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市民のために?

 シチリア王国の内戦の報告を聞きながら、アムルダム共和国宰相ウィッテルは、難しい表情を崩さなかった。反乱軍、彼ら自らは決起軍と称していた、ブルゴニュ大公を中心とした貴族と都市の軍である。アムルダム共和国は、ブルゴニュ大公シアを全面的に、秘密裏にではあるが、援助している。彼が、豊かなルール地方を割譲することや商業的特権を約束しているからである。

 彼の軍が、王都に突入したという報告、盟友の魔王軍、勇者も加わっていることも確認済みだった。この3者は、アムルダム共和国が、提携させたのである。

 もちろん、三者から、利益を得られるようにしている。もちろん、彼は私益など考えてはいない。アムルダム共和国の利益、国益、国民、市民の利益を考えてのことであり、王侯の支配から脱した共和国の独立と市民の自由、権利を守るためである、彼の常々の考え、行動は。

「優勢とは言えないな。」

 聡明な彼は、軍人ではないし、軍事にあまり関心がないが、状況を見て取ることはできた。確かに、王都に突入はできた。アムルダム共和国による賄賂のおかげで、裏切りが国王軍側に発生したからである。それに、さらに魔王軍、勇者とそのチームも加わっている。しかし、後詰めがない。他の戦線では、かえって戦況は不利なくらいである。言うならば、捨て身の攻撃であり、成功しなければ、かなりの戦線で後退を余儀なくされるかもしれない。

”まあ、その時はしっかり見返りと担保を取って、我が軍を直接派遣するか。苦しいだけに、目いっぱい吹っかけてやるか。“

 それで、国民は、市民は豊かになる、笑顔の絶えない国になる、彼の頭の中はそれしかなかった。

 アムルダム共和国と各国との軋轢は、彼は十分理解し、情報を常に収集していた。だが、同盟国、友好国に敵対する国々にも武器でさえ輸出し、海外領土では武力の行使による有利な交易を、相手が弱い場合は当然のこととしていた。ヘリウム王国などについては、

「アムステルダム共和国に併合されれば、全ては解決され、しかも豊かな自由な国になる。」

という態度で臨むのが当然だと考えていた。送った聖女にも、こんこんと説明した。それ以降、ヘリウム王国側の肩を持って、支払うべき金の支払い延期の願いなどを、聖女みずからするという愚かな行為はしなくなった。新たに編入された土地、都市の状況が抑圧と重税に苦しんで、かつ経済が完全に従属状態にあることを、しっかり認識していた。そのことは、生活水準が上がった、少しばかりでも、と言う事実で、正当化し、不満の声は抑圧した。不満を唱える輩は、国王が扇動し、市民社会を破壊しようとしているものだ、だから前国王を強制的に退位させた。しかし、彼は、全く反省することなく、辺境に与えられた領地で富国強兵を図り、策動を止めていない。だから、既に、彼の元婚約者の夫の統治するハーグ公国に、内々に討伐を命じている。

 一連の動き、反アムルダム共和国の同盟が作られ始めているようだと彼は、考え、既に行動を起こしている。これは、市民社会に対する専制主義者の挑戦であり、彼らを壊滅させ、商業的、経済的覇権を確立するよい機会だと、彼は考えていた。そこには、全くの私心はなかった。

「大きな犠牲を払って手に入れた独立、市民の国。それを守らねばならない。国民を、市民を、よく働く者達を豊かに、その国を強くしなければならない。」

 彼は、このことにまい進していた。

 ただし、共和国の議会は、裕福な市民のみにより選出された議員よりなっていた。彼自身は不味しい家柄で、刻苦勉励して豊かな市民となり、国の指導者になったのであるが、それに疑問は感じてはいなかった。


 既に、ヘリウム王国内の大公の一人と、聖女を送った魔王国との提携を完全なものとして、ヘリウム王国を滅ぼし、三分割することで合意、そのための戦略もまとまっていた。

「当然の平和税を踏み倒す違法行為を絶対許さん。市民の税金を取り戻すため、あの国は消えてもらわなければならない。」

 彼は、ヘリウム王国への侵攻の狼煙を上げることにした。

「我が国が提供した聖女を追放した罪を、思い知らせてやらねばなるまい。あの国には、もう神の加護も未来もない。」 

 彼は、冷たく言い放った。


 とはいえ、問題はそれだけにとどまらないこども理解していた。悪の枢軸が結ばれていることを把握できた、アムルダム共和国の情報網は、貿易上の利益のためにではあるが高度に発展していた。それは、当然政治、経済、軍事面でも優れた情報網として機能していた。ただ、唯一の欠点として、貿易、商業、経済情報の収集が第一であり、その他の情報が、二の次的に取り扱われていることである。だから、商売とかに関する情報と比べると、純粋な軍事情報はもとより、純粋な政治、経済情報は、精度や速度に遜色がある。本来、それは別個に収集組織を作っておいた方がよいのである。かつてはそうだった、独立していた間もない国家緊急の時代は。それが、効率化のため、国の柱は貿易の利益、経済の発展であるという考え方が主流になってしまい、現在にいたったのである。

 平時ならよかったが、戦時になると不安が残る。ウィッテも、さすがにそう思ったが、しかし、それを改めると、

「それでは軍の、中央の力が強くなり、ひいては国王とその勢力が強まり、市民の国が脅かされる。」

と考えていた。だから、彼は、担当者への督促で十分とした。

 そして、国の防衛のためにも、軍隊の増強、強化は考えようとはしなかった。軍の派遣、その軍のための増員、装備などの調達には意を注いだが。それが、領地の獲得、利権の確保、さらには略奪品という、国の、市民のための利益に直結していたからである。

 彼には、そこに、そして、自国の生存のため敵対せざるを得なくなった国々との妥協を考える余地はなかった。



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