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聖女追放には理由があった。  作者: 安藤昌益


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それは大切だけどね・・・

「孤児院にな。」

 アティラ国王フンヌは、ため息をつくように、側近からの報告に呟いた。

 隣国レムリスと国内の前宰相派そしてアムルダム共和国が糸を引く傭兵軍団の連合軍との戦いは、はっきりと優勢に推移し始めていた。少し前、決定的に大勝利を得ることができたからだ。それまでも、一進一退ながらも優勢に推移していたが、それを契機に完全なものとなったのである。もう、連合軍は守勢一方、反撃する余力はなくなっていた。

 しかし、その勝利は意外だった。こんなに簡単に大勝利を得られる、敵が退却、それも総崩れで、となるとは思ってもみなかった。

 傭兵への賃金の未払い、糧食不足、糧食や武器弾薬を運ぶ馬、牛、人員の不足が起こっていて、士気が低下、反発や不安が高まっていたために、押され気味になっただけで、まず傭兵の一部が勝手に退却、徴発した兵士がそれを見て動揺、他の傭兵にもその動きが感染・・・悪循環を勝手に起こしたからだ。

 その原因が、レムリス王妃、前宰相の娘でフンヌの元婚約者が、戦費や兵士達の糧食の一部を孤児院に向けるように命令、輸送隊の一部をそちらにまわしたため起こったのである。慌てたレムリス国王がそれを止めさせたので、実際はさほどではなかったが、その後も王妃はそのような行動をとったため、全てに混乱が生じ、傭兵の給与の遅配、武器弾薬糧食不足が発生し、将兵の間に不安が巻き起こってしまったのである。

 平時なら、感動的な彼女の行為だが、確かに戦時で、今の時期に彼らが苦しんでいる、切実に必要となっているのではあるが、目の前の戦いを敗北することになってしまうのである。この行為で、残念だが、敵味方の思いが自分に集まる、敵方が感動して投降する、人民がかけ参じるということは、絶対ないのだ、彼女が信じる様なことは、絶対に起こらないのだ。

「こういう時にも、弱い者達を愛おしむ政策を取れる者に、寒さの中で温かい日の光を求めるように、人々の支持は集まってくるのです。兵士とて人の子、必ずわかってくれます。そのうち、自分の給料、食糧を分かち合ってくれと申し出てくるでしょう。民衆は、本当に自分を思ってくれる王をみぬいてくれるのです。」

 彼女は王、諸侯の前、議会でも、訴えかけたが、彼女はわからなかったが、よくてため息か、ひどい場合は罵りしかなかった。そして、民衆もまた動いてはくれなかった。

「戦いに全てを持っていくような君主より、民衆はのために使おうとする君主のも、とに民衆ははせ参じてきます、歓呼して迎えます。」

 それでも、彼女の場合は、恨まれるということは少なかった、彼の父親とは違って。

 彼の父親は、最早慕われる名宰相ではなかった。最早、単なる困ったちゃんに成り下がっていた。軍事には口を出す、全くの素人、軍事知識がない、彼は兵書全てを滔々と詠唱できるがため豊富な軍事知識があると信じていたが、必要な食糧、資金、人員を今までと同様に自分で指図し、動かしていこうとした。それは全て裏目にでた。彼は人気の出る施策の場合は自分が前面に出、そうでない場合は王太子や他の大臣達を矢面にだしてきた、決してそれだけではなく彼は極めて有能だったが、自分がトップになれば負の面、どうしても必要ではあっても、背負わざるを得ない。だから、彼への非難は大きくなる。それを気にして、民衆の支持を得ようと懸命になるとの悪循環となってしまっていた。しかも、敗北の直接の原因となっていることで恨まれる、彼は全く理解していなかったが、さらに兵士の給料、食事の削減を行おうとし、実際に行っていることから、大半の兵士達からひどく恨まれることになっていた。それをも彼には全く分かっていなかった。娘の方は、少なくともそのことを感じて不安をかんじていたのに。

 二人だけが悪いわけではなかったのだが。

 レムリス国軍は、アティラ国の造反貴族、前宰相派の軍を盾のように無理な先陣を務めさせようとしきりに使い、その反発を買う一方、略奪が激しく、アティラ国内の憎悪の的になっていた。その上、作戦ミスが度々あり敗北が続いた。こちらは、レムリス国王の自業自得である。それが、アティラ領内での支持がなく、地理情報はなく、かえって偽情報を受け取り、自軍の一はアティラ軍側に筒抜け、その報復に略奪をすれば、更なる反発を受けの悪循環を繰り返していた。アムルダム軍は略奪は熱心だが、損害を恐れて戦闘を避ける傾向があった。

「いいえ。陛下の方が弱い者達への配慮をなされております。」

 側近の1人、ハーフエルフの若い女がすかさずフォローするように言った。もちろん戦いが優先とは言っても、民政もそれなりに配慮しなければ国民の士気も支持も落ち、信頼を失う。そして、それは悪循環するものだ。

「そうですな。敵失として、喜ぶべきことではありますが、唐突に、まるで人気稼ぎのように打ち出しているように見えますな。だから、混乱が生じる。これでは、軍事に支障があるだけでなく、せっかくの人気稼ぎの施策が混乱を生じさせて、内部の分断が生じますし、効果がなく、かえって対象者からも恨まれてしまいますな。」

 参謀の1人が、ため息をついて説明した。

「ところで、宰相の娘ですがね、意外に貧相だと、せっかく慰問だ、とか現地視察に行っても、不評だそうですよ。王の寵愛もなくなり、王妃の座を失うのも、そう遠くないとか、もっぱらな噂だとか。」

 それに、会議に出ている老若男女が、笑った。

「ちびで、お子様体系ですものね。」

 ハーフエルフの女が、追い打ちをかけるように言った。これでたがが外れたように、笑いがどっと出た。1人、複雑な表情の王が、

「可愛い、ってことがわからないのか?」

とポツリと言ったので、誰もが慌てて口を押さえた。ハーフエルフの女は、泣きそうな顔になった。今度は、国王が、慌てて、

「か、会議を進めてくれ。どこまでだったかな?」

 何とか、はじめはギクシャクだったが、何とか会議は進んで無事終了した。


「油断できない…早く終わらせたいが…。」 

 何人か、側近がついて来ていると思っていた王は、1人ごとのようにつぶやいていると、いきなり、後ろから抱きしめられた。慌てる彼の耳元に、

「陛下はあんな女のことが、忘れられないのですか?」

 声の主は分かった。抱きしめる感触で、鼻に入った香りというか体臭というかで、分かった。見事な長い銀髪の似合う、若い美人ハーフエルフの女である。彼女は常に、彼の傍らにいた。慌てると、

「誰もいません。へんに気を利かせて…。」

 服越しに彼女の豊かな胸の感触を背中に感じて、“ま、まずい!”とさらに動揺してしまった。“ここは、落ち着かないと…。落ち着くんだ。”と大きく深呼吸した。

「あいつは、…やっぱり子供の頃からの婚約者…だから幼馴染みだから…。」

「わ、私だって…あの女より前から陛下のもとに…。王妃などは考えてもおりません…で、でも…私は陛下のことを…。」

 首のあたりに生暖かいものが流れるのを感じてしまった。

「お、俺だって、お前のことが。」

 そこまで言って、言葉を呑み込んだが、

「私のことを?」

と涙目で、求め訴える顔でのぞき込んできた。

“止めてくれ~!そ、それは、反則だよ!”と心の中で叫んでいた。物心ついたときからの家臣である。はじめは姉のように彼女が接したものだが、そのうち、彼の成長とともに主従となっていったが、親しさは、変わらなかったし、彼の一番信頼する家臣だった。可愛い、きれいだと何度も思ったことがある。だが…。元婚約者よりずっと長い時間を共有し、ずっと互いを知り尽くしていた、が…。“あ~、もうだめだ。”

 2人は、強く抱きしめあい、唇をこれでもかというくらい強く押し付け合っていた。



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