茨の監獄(2)
冒険者ギルドは深夜でもガヤガヤと賑やかだった。これならすぐに依頼を受けてくれる人が見つかるかもしれない、そんな期待を胸に受付へと急ぐ。
その足を、出入り口からそう歩いていない場所で止められることになった。何故か私の前に立ちはだかった冒険者を見上げる。
「ナツハさん、もしやロシェスさんの捜索依頼を出しに来られたんですか?」
「どうしてそれを?」
私を留めていたのは、うちの店によく来る壮年男性の冒険者だった。ポーションの購入個数や頻度から行って、上級冒険者だと推測している。ロシェスの捜索依頼を出すにあたって、受けて欲しいと思い浮かべた人物の一人でもあった。
「ロシェスは何かの事件に巻き込まれたんですか⁉」
ハッとして、私は周囲を見回した。私を引き止めたのは目の前の男性だが、多くの人が私に注目していた。
一見、顔見知りに声を掛けただけの遣り取りが、こんなに衆目を集めるはずがない。やはりロシェスの身に何かが起きていることは間違いないだろう。そして彼らは、その全容あるいは一端を知っている。
「ナツハさんがそう聞くからには、ロシェスさんはあれから帰宅していないんですね。実は俺は数時間前に、ならず者に絡まれている彼を見かけたんです。彼はそいつらを振り切って、俺がそのならず者たちを捕らえたんですが……本当にまだ仲間がいたとは」
「その言い方だと、もう尋問はした後ってことですか?」
「ええ、ですがロシェスさんの居場所自体は聞き出せたものの、現状打つ手無しでして……」
「どういうことです?」
「それは俺から話そう」
いきなり話に割って入ってきた人物が、片手を挙げて男性を下がらせる。
その人物もまた、私は見覚えがあった。
「ギルド長さん」
「今、捕まえた者たちはギルドの地下牢にいる。そいつらが言うには、首謀者はエルフだそうだ。で、エルフお得意の魔法で作りだした、どこという概念のない場所にロシェスさんを攫ったらしい」
「どこという概念のない場所?」
まるで謎かけのような言葉に、私は思わず聞き返した。しかし、ギルド長さんからも「俺も詳しくはわからない」と頭を振られる。
元々厳つい顔をしているギルド長さんがさらに難しい顔をして、それから彼は私をじっと見つめてきた。
「……獄囚に会ってみるか? 俺たちよりエルフと近しいナツハさんなら、何か気づくことがあるかも――」
「会わせて下さい」
ギルド長さんの言葉を最後まで待たずに、私は彼の提案に頷いた。
行く手立てのない、魔法で作られた場所。けれど私が思うに、牢にいるというならず者の存在自体が最初の手掛かりだ。
私は最初よりもさらに注目を浴びながら、ギルド長さんとともに地下牢へと向かった。




