった。
ピーと音がした。
これはハッチのロックが解除されたとかの音声だ。
しかし、ロックは中からしか解除できない筈である。
2人の男はハッチに向けて銃を構える。
ガコッ、キィ──────
「見張り2人。直ちに排除する。」
銃声が2回鳴った。
赤い液体が宙に舞い、2人の男は水に浮いた魚の死骸のようにピクリと動かなくなった。
そして、1人の少年が舞い降りた。
「出入り口クリア。」
─────
まずは艦内の敵を掃討する。
見張りの男の死体から端末を取り出したが、起動しなかった。
やはりさっきの巨大兵器への一撃で電子機器がショートしたようだ。
壁に設置された移動用のベルトコンベアも停止している。
無重力空間での移動は地上を歩くこととは話が違う。
だが、問題はない。
俺はブーツに内蔵した小型推進ユニットを起動した。
これは俺が開発した無重力空間でもスムーズかつ素早い移動を可能にする特製のブーツだ。
現在、艦内は電気系統の機能が停止し、混乱している状況だ。
おかげで周囲は真っ暗だ。
俺は嗅覚、聴覚といった感覚が敏感だ。
敵の位置は充分わかる。
後は迅速に、確実に仕留めるのみだ。
まずはブリッジ。
すると、予備電力が起動したのか明かりがついた。
ブリッジには先程、通信で話した男と数人の賊がいた。
男達は一斉に銃を構える。
「お、お前は……一体何なんだ!?」
「さあ?ただの賞金稼ぎ、これがお前の望む答えかわからないが。」
「こ、この悪魔め!!」
パニックになった男は銃を撃った。
ところ構わず撃つため流れ弾が味方に当たっている。
しかし少年とって銃弾を避けるのは容易いことだ。
素早い身のこなしで銃弾を避けながら銃を撃つ。
ドン!!!─────
1つも外すことなく、その場にいた賊を一撃で仕留めた。
思い通りに動くことのできない無重力空間での戦闘は難しい。
特殊な武装を装備すればその問題も解決するが、それでも実戦の能力がないと話にならない。
しかし、彼のその能力は高水準で装備も整っていた。
これらの要素がこの圧倒的な差を生み出したのである。
ブリッジ、制圧完了。
すぐさま次の行動に移る。
通路を巡回中の2人。
排除。
エンジンルーム。
制圧完了。
貨物倉庫。
制圧完了。
艦内の熱源反応、2つ。
そのうちの1つは俺。
残る1つはこの貨物倉庫だ。
しかし、気配は全く感じない。
それにおそらくこの中に、今回の目標がある筈だ。
「どれも武器やドローン兵器といったものばかりだ。それも特徴的に帝国産……ん?」
匂いがする。
なんとも不思議な匂いだ。
熱を感じる。
鼓動のような音もする。
しかし、敵意は感じられない。
俺は銃を構え、匂いのする方へ向かった。
音を立てず、慎重に身体を進める。
そしてそこには、棺のような形をした機械があった。
この倉庫で一際変わったものといったらこれしかない。
おそらくこれが、今回の目標。
平均的な大人の身長くらいの高さだ。
中に何か入っているようだが、この形状と大きさ。
まるで人を入れるためのようなものだ。
俺は通信を繋ぎ、セバスに連絡した。
「セバス。目標を発見した。回収するから手伝ってくれ。」
『かしこまりました。すぐに向かいます。』