次々に?誰を、味方にするか?
カントス王国王宮の大広間。王太子ジュールの誕生日の宴が、始まったばかりの頃。当然、もう直ぐ王太子と婚約者ジュリアーナとの結婚式の日程の発表があるはずだった。
「大丈夫だろうな?」
貴族の従者と思われる男が、見事な金髪の美しい令嬢に、神経質な声で確認した。
「大丈夫ですわ。王太子は婚約を破棄して、私と結婚すると宣言し、ジュリアーナが私を虐待したとして責め、追放を言い渡すことになっていますわ。」
彼女が答えると、彼は満足そうに頷いて離れていった。貧乏子爵の娘のターラが、ここに招かれて、しかも、王太子から、この場に相応しいドレスを、与えられているだけでも、全てが上手くいっているはずだった。
彼女も緊張した風情で、その場を歩み去った。しばらくして、会場はどよめきで包まれた。
ジュール王太子が、婚約者ではなく、貧乏子爵の令嬢と腕を組んで現れたからである。二人の顔は、緊張しているように見えた。そして、やはり緊張して立ちすくむように見えた、ジュリアーナ公爵令嬢の前に二人は立った。皆が、金縛りにあったように動きが止まり、息さえ抑えがちにしている時、一人の若者、見事な金髪の、身分がはっきり高いと分かる、が何人かの男女達からなる臣下を従えて、ジュリアーナ公爵令嬢の後ろ、10メートル程離れた、直線上に二人は位置し、まるで泣いて駆け出す彼女を優しく受け止めるのに、ちょうどいい場所に立っていた。
誰もが、次の瞬間を待っていた時、やおら、ターラ嬢は王太子から離れ、代わりに並んだ、黒髪が似合う、長身どうしの婚約者の前に跪いた。
「?」
「私は、ある者に、王太子様を誘惑して寝取り、婚約破棄を破棄させるよう依頼されておりました。しかし、本当は相思相愛のお二人を知り、罪の重さを知り、お二人に全てをお話しして、今日までお二人とともに、芝居を打ってきたのです。そして、その者は、婚約破棄で悲しみに包まれた令嬢に手を差し伸べ、自分の妻とし、その実家を、味方につけて、謀反しようと考えていた、公爵令嬢の真後ろに立たれている方です。」
彼女は、きっとした目で、ジュリアーナの後方に立つ、30少し前の端正で逞しい男、事態を周囲の家臣の、男女達同様に把握できずにあ然としている、の方を見た。
皆の視線が集まり始めた頃、ようやく自縛からとけて、
「なにを、小娘に言わせるのか。その小娘を使って私を追い落とすおつもりか?このような無礼、我慢できませぬ。帰らせていただく。」
と身を翻して、家臣達を連れて出ていった。
“これが、原作の真実?”
「ありがとう。君のおかげで、彼女を失わずにすんだ。」
「私達の行き違いを…。二人の愛を…。全てあなたのおかげ…。感謝してますわ。」
と二人に感謝されながらも、
“え~と、やっぱり、あいつは謀反を起こすのかしら?”
彼女は転生者だった。そして、王太子の誘惑を依頼された頃には、もやもやだった前世での記憶が鮮明に理解することができていた。この世界が生前に呼んだ、「婚約破棄された悪役令嬢は、辺境大公に溺愛されます」と全く同じ舞台であること、そして、自分がヒロインの悪役令嬢、どこが悪役かわからない美人で、可憐で、賢く、勇気があり、活発で、しかも聖女の力も持つ、チートスキル級令嬢なのだが、の婚約者を奪い、結末は彼女にざまあされ、悲惨な最後を遂げる貧乏子爵令嬢に転生したことを理解できたのである。その後のこの依頼である。"あー、何か違和感があった話の真相、裏があったんだ―!"と思った。この依頼には、莫大な報酬を約束されたし、その間の彼女の学業、子爵家への支援、ぎりぎりのだが、も前払いとして約束してくれた。実際、それは実施された。当然、"そんな事実、超スキャンダル級どころか、謀反のためとしか言いようのないことを知っている私をそのままにしていいのだろうか?"と疑問を持った。私はしばらくして行方不明になり、彼女とその家族は他国で別人として、裕福な子爵家として過ごせることとなっているとの計画だった。"その後のあの女の性格の悪さが理解できるけど・・・。別の女?すり替えた?それとも王太子が、私を忘れられず似た女を・・・純情よね・・・。でも、本当に真相を知る私を生かしておくだろうか?"そう思ったから、二人に真実を話して、お芝居を続け、ついでに二人を結びつけた、このお芝居を演じることでも、それを促進させた。
「君の身の安全は、僕たちが保証する!」
「あなたには、感謝してもしきれませんから。」
“う~ん。こうなると、ゾガンダ大公、王位簒奪を考えているわけよね。二人に、そのことをしっかりいっておかないと…。これで、終わりではないんだから。”
そのことで、ターラは、カントス王国の女軍師になってしまうことになることを彼女は知らなかった、まだ。
アティラ王国では、王太子が婚約を破棄していた。あ然とする、聡明な婚約者、憤然とする父の宰相。そして、彼女を優しく連れて行く、隣国の若き王。
“小説どおりの展開になったな…。でも、止む得ないんだよな…。”
「殿下。仕方がありませんわ。あの親子は、国政を独占しようとしたのですから。」
側近の、幼馴染でもある、つまり幼いときから身近に付き従っていた家臣であるハーフエルフの女が慰めるように後ろから囁くように言った。彼女の言う通りではあるのだ、実際には、彼の婚約者の意図とは異なっていたが。
“彼女は、そのつもりはなかったんだけど…結果的には許されないんだよな。”
どの世界の歴史の中で、王妃であっても、本来は国政に関与することはできない、国王とともに、国王の印を書類に押すなどということは。
女だからではなく。国王の妻だからダメなのだ。あくまでも、国王が定められた形で政治をとるのであって、家族が加わる、くちばしをはさむことはできないのだ。
意見や存在感の発信は、サロンを通じてでも十分可能だった。しかし、彼女は、それを望まなかったし、彼女の父親のそうだった。彼女は、あくまでも国政の場で、それをしたかったのである。
彼女の父親である宰相は、議会も行政も高等法院も、押さえてはいた。だが、王太子が親政することになれば、事情は変わってくる。彼は、そのことが理解できなかった。王太子は、宰相の独断専行を許すことはできなかった、全ての関係から。彼の独断専行に対する不満が噴出し、優位な人材まで王太子の下に集まったのである。
"しかし、これで内戦ぼっ発。原作では正義連合、あるいは彼女溺愛?連合との戦い・・・。こちらも同盟国が必要だ。"と彼は考えてきた。結局、敵の敵との同盟、あまりにも当たり前の結論だった。その結果は、2陣営の対決の様相になっていた。
いや、もう始まっていたところもある。
「国破れて山河あり…か。俺が、婚約破棄しなかったばかりに…。」
市街戦で炎が至所で立ち上っているのを、王宮のバルコニーから、しばし呆然と見つめる若い国王がいた。ここは、シチリア王国の王都カルタゴだった。
「へ、陛下!ここが頑張りどころです!」
と銃を抱えて、実は失禁している王妃が駆け寄ってきた。
「分かっているさ。絶対、勝ってやる。」
と言って、彼女の肩を抱く。
“俺が、婚約破棄してざまあされるだけだったら、俺があっという間に負ける短い、犠牲も惨禍も少ない内戦だったのにな…。”
そんなことを考えて、少し後悔しかけていると、
「陛下。私もご一緒に戦います。」
と秘書官の女性が。
「あのクソ勇者は、我が捻り潰してやるわ。」
女魔王。
「お、おい。誰か合力してやってくれ!」
と慌てて命じると、
「一応勇者の私がが行きます。」
女勇者。
「私も、戦う聖女の力を見せてあげますわ。」
「あなた方は、クソ魔王相手。勇者様、聖女様は、そういうものでしょう?私が魔王様と共に行きますわ。黒魔道士なら、ちょうどいいでしょう?」
と姦しい声が。
“ああ、こいつら、原作では俺にみんなしてざまあする、もっと楽な人生だったのにな。”
原作は、女性蔑視非難を気にして、出てくる女性は全て屑王子にざまあする展開なのである。
“もう、こうなったんだから、俺がしっかりして、こいつら全員をハッピーエンドにしないとな。”