女の子?いや男の子!
「ねえ凛音本当にありがとうね、とても嬉しかったよ。・・・・・ごめんね。」
そういう彼女の目は酷く震えて見えた。
一体どうしてこうなったのだろう。
きっかけは二ヶ月前・・・・・・・・
公園での不思議な出会いから一年と幾つかの月日が流れ現在、4月中旬。僕、佐藤 凛音は新たなる春を迎え、高校二年になった。
僕が通っている音羽高校では、高校生は大人と子供の狭間にあるという常識が他よりも根強い気がする。そのおかげかせいか、生徒たちは皆大人らしい精神と子供らしい愛嬌が求められている。
何を捨てればいいのだろうか。何を拾えば僕はみんなに追いつけるのだろうか?
そんなことを考えるのは無駄だと皆、次第に理解していった。
二年に上がる頃にはもう皆が青春という眩いものに目を瞑り、変化していく自分に身を任せている・・・・・・・ふぅあ〜なんか色々考えてたらねむにゅむにゅ
バシンっと後頭部に何か衝撃を感じた。
「やいやいやい佐藤くぅーん、二年最初の授業で居眠りとはいい度胸だなぁ?」
「あっイシマルセンセイ、キョウモカッコイイデスネ!」
「おっおうそうだな?」
ふっちょろいZE
「聞こえんだよ、早く問題解け」
「いてっ」
ふっ先生も甘いな、ふふふ
「佐藤君って少し・・・・その、あれだよね」ボソボソ
「うん。なんか厨二病ぽいっていうか・・・」ボソボソ
「変だよね」ボソボソ
「静止画だったかっこいいのにね。」ボソボソ
いかん雨が降ってきたな。えっ雨なんか降ってないって?いや雨だよ・・・・・。
「ねえ凛音、今週の土曜遊びに行こ?」
そう話す彼は新藤 屯丸中性的な顔立ちに、ミニアムウルフの髪がと特徴的な僕の友人だ。
「いいね、どこに行く?」
「ん〜決めてない!」
「じゃあ駅行かないか?カラオケとか行きたいし。」
「さぁーんせい。どうせだったら昼飯も食べてこ!ボク新しくできたカレー屋が気になってるんだけどさ、どう?」
「確か結構本格的なとこだろ、ナンもあるとか。」
「そう!そうなんだよ!ボク、ナンを食べたことないんだよぉ だからさ!一緒に食べん行こうよ、凛音?」
そう言いながら屯丸は少し上目遣いをしていた。くっ・・かわいいっ
僕は視線を逃すように外に向けた。なるほどグランドでは今は野球部が練習をしているのか・・・・。
ー屯丸は可愛いーそれはこのクラスの男子共通の認識だったりする。しかし僕が屯丸のことを「彼」と呼ぶように、彼は男なのである・・・。男なのである!!!
これによりクラスの男子は「屯丸は女性である!」と言う性別懐疑派閥、「屯丸は良き友人だ。けっ・・けしてやましい気持ちなどなどない!」という屯丸友情派閥、そして「男か・・・。アリ!!」という何かに目覚めてしまう派閥。現在、我がクラスの男子はこの三つの派閥により混沌を極めていた。
ある生徒は女子用ネックレスをプレゼントしたり、ある生徒は自分の顔を殴りながら、屯丸を遊びに誘ってみたり、ある生徒に至っては放課後、屯丸を校舎裏に呼び出したとか・・・・うん、改めて見ると変だなこのクラス・・・・。
そんなことが続いたせいか、屯丸はクラスの男子と会話することが少なくなった。
「ねぇ凛音。何度も悪いんだけどさ、ボクは男だからね?」
「大丈夫。分かってるよ。」
「ふふ、ありがとっ」
時折、そんな風に釘を刺されるのだ。余程トラウマだったのだろう。
「あっ僕今週給料日だ・・・・。」
「そういえば凛音ってバイトしてるだっけ?」
「そう、駅前にある商店街にあるフードコート店。結構楽しいんだけど屯丸もどう?」
「へっ!?ボク?」
「うん。屯丸ってすごい仕事できそうだし、何より屯丸と一緒に働けると僕が嬉しな」
「う〜ん、凛音からの愛が重くって困っちゃうなー」
「バカ言え」
「いった!?うわー凛音ってそういうことするんだ、うわー」
「ごめんって」
「謝るならよし!」
いいんだ・・・・。
「もちろん奢らせていただきます」
「ゴチっす」
現金な奴め・・・・。
「それにしても今日は風が気持ちいいな」
そう言いながら僕はふと窓の外を見た。放課後が始まってからまだそれほど経っておらず、空にはまだ青さが残っている。いつもと変わらない放課後だ。
そんなことを考えながら目を瞑り風を感じていると、後方から屯丸の声が聞こえた。
「凛音危ない!!!」
何が・・・そう聞こうと振り返った瞬間、僕は後頭部に強い衝撃を感じた。
そこで僕の記憶は終わっている。
後で聞いた話だがどうやら野球部の打った球が飛んできたらしい。特に大きな怪我はなかったし、後でたくさん謝罪してくれたので気にしないで欲しいと相手には伝えた。謝るならよしってやつだな。
屯丸もずいぶん心配してくれたみたいで、僕が保健室で目を覚ました時には泣いて飛びついてきた。
ったく、誰だよ「今日は風が気持ちいいらしいから窓を開けとくといいと!」って言ったやつは・・・・・・。