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聖女追放?

「聖女である私を、婚約破棄して、追放するというのですか?いいですわよ、それなら今まで滞納したお金をきっちり払っていただこうじゃありませんかしら?」

 聖女マリーナは、婚約者、いや既に元の字がついている、ヘリウム王国国王に、静かな口調で抗議?脅迫?した。その美しい顔は怒りで歪み、見事な金髪の髪は逆立っているかのように感じられた。彼は、まだ若い、二十代前半だ、苦渋の表情を浮かべたが、

「偽聖女に払う金はない。君の祖国、アムルダム共和国には、今まで支払った金の返還を要求することにしている。」

 あくまで、彼も静かな口調だった。

「私が偽聖女?分かりましたわ。そこの非力な聖女様とともに、国ごと滅びればよろしいのよ!ではさようなら!」

“この泥棒猫!”国王に寄りそう、この国の小柄な聖女の姿を見て、彼女は全てを察した。しばらくしてから、見事な金髪をなびかせて、長身の魅力的な容姿の聖女は、馬車のドアを音をたててしめた。馬車はしばらくして、走り出した。

 彼女の母国から派遣されている侍女、護衛隊ともに。

「非力ながら、我が身が果てようと、国のために殉じます。」

 覚悟を決めているという顔の小柄な彼女を、国王ネロは黙って抱き締めるしかなかった。聖女が去るに当たって、それを見送るために、集まり、居並ぶ、臣下、貴族、宰相以下行政官、将軍以下軍幹部、議会議員、再洗礼派教会総主教等々は、皆悲壮な覚悟を決めた顔だった。ちなみに、元々は小柄な彼女が、ネロの幼馴染みで婚約者だったが、より優れた聖女を迎えるに当たって、彼女を聖女の座から外し、婚約を破棄していたのである。

“すまない、マリーナ。君に罪はない。しかし、このままでは国が保たないのだよ。”

 若き国王ネロは、国の将来に不安とその国を支えることへの重圧を感じていた。

 魔族と国境を接し、その脅威を受けるヘリウム王国にとって聖女は、聖女の力は不可欠だった。聖女の作る防御結界により魔族の侵攻を抑えることができるからだ。そのような聖女が出現した時期には、国力を養い、聖女が不在、生まれない時期には、養った軍隊で、軍事力で、国力で魔族を撃退する、それが、ヘリウム王国の歴史だったが、近年聖女が出現せず、国軍が魔族と戦ってきた。何とか国を守ってきたが、国は疲弊していた。

 期待の聖女が出現した。しかし、すぐにひ弱すぎることが分かった。失望したヘリウム王国に、新興の大国アムルダム共和国から、聖女の提供の申し出があった。10年前のことだった。少女ながら、その聖女としての力は絶大だった。当時王太子だったネロは、幼馴染で、相思相愛のヘリウム人の聖女との婚約を破棄させられ、アムルダム共和国人の聖女と婚約することになったのである。話がそれだけなら、二人の恋人の悲しみと婚約者=聖女にひたすら奉仕しなければならない哀れな男の話ということだけの些細なことでしかなかったろう。国王は、どのような悲劇が身に降りかかろうと、国のために、その身を犠牲にしなければならないし、それを国民は期待し、当然視している、大いに同情しつつも。それは、聖女とて同様どあった、まして彼女が国内の大貴族の娘であれば。

 しかし、恩恵には代償があるものである。アムルダム共和国は、聖女の提供に対して、代償、聖女税と呼ばれることがあるが、正式には平和税という名称である、を求めた。当初は、それでもかなりの金額だったが、まあ、高すぎる、と苦情を呟きつつも十分払える金額だった。それが次第に増額され数年前には国家予算の半分を占めるようになった。それでも、何とか支払い遅延を起こしながらも支払いを続けた、平和ならそのくらい、と考え、耐えてきた、上は国王から下は庶民まで、耐え忍んできた。暫くはその額は前年同が続いたが、3年前、その額が三倍となった、正確にはアムルダム共和国が、三倍の額を要求してきたのである。

"マリーネは、何とか協力してくれたのだが・・・。"彼女は、自分だけには不自由な思いをさせずに、王太子ネロまで耐乏生活を送っていることを知ると、自分も生活を簡素化した。平和税の増額での支払い遅延を、支払い期限の延長を本国に請願したりもしたのである。

 とはいえ、所詮は彼女にとって他国のことであり、母国の都合、母国との板挟みからの解放の方が重要だった。彼女は、次第に支払おうとしないヘリウム王国をなじるようにようになったし、協力を拒否するようになった。

「支払うべきものを支払わないのであれば、無期限で実家に、母国に帰ります。」

「いっそのこと、アムルダム共和国に併合してもらったら?そうすれば、支払いなんか、心配しなくてもよろしいのではありませんかしら?併合されれば、もっと豊かになりますわよ、確実に。」

と遂に、最後通告を言い放った。本国の指示ではあったが、彼女は当然のこととして受け止めていた、それがヘリウム王国にどう受けとめられたかを考えることをせず。

 そして、ネロとヘリウム王国国民はエックス・ディーを決意した。彼らは、最後通牒だと受け止めたのである。三年間、頭を下げ、平身低頭し、言を左右にして支払いをせずに、その分を国力回復に努めるためにまわし、新たな同盟関係の構築を進めてきた、魔族、敵対する魔族と異なる、との提携すら行ってきた。準備万端とは言えないが、そのベールをかなぐり捨てる時だと感じたのである。

"マリーナ。ごめん。" 

 幼なじみを、ひ弱だが気丈な聖女を愛している気持ちは、変わらないが、長年そばで過ごしたマリーナにも、親愛の情を抱いていたネロだった。

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