ヘリウム王国では
簡単な葬式だった。いや、その前にもっと簡単、いや簡単すぎる結婚式があげられていた。花嫁は遺体だった。小柄な聖女の体は、その聖女としての力を酷使を続けた結果、さらに小さくなっているようだった。
ヘリウム国王ネロは、妻を娶り、すぐにその葬式を行った。王妃の正装を纏った小柄な、幼馴染の相思相愛で、引き離されてしまった聖女の遺体は、これだけはということで、戦時下ではあったが、何とか用意された、王妃にふさわしい棺に納められた。国民の誰もが、それに反対することはなかった。
「全ては、国王である私が無能だったばかりに・・・。」
ネロは、涙をこぼすのを抑えられなかった。
「俺がもっと・・・所詮、やっぱり勇者と勘違いされた・・・」
「私は・・・何が戦う聖女の力をご覧に・・・なんて・・・。」
と悔しがる二人もいた。
葬式は短時間で終わった。参列者は、皆すすり泣きをしない者はなかった。まだ、領内に魔族の軍はいるし、反乱軍はまだ健在、これに、近いうちにアムルダム共和国軍が加わるという情報が入っている。アムルダム共和国軍が来る前に、魔族軍を撃退、反乱軍を降伏させ、防衛体制を整えたいところであるが損害も多く、軍の立て直しと防衛線、砦や野戦陣地の補強を進めることで精いっぱいだった。
「彼女が来たら、俺達だけで・・・。」
「この単純頭・・・。全然賛成よ。」
"今回は、最後までやり通したいからな。""分かっているわよ。"
二人はあの日を思い出していた。
「な、何を?あなた方は誰に刃を向けているかわかっいるの?」
王女であるタビアの前で、彼女に剣を向けている兵士達は、彼女のよく知っている近衛兵の面々だった。
「真の勇者様を追放した罪、ひいては国に対する謀反の罪で処刑します。」
「は?」
彼女は何がなんだかわからなくなった。さらに、次の瞬間誰かに体を持ち上げられ、宙を飛んでいた。
「全く。爪が甘かったね、王女様。」
彼女は、偽勇者にお姫様抱っこされていた。
「偽…ゆ、勇者様?死んだ…ご無事だったんですね?良かった、心配していたんですよ、本当に。でもいつの間に?」
複雑な表情を浮かべた王女は、それ以上のことを考え、頭の中を大回転させていた。“こいつが死ななかったから私が?こ、この疫病神!い、いや、そうはならないか?”
「まず、俺は王女様を囲んでいた衛兵達の中に紛れ込んでいたんだよ。一人を気絶させて、身ぐるみ剥いでね。仲間達にも殺されかけて逃げる途中でね。そして、王女様、あんたに文句を言ってやろうとしたら…あの様で思わず助けたと言うわけだ。俺が殺されかけたのは、あんたの差し金だろう?」
「う…しかたがなかったのよ!そうでもしないと…。」
タビアは、唇を噛んだ。
勇者召喚をした時、2人が召喚されてきた。片方は無能と見て、体よく追っ払った。金とか装備とか、さらに慣れない異世界での生活を助けるために奴隷もつけてやった。それは、タビア王女とその時は真の勇者と思われたハドロンの願いからだった。その後は仲間達とともに、順調に魔王討伐の旅を苦闘しながら続けたハドロン、成長もしていたと自他ともに思っていた、とそれを王都で支援して、国政をがんばっていたタビア王女の元に、無能と思い追放した男がすごい力を発揮して、さらに最強の仲間達(主に恋人達である)と実積をあげているという情報だった。即座にハドロンを斬り捨てることを決意したタビア王女は、彼を王都に呼ぶ戻すと同時に、真の勇者を招き、ハドロンを彼の前で、かつての彼と同様に追放するなど画策した。成功したはずだった。ハドロンは、一抹の不安はあったが、彼には助けた面もあると思い、また、タビア王女の言葉を信じて、勇者を解任されて、後は冒険者として自由な旅を仲間達とすればいい、という甘い考えで王都に帰還した。結果は、ハドロンはもちろん、タビア王女も経験の浅い若い女でしかなかった。彼女が動いた時には、政敵に囲まれていたことに気がついていなかったのだ。彼には捕縛、投獄が待っていて、それはタビア王女が半ば、自分の保身のために画策したもので、その前日まで、
「真の勇者が別にいたって、私の勇者は、あなたよ。」
「あんたにどこまでもついて行きますよ。」
と言っていた仲間達は、恋人のはずだったハーフエルフや獣人の美女達、一斉に彼に自分の得物を向けたのだった。タビア王女にも捕縛、投獄、処刑が待っていたのだ。それに、2人は思っていた以上に、真の勇者から恨まれていたのである。彼は、2人にざまあしなければ収まらなかったのである。
とにかく逃げた2人は、王宮内を知るタビア王女の案内で、逃走に必要なものを、とにかくかっさらって、ハドロンがタビアをお姫様抱っこして、地下道というか下水道というかを駆け抜けて脱出したのである。そして、もう一人。駆けて、駆けて…この段階では流石にお姫様抱っこはしなかったが、タビア王女が疲れると背負い、やはり時々はお姫様抱っこしながらではあったが、彼女も駆けた。そして、国境付近で男達に囲まれた女が一人、顔見知りの女だった、を2人は目にした。
隣国の、戦う聖女と二つ名を持つ、トーラだった。彼女はハドロンのチームより一足先に自国に戻っていたはずだった、確実な保身のために、彼女は真の勇者の情報で、ハドロンのことを見棄てるつもりだった。タビア王女と同様だった。そして、2人は犬猿の仲だった。
「とにかく助けるか?」
「そうね。」
タビア王女は、簡単に同意したので、ハドロンは少し驚いた、てっきり、
「放っておけばいいのよ。」
と言うのではないか、と思ったからだ。
「じゃあ、助けるか!」
と彼女を降ろして、彼は突っ込んだ。不意打ちに近かったので、瞬く間に半数以上が彼の剣や拳、蹴りで気絶し、剣は峰打ち、拳も蹴りも手加減していた、残りは逃げ散った。
「一体どうしたんだ?」
差し伸べられた手を握って、
「もう既に、私に替わる聖女がいたのよ。それで、私は偽物だと言われて…。」
立ち上がると、涙を流しながら彼に抱く着いた。タビアは、強引にそこに割り込み、
「このくらいの連中に遅れをとるあんたじゃないでしょう?」
戦う聖女の二つ名は伊達ではない、そのことは戦いの旅でよく見知っている。
「何とかここまで蹴散らして来て…疲れて、お腹も減ったし…、本当に疲れたのよ…。」
彼女の顔は、心身ともに疲れきっているようだった、本当に。
「あんたにさえ…あんたさえいなければ…!」
とハドロンに掴みかかろうとしたが、彼に両手首を捕まれて、動きが止まった。
「お互い、それで利益があったわけだろう?俺をとらなかったら、今どうなっていたと言うんだよ?」
その後、彼女は彼の肩で泣くしかなかったし、タビアがそれに加わるように、彼の背中に顔をつけて泣き出した。
それから3人な逃避行を続け、どうも途中の戦いの後逃げ込んだダンジョンの何かに入ってしまい、別の世界に入り、結局ハストール二重王国にはいり、そこで拾われることになったのである。
「今度は、中途半端に逃げたくないな。」
「たまには、いいことを言うわね。勇者様?」
「褒めてくれてありがとう、戦う聖女様。」
「どういたしまして。」