とある旦那君と転生者奥さんの晩御飯
連載していたシリーズのキャラで夫婦短編。
リハビリがてらなので短いです。
これはとある夫婦の話。
妻は元三十路の異世界転生者。
夫は妻が転生した先で居候していた家の息子。
前世での年齢を加味すると結構な歳の差夫婦となる。
そんな夫は彼女にぞっこんで、仕事が忙しいという事で今夜のご飯は自分が作ると言ってくれた。
「あのさ、確かに君が作ってくれるって言ったよね。それで、これは何?」
妻、リンシアは腕を組みテーブルに並べられた料理を見る。
「え?いや、晩御飯だけど……」
「えーと、私が何を言いたいかわかる?」
「美味しそう、とか?」
なるほど、とリンシアは頷く。
確かにおいしそうな料理だ。男の子にしてはなかなかやると思う。
「美味しそうではあるよね。でもね、問題は色なんだよ」
「え?もしかしてもっと生に近い感じで焼いたのが好み?」
「そうそう、血が滴る様なレアがね……って違うよ!一面茶色なんだよ!今日の献立言ってみて!!」
「えーと、朧鳥のから揚げ、森豚の炒め物、ヤマタ牛のステーキ……」
夫、タイガは自身が作った料理の名を挙げていく。
リンシアは正直頭が痛かった。
一食で数日分の予算を使っているのも問題だがその辺は結婚時に覚悟していた。
何せ結婚前からよく食べる人だったから。
「ちなみに森豚とヤマタ牛は野生のものを仕留めて処理も自分でしました」
「うわぁ、凄い!でも問題はそこじゃない!」
「まさか魚が食べたかった?」
「あのさ………お野菜は?」
核心を突く質問にタイガは視線を逸らす。
「あの、いや……」
「お肉ばっかりだよね?しかもスープまでお肉入ってる。お野菜が微塵も見えないよ?透明スキルで隠してる?」
「いやぁ、野菜はなぁ。えーと……」
ある程度はわかっていた。
何せ昔から彼の家の子供は野菜が嫌いだ。
だから彼の家に居候している時はあの手この手で野菜を調理して食べさせていたのだ。
「しかも、ティアのごはん。これまで茶色だよ!?」
「脂身は取り除いて細かく刻みました」
「そこはえらい!でもお野菜も入れて欲しかった!!」
「ぴっぴー!!」
娘のティアモは嬉しそうに肉をふんだんに使った離乳食を食べていた。
きっとこの子も大食いになるだろうと頭痛を覚えつつ、可愛らしさに頬を緩ませる。
「ごめん、俺、どうしても野菜は避けちゃって……」
がくりと項垂れる夫を見て子供だなぁと呆れつつも、それでも自分の為にご飯を作ってくれたことがとてつもなく嬉しかった。
「もういいよ、タイガ君。お野菜のメニューは私が作る時にしっかり入れてあげるから。作ってくれてありがとうね」
彼の額に軽くキスをするとそれだけで彼は顔を赤くし、キスされた箇所を手で押さえる。
そんな彼を愛おしく思い、リンシアはこちらの世界でようやく手に入れた幸せを噛みしめるのであった。