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波紋

「そうか。ついに聖女を追放したか。」

「同情している?あの娘、あなたの親戚で、幼馴染でしょう?」

 アムルダム共和国の辺境の地、イーペルの地で、3年前、退位して、本当は無理やり退位させられ、この地の小領主、伯爵に封じられた、つまりは流刑された、まだ20代半ばの前国王は、その妻から冗談半分に責められていた。彼女は、公爵家令嬢の婚約者が、この退位で婚約破棄となり、彼についていかなかったため、その思いを隠すことがなくなったからと言ってついてきた子爵令嬢で、その後彼と結婚したのである、ある意味押しかけ女房である。 

 共和国ではあるが、建国の経緯から限定された権限を持つ国王が、議会から選ばれる、一定の血筋から。彼が退位したのは、その権限を逸脱した、共和国の体制に害をなしたというのが理由だが、実際は、聖女を提供するにあたって要求する金の増額に反対したからである。

「しかも、彼女、帰り、魔族に拉致されたとか。」

「我が国が魔王と提携しているんだろうな。」

 共和国は、運命決定論教会派が大多数を占めていたが、対立する教会派の国々にも、同盟国に敵対している国にも商品、武器さえも輸出していた。魔族にもだし、当然、ヘリウム王国に敵対している魔族、魔王にも、武器を含む商品を輸出していた。そのことは、一応、国王であるから、何となく知っていた。あくまで、何となくである。

「前回の引き上げですら反対したはずだ。止むなく同意はしたが。しかし、今回はあまりにもひどい。国が滅びてしまう。お得意様を潰す商法は、良くないのではないか?断じて、賛成はできない。」

 このようなことを言ってしまう場合のリスクは、十分理解してはいたが国の将来のため、言わざるを得ない、拒否せざるを得ないと考えたからだった。

「国が亡びる?何を根拠に、そんなことを。あの国の人間が、我が国の市民が稼ぐ、半分くらいの収入を稼げば、このくらいの額、余裕をもって支払えますよ。怠惰の罪、我々は神に代わってそれを教えているのですよ。どうしても反対ですか?それでは、共和国に対する、民主主義に対する反逆ということになりますが、よろしいですかな?」

 宰相のデ・ウィッテルは、残酷そうな微笑みを浮かべて、最後通牒を突き付けた。

「共和国議会も反対多数と聞いているが。」

 そんなもの、彼のいう民主主義への信念、彼はある意味、高潔な男だった、何も意味がないとは分かっていたが、一応口にした。

「既に、了解に変わっているはずですがね。」

 彼の政治力、彼が背景としているホランド共和国、共和国を構成する中の経済力等が飛び抜けて大きい、なら、いつもそうなるとは分かっていた。

「国の将来を考えれば、反対だ、あくまで。」

「分かりました、残念ですよ。」

 彼は、本当にそんな顔だった。同情はしていた。だが、行動は変わらなかった。


「コセット様。あの方の後を追わないのですか?あの方は無実です。そして、あなたを愛しておられるのです。どうして、追って行かれないのですか?あの方を愛しておられたのではないですか?」 

「あの方は、私の婚約者でしたわ、かつて。でも、この婚約は破棄され、あの方は、私の婚約者ではなくかりました。」

 友人のマルタ子爵令嬢ロゼットに押しかけられ、詰問されて迷惑顔のトーテム公爵令嬢コセットは、

「私は既に隣国のハーグ公国大公様との結婚が決まっているのです。」

「そうですか…。では、私が、アロイス様についていきますわ。」

「は?」 

「アロイス様を、私はお慕いしておりました。でも、コセット様のような素晴らしい方が、婚約者で、あの方もコセット様をこよなく愛しておられましたから、諦めておりました。でも、コセット様は、アロイス様を捨てられました。私が、あの方とともに行きますわ!」

呆気にとられた友人?を残して、ロゼットは背を向けて駆け出した。

 そして、前国王アロイスの都落ちの馬車に、彼女は飛び込んで来たのが、三年前のことだった。


「これじゃ、姉さん、原作をなぞってしまったじゃないか。あれほど避けようと、約束したのに…。」

「あなたが、しくじって婚約破棄したからじゃないの、もともと。」

「あれは、したんじゃなくて、させられたんじゃないか?」

 二人は、部屋に誰もいないのを、確認してから、アロイスは“姉さん”と呼んだ。

 二人は、記憶を持ったまま転生した、前世姉弟だった。

 国王アロイスは、婚約を破棄し、ロゼットと結婚し、二人はアロイスの元婚約者と彼女を拾った隣国の王にざまあされ、悲惨な最後を遂げる小説の世界に転生したらしいと考えていた。

「だから~、こうなっちゃったんだから~、私はもう諦めたの!あんたを、もう、他の女に渡すつもりはないの!あんたは、私じゃ、お姉ちゃんじゃ、嫌だと言うの?」

 最後は、一転して棄てられている猫のような目を向けた。“そんなの…反則だ!”

「分かったよ。もう、仕方がないな~。俺だって、姉さんが一番いいんだよ!」

「そうでしょう、そうでしょうとも!」

 すかさず抱きついてきて、猫のように甘える姉を抱き締めて、

「こうなったら、二人で運命を変えるために頑張ろう!」

「うん!」

 二人は、重度のシスコン、ブラコンだった。


それが3年前。それからしばらくして、

「どうしてあいつらの国の方がずっと豊かなのよ?なんで、あの女のお菓子や服とかが人気で儲かっているのよ?こっちは評判いいけど、あなたが作るものだけど。あの女が聖女として覚醒したのに、私ときたら・・・あなたが半聖女だしい~!」

「元々あっちは豊かな国で、こっちは辺境の田舎だし・・・。彼女のお付きの一流職人達が・・・ぼくもお姉ちゃんもたいして連れてこれなかったし…、それに貧乏なこちらには、需要が・・・。お姉ちゃんは体力とか武術とかは勝っているよ~。それに、領民からは喜ばれているよ、お菓子も料理も、お姉ちゃんも、僕の回復、治療も~!」

と焦る前世姉を宥める前世弟が、そこにはいた。


 ヘリウム王国と魔族、魔王の領域を挟んで位置するハストール二重王国の一室。

「旦那様の言う通りになったわね。」

 それは、女魔王オクタビア。彼女は、黒髪のやや長身、人間比、の優しい顔立ちのスマートな美人だった。その、彼女を膝に乗せて、抱きしめている男、国王コマックは、

「これからだな。あいつ、手に入れた聖女の力で聖結界をこちら側に張って、ヘリウム王国になだれ込むつもりだろう。ヘリウム王国を占領後、聖結界をうまく利用しながら、こちらに侵攻してくる算段だろうな。」

「それを予知して・・・ヘリウム王国と密かに同盟を締結して・・・大した奴じゃ。」

「全て、お前と私の幸せのため、両国民、人間と魔族の安寧のためじゃないか。」

 コマックは転生者である。そのこともあって、戦いあっている魔族と同盟、和平を締結し、その魔王、女魔王オクタビアと結婚し、二重王国ハストールを建国したのは、十年前のことだった。その間、境を接している魔族と有利な戦いを演じながら、国力、民富の拡大、国内体制の整備に尽力し、成功を収めてきた。

「それで、ヘリウムに俺が赴いて、その魔王の軍を撃退するというわけだな。」

「私は、その国の聖女と協力して聖結界を重要拠点で張って、侵攻を遅らせるというわけね。」

 魔王と国王と対面した場所に座る男女二人が言った。もう一人女がいたが、

「私は、あの聖女の張る結界を破ることね?でも、私のちからでは部分的に弱められる程度よ。」

と心細げに言った。

「いいさ。そこから、人間の軍を侵攻させられるし、少数の魔族の軍を侵入させてかく乱することもできる。両面で想定外のことが起これば、慌てる。」

 ハストール国王は、自信があるように言ったが、"どの程度効果があるかな?"が本音だった。

「苦労を掛けるが頼む。」

「偽勇者でも、そのくらい大丈夫さ。」

「一応私達も戦う聖女だしね。」

「そうですね。できるだけ期待に沿えるよう努力します。」

 三人は頭を下げた。三人は遠い異国から逃げてきたもの達であり、男は更に異世界からの召喚者だった。








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