評判の薬(4)
私は木箱の中からポーションを一つ取り出し、それを手に取ってまじまじと見つめた。
同時に、ひょんなことで知ってしまったロシェスの秘密について思い返す。
「精神的ストレス軽減の効果……これならもしかして」
ここで暮らし始めて早々に、ロシェスは自室のベッドの配置を変更した。
それ自体は構わない、模様替えは自由にしてくれていい。けれど、彼が変えたのはベッドの位置だけだった。
最初は私のいびきが煩かったのかと、凹んだ。でも、すぐその後に十中八九これが原因だろうという理由を知ることとなった。
ロシェスは毎晩のように、悪夢にうなされている。
自分のいびきを疑ったとき、この家はものすごく壁が薄いのかと思い、単に試すつもりで壁に耳を当てたのがまずかった。
私はそこで、ロシェスの苦しげな声を聞いてしまったのだ。
一緒に暮らしていると忘れそうになるけれど、ロシェスは奴隷としてこれまで生きてきたわけで。昼間は平気そうでも、夜になるとその影響が出てきてしまうのかもしれない。
「今思えば、きっと寝不足もそれが原因よね」
ロシェスは大量の仕事をサクサクこなしている。その作業中は楽しそうにさえ見える。だから彼を悩ませるのは、仕事ではなく悪夢の方に違いない。
ロシェスは悪夢に苦しんでいる。苦しんでいる……というのに、それなのに。
「くっ、私という人間は……っ」
あの声を聞いたとき、私は……あろうことかムラムラしてしまった。
でも本当に壮絶な色気というか何というか。ロシェスに夜の相手をさせようとしたこれまでの主人の気持ちが、わかってしまった。Hな漫画ばりに「抱いて、ロシェス……」と口から出かけた。
そんな言うのも恥ずかしい台詞を言ったあげく、できない命令をされてロシェスに謝罪される構図とかどんな罰ゲーム……!
「はっ、これ。悪夢もそうだけど、そっちにも効果があるんじゃ?」
はたと、今日もそれなりにいた仲良しカップル客を思い出し、私は自分の閃きにパチンと指を鳴らした。
ロシェスは媚薬も効かないため不能だという話だった。でもそれって、はたして生まれつきのものだろうか。
こんな毎晩うなされるような奴隷生活を送っていたのだ、ロシェスも精神的ストレスが原因でそうなってしまったのでは。
ロシェスは性欲の欠片もなさそうではあるけれど、男性として気にはしているかもしれない。
初級HP回復ポーション+1の売れ行きから見てもそうだし、元の世界でもその手のサプリは需要があった。その可能性は大いにある。
「一度、ロシェスに聞いてみた方がよさそう」
悪夢にうなされているのは隠しておきたいだろうから、そこには触れないでおいて。一般論として聞いてみるスタイルで。
上手くいけば、「今日もロシェスがうなされているんじゃ」からの「抱いて、ロシェス……」のいけないサイクルに終止符を打てるはず。
いや盗み聞きを止めれば済む話なのだけど、どうしても気になってしまうといいますか。
何だか熱くなってしまった頬を、パタパタと手で扇ぐ。
そうしているうちに戻ってきたロシェスに、私はその手を挙げて彼の名を呼んだ。




