銀狼の狩り III
『ボス!レーダー探知範囲外に敵影発見!』
斥候に行かせた部下からの通信でようやく敵の位置を炙り出せた。
「数はいくつだ!?」
『数は……1機のみです……。』
「1機のみだと!?バカ言ってんじゃねえ!!」
『い、いえ!本当です!敵は正体不明の武器で遠方から────』
激しい轟音と共に、通信が途絶えた。
「チッ、全部隊!敵の位置に向かえ!たった1機でできることなんてたかが知れてる!全員で囲んで潰せ!」
もしあれが本当だとしたら、数はこっちが圧倒的に優利だ。
敵さんは陰でコソコソするのがお得意なようだが、隠れる場所さえなけりゃ、何もできまい。
「おい、アレを使うぞ……。」
「え!?し、しかしアレはまだ完全に機能する状態では────」
「うるせえ!!てめえ、俺の言うことが聞けねえのか?」
「い、いえ!すぐに準備します!」
俺らに喧嘩を売ったこと、後悔させてやる。
──────
マルコシアスから放たれたレーザーは一発も外れることなく、全て命中した。
いくつかの花が闇の中に咲いた。
『母艦周囲の戦闘機はあらかた片付け終わったようです。』
「ああ、フェーズ1終了。これよりフェーズ2に移行する。」
『かしこまりました。』
マルコシアスはゆっくりと貨物船に近づいた。
貨物船はマルコシアスより遥かに巨大だ。
その差は猫と象のようだ。
ただ、あのタイプは速度があまり出ない。
マルコシアスなら一瞬で追い越すだろう。
脱出艇のハッチは開いてない。
賊はまだあの中にいる。
「接近して。乗り込むから。」
『お待ちを。高エネルギー反応が検出されました。』
「……ん?」
予想外の事態。
すぐに視線を貨物線に戻すと、貨物船に接続された巨大コンテナから何かが現れた。
それは黒い球状の形をしており、所々赤く点滅している。
『マスター、通信です。チャンネルを繋げますか?』
「……頼む。」
セバスがメインヴィジョンを操作すると、画面に大柄なスキンヘッドの男が映し出された。
『よお!聞こえてるか?お前が俺らの計画を台無しにした奴らか?』
『カメラは起動していません。ご安心を。』
「助かる。……そう、俺だ。」
『んん?ガキの声?おいおい、こりゃ一体何の冗談だ?』
「ガキじゃない。根拠もなく、そう判断するものじゃない。」
『ッチ、うるせえな。わかったよ。さて、本題に入ろうか。お前、このまま大人しく手を引きな。そうすりゃ命は助けてやる。』
「悪いがその要求を受けることはできかねる。それに、命は助けてやる……か、それはこちらの台詞だ。お前達こそ大人しく投降しろ。命の保障はしてやろう。」
貨物船には大した装備はない。
戦闘機も一つ残らず消した。
今の戦力はどう見てもこちらが圧倒的に優位だ。
だと言うのに、何だ?あの表情……それにあの巨大な物体は?
『フン、その態度を直す気はないようだな。ならいい、ここで消えな。』
【警告。濃密なエネルギー反応を検出。】
「!?」
巨大な物体が動き始めた。
球状の物体の外殻が開き、内部から巨大な砲身が現れた。
「あれは……」
『ハッハーー!!!驚いたか、こいつは帝国の最新兵器さ!並の戦艦のシールドなら余裕で貫くことができる。これでお前達は終わりだぁぁぁ!!!』
砲身の内側から徐々に光が強くなっていく。
【警告。高密度のエネルギーが収束しています。この船のシールドでは簡単に破られます。】
あの巨大兵器、こちらが数発撃ったところで大して効果はないだろう。
「セバス、あれをやるよ。」
『はい、マスターの御心のままに。』
『ハッハッハ!!どうした?黙り込んじまって。まさか、こいつの恐ろしさを思い知ったか?なら、もう一発あれをお見舞いしてやる!!!』
【巨大兵器のエネルギー充填完了までおよそ1分と推測されます。】
1分……充分だ。
『準備、整いました。』
「わかった。聞こえているか?悪党。」
『なんだ、今更怖気付いたのか?もう遅い。』
「お前は、切り札を安易に出すべきではなかった。」
『ああ?どういう意味だ?』
「君がエースを出そうと無駄なことだ。俺の手札には、ジョーカーがある。」
『ああ?だからどういう意味d─────』
通信を切った。
こんな会話に時間を潰すなど、無駄でしかない。
【エネルギー充填完了。本機はスナイプモードに変形します。】
システム音声がそう告げると、ガコッという音と共に、振動が壁から伝わった。
マルコシアスの、隠された姿。
赤く光る船灯が銀色に輝き出す。
そして、機体の一部が変形し、巨大なロングバレルが構成された。
誰にも明かされない奥の手。
何故なら、これを見たものは────
「さあ見ろ。これが、奥の手というものだ。」
全員生きていないのだから──────
≪Active code "Silver Burret"≫
銀色の光が、闇を撃ち抜いた。
全てを撃ち抜く弾丸。
その弾丸は不滅の魔をも殺す、必殺の一撃。
誰であろうと、生きて逃れることは許されない。
【目標の消滅を確認。スナイプモードを解除します。】
「よし。最終フェイズ、行こう。」