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茨の監獄(5)

『激怒した茨の監獄』。

 こんな短時間で、ノーマルな『茨の監獄』から第二形態ぽい『激怒した茨の監獄』へと移行とか。ダンジョンに入って暴れた後ならともかく、まだ外から様子を窺っているだけなのに。見ていただけで激怒とか、沸点低すぎやしませんか。


「とにかく、早くロシェスを救出しないといけないことだけは確かね」


 目の前にあるのは生きているダンジョンで、しかも理由はわからないけど激怒している。そんなやばいモンスターの腹(?)の中にいつまでもロシェスを置いておくわけにはいかない。


「それに、ロシェスが攫われたのってどう考えても私のせいよね……」


 ロシェスは元奴隷――書類上は今もそう――で、やっかまれる立場ではなかった。もし私と出会う前にまともな主人の(もと)へ行けていたとしても、あくまで奴隷としては優遇されている環境にはなっても、誰かに(ねた)まれるまでにはならなかったはず。

 私が彼を目立たせてしまった。しかも、故意にそうした。ロシェスを目立たせて、アロンゾ皇国に対する()(くら)ましにしようとした。

 私を捜しに来た皇国の人間をロシェスに誘導して、人違いだったと思わせようとしただけだったのに。まったく別の勢力に彼が目を付けられるなんて、想像もできなかった。浅はかだった。


「結局、隠れる方向で舵を切っても聖女ってバレるものなのよ」


 聖女もののライトノベルであれだけ捕まっているのだ。その中には私のように、最初から逃げに走っている者も多数いた。その場合は大抵、目の前で誰かが大怪我をして見て見ぬ振りできなくて……という展開だったので私は薬師なロシェスを用意したわけだけど。


「親しい人が危険な目に遭って(いぶ)り出されるというパターンもあった……あったわぁ……」


 この状況、全然イレギュラーなんかじゃなかった。それなのに予測できなかったのが()やまれる。

 私はミニマップの『激怒した茨の監獄』の横に添えられた文字に溜め息をついた。

 いざ突入と思ったところで見えたそれ、『進入地点は結界が張られています』。その文字に焦るではなく溜め息なのは、スキルに結界というかすべての魔法を解除するものがあるからだ。結界も魔法の鍵が掛かった扉や宝箱もこれ一本。そりゃあ胡散臭いアロンゾ皇国が聖女を欲しがるのも無理はない。


「結界、破ったらバレるだろうなあ……」


 破った直後は、さらに高位の魔法を使うエルフでも来たかと思うかもしれない。けれどこの後に戦闘となれば、私はどうしても聖魔法に頼ることになる。そのときはさすがに誤魔化しは利かないだろう。人間相手ならまだしも、ダンジョンの主は魔法のスペシャリストであるエルフなのだから。


「…………よし」


 覚悟を決めて、前方に突き出した手をダンジョン入口に向ける。

 もう片手でメニュー画面から『魔法解除』のスキルを選べば、手がほんのりと熱を帯びてその周囲に光の粒子で形作られた文字のようなものが舞い始めた。きっとこの文字が対象の魔法を解除する記述なのだろう。

 徐々に増えて行く文字が面白くて、綺麗で、じっと見つめてしまう。

 そうやって完全に気を取られていたのが、いけなかった。


「……っ⁉」


 突然に背後から伸びてきた手に口と両手を押さえられ、私の『魔法解除』は完成する前に溶けるようにして消えてしまった。


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