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聖女の窮地

「すまない。もっと早く帰って来れれば…。」

 国王ネロは、幼馴染みにして、恋人である、結婚式を挙げている余裕がなかった、小柄な聖女の遺骸を抱きながら、嗚咽をあげ涙を流すしかなかった。

 可能な限り銃砲と兵力をかき集めて、左翼軍を編成し、素早く野戦陣地を構築して、事前に必要な資材を現地で組み立てるだけにして用意しておき、塹壕、豪を素早く掘れるように部隊と用具を揃えておいたし、予定の戦場、野戦陣地を構築するための測量、設計もしておいた、で魔王軍を迎え撃った。それは、中央の防衛線でも、王都の防備でも同様だった。

 そして、右翼の勇者。

 ハストール二重王国側からの侵攻。

“万全のはずだった。”もっと早く魔王軍は包囲されることを恐れて、退却するはずだったし、王都を攻めあぐんでいるはずだった。

 それが、背面からからの裏切り、防衛線での裏切り、聖女マリーナの力が大幅に思惑を遅らせたのだ。

「私は凡将だった!」

 彼の慟哭に、涙しないものはなかった。


「銃砲が多すぎます。どうして、この国に、こんなに銃砲が装備できるなんて…おかしいです!」

 マリーナは声を大きくして訴えたが、耳を貸す者は魔王軍には、魔王以下誰もいなかった。

 マリーナの言葉は正しかった。

 ヘリウム王国では、もちろん、密にこの2年以上前から銃砲を中心とする兵器の製造施設を拡充して、フル稼働させて銃砲等の確保を図っていた。それでは、しかし足りなかった。その足りない分は、他国からの輸入を行ったが、その大たるところはアムルダム共和国だった。色々と誤魔化すために、第三国を経由したり、代理人を通したりとやって来た。

 ただ、アムルダム共和国は、その事態を把握していた。していたが、なんといまだにヘリウム王国への輸出を行っていた。

「武器弾薬が、我が軍には売却をせず、ヘリウム王国などに、売却を続けられています。臨検、没収する命令書発出を。」

「商売の自由は、絶対だ。わが国は、自由な共和国だ。そのような、軍部優先策などは、認められない。」

「し、しかし…。」

 アムルダム共和国軍総司令官、デロイテルは、ウィッテルの言葉に呆れてしまった、ただ、ただ。

 本格的な同盟諸国、同盟勢力支援に軍を派遣しようという時に、国内の武器商人は高く買ってくれると言うので、とうの母国と対立している、その上にそのうち戦闘を交えかねない諸国にも売却し続けている。アムルダム共和国軍の武器弾薬から全てが充足していない、調達に躍起になっている最中なのに、であり、当の商人達ならまだしも、国の重鎮である宰相がこれである。それでいて、彼はデロイテルに勝利をもたらすことを、確信しているのである。

「ぎりぎりになって抑えれば、効果的だろう?」

 ウィッテルは取ってつけたように付け加えて、苦笑いしたが、デロイテルは全く信じていなかった。愛国心の塊であり、最悪の場合を考えることができる彼は、心の中で神に助けを求めていた。


 その頃、

「待って。それは最初から言ったじゃない?」

 必死に叫ぶ聖女の声を、説明を魔王以下聞く耳を持たなかった。"どうして?あなたはそういう人ではないはずでしよう?一体どうしたの、何が起こったの?"

 ヘリウム王国の結界は、自分からネロを寝取った非力な聖女の死後、全く存在すらしていない状態だったし、ハストール二重王国との国境に張った結界の大半は健在で、そこの女魔法軍は大軍を侵攻できず、侵攻は一部分に留まっていた。勇者の攻撃も、彼女の結界で大幅に弱められたので、損害を少なくできた。自分は、十分役割を果たしていると思っていた、彼女は。銃砲のことだって、事前に注意していたではないか、それを過少評価して大きな損害をだしたのは、そちらの責任じゃないの、と口に出かかったのを飲み込んだ。"それなのに、それなのに・・・。"マリーナは、それでも魔王アルベルトを信じていたから、ハストール二重王国との国境地帯に赴いて、敵側魔族に対する結界を張り、対人間達への結界を張ったりして、彼らの侵攻を抑えるために奮闘した。人間達の協力で対魔族結界はたびたひ破られ、対人間防御結界は、銃砲などの物理的攻撃にも有効であり、人間の魔法攻撃を弱めるが、その反面、その攻撃が強ければ破られるものなのだから、これまた、たびたび破られた。

 それでも、何度も張り直し、ゲリラ的に張り巡らしたりして、彼らの侵攻を遅らせ、壊走する味方の軍を守り、何とか押しとどめるまでやり遂げた。これで、魔王アルベルトも、再び、自分を見直してくれると思って、いったん彼の元に戻った。

 彼のそばに駆け寄ろうとした時、危急の使者が割って入った。彼の将の一人、愛人の一人だった、ヒルデが兵を率いて、ハストール軍の陣地に突入して、大敗、戦死したというものだった。


「あやつらを蹴散らすぞ!我に続け!」

 マリーナが、去った直後だった。

 彼女の前には、人間達の陣地が構築されていた。マリーネが、聖結界で覆っていたから、魔族の将兵はいないと言っていたし、事前に偵察し、そのことを確認していた。さらに、兵力も僅かだった、千人に満たない数だった。これまた、マリーナが銃砲がかなりあるから、彼女の防御結界への銃砲撃から感じたのだが、焦って攻撃などしないようにいっていたのだが、ヒルデはそのようなことは気にしていなかった。さらに、マリーナがわからなかった堅固な野戦陣地などは、なおさらだった。

 一気に、鎧袖一触で蹴散らす積もりで、騎兵隊を率いて突進した。もちろん、彼女自ら、魔法攻撃を放ちながらであるが。

 しかし、各種銃砲弾、それは考えている以上の数と威力、銃砲そのものが強力なタイプで、かつ弾丸・砲弾も魔法で威力を高めていた。何とか陣地にとりついた時、二重三重に巡らされた壕、土塁、障害物に唖然としてしまった。

「ひ、怯むな!」

 彼女は、銃砲弾、矢、魔法攻撃で兵を減らし続けながらも進んだ。

 そして、本陣に突入した。

「よくここまできたわね、その蛮勇を褒めてあげるわ。部下を全員死なしても、自分だけになっていてもね。」

 金髪の聖槍を持った修道女騎士が立ちはだかった。彼女の言葉を聞いて、彼女は自分一人で敵中に孤立していることに初めて知った。

「な、何を…。お前ら如き、われ一人で十分以上だ!」

 だが、既に銃弾により負傷していた彼女は、修道女騎士の槍の一撃、叩きつけられた、でよろめき、魔法攻撃を発動しようとしたが、さらなる銃弾が集中して絶命した。

「卑怯…。」

の言葉を残して。

 彼女を失った軍は、混乱、総崩れとなり、最後は壊滅した。

 マリーナの忠告を聞かなかったせいである、客観的には。彼女は、魔王のためにハストール二重王国の軍を、領土から一掃したい、そのことで彼女の存在価値を魔王に再認識させたい、と考えていたのだった。魔王アルベルトの寵愛が、自分に戻ってくることを期待したのだ。

 それはある意味、成功した。彼女の戦死を聞いて、魔王アルベルトは泣き伏し、慰めようとするマリーナの手を払いのけ、

「お前のせいだ!役立たずが!魔樹を枯らしたおかげで、有益な樹木も枯れて、食用の魔獣も減ってしまった。何とかしろ!」

 端正なはずの顔を歪めて、怒鳴ったのだった。

「アルベルト…そんな…?その顔?…へ?」

 マリーネは、硬直してしまった。単に表情が、ではなかった。顔全体が変わったのだ。彼女の好きなアルベルトの顔ではなかった。そして、へなへなと座り込み、温かい感触が下半身に感じてしまった。“な、何なのよ?私が何をしたと言うの?ね、ネロ、助けてー!”弱弱しく心の中で叫んでいた。それでも、

「わ、私がいなくなって聖結界が消滅したら、どうなると思っているの?」

とすごむ?ことは忘れていなかった。"し、しばらくは持つわね・・・。"


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