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『主人公』の愛の告白(3)

 さて。私とロシェスとギルド長は、冒険者ギルドの酒場スペースにあるテーブルを囲んでいた。

 人数分のビールジョッキが載ったことで仲間意識が高まったのか、「改めて」と名乗ったギルド長の名はブラッドタイガー。突然の厨二病ぽい単語に本名なのか通り名なのか聞き返すタイミングを逃してしまい、そこのところはわからず終いになってしまった。


「ロシェスさん、見かけによらないな……」


 ロシェスから事件の顛末を聞いたブラッドタイガーさん――ブラッドさんの反応は、私と似たようなものだった。

 ですよね。エルフがアレコレを物理で解決とか、ロシェスの細腕を三度見もしたくなりますよね。わかる。


「わかった。ロシェスさんが()した奴らはすぐにウチのに回収に行かせよう」

「ありがとうございます。それでザイーフについてですが、身柄の拘束を国に要請しようと思っています」

「国か……確かに魔法空間だけでも大掛かりな事件だった上に、違法取引の証拠がゴロゴロあったとなれば、国も動くかもしれない」


 ロシェスの提案にブラッドさんが指で顎を撫でる。しかし思案顔になった彼は、「ただ」と言葉を続けた。


「国が動く場合、メインターゲットはザイーフじゃなくて、ロシェスさんを奴に攫わせた奴隷商人の方になるだろうな。勿論、うちも全力でザイーフを追うつもりではあるが……」


 ブラッドさんが苦い顔で話す。

 これまでの(かんば)しくない成果を知られているということもあるだろうが、言葉を濁した一番の理由はきっとそれじゃない。

 今回、私がザイーフの魔法空間に気づけたのは、ロシェスの誘拐という事件(クエスト)が発生したことでマップ上に目印が現れたからだ。そういった手掛かりなしにザイーフを追うのは、はっきり言って無理だと思う。だからロシェスも国へ要請するという考えに至ったのだろうし。

 国内全域で張っていれば、ザイーフが日用品の買い出しなどで街に入ったところを捕らえられる。先日酒場で鉢合わせたあたり、これまでも気軽に街に出入りしていたはず。さすがにこの街に現れる確率は低いと思うが、そう遠くないうちにどこかの街には立ち寄るはずだ。

 問題は、ブラッドさんが言うように基本的に国のターゲットとなるのは、一犯罪者ではなく組織の方だということ。包丁で人が刺されても、包丁そのものは販売中止にならないのと一緒だ。

 ザイーフの場合は特に、攫った人間を買う者が見つからない間は問題を起こさず静かにしているだろう。ロシェスが本人の口から「ただ殺すだけじゃ満足しない」という言葉を聞いたというし、何より今回の事件が傷害ではなく誘拐事件だったことがそのことを裏付けている。

 ザイーフの目的は、おそらくロシェスを長く苦しめることなのだ。


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