表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/56

評判の薬(2)

 私から初級HP回復ポーション+1の鑑定書を受け取ったロシェスは、ある一点をじっと見つめ、それから書類をテーブルの脇に()けた。

 そのときに彼が「やはり」と呟いていたので、何のことかはわからないがロシェスの疑問が解決してよかった……そう思っていた。

 なので、朝食は晴れやかな気持ちで美味しくいただいたし、ロシェスが今朝受け取ったという『旅らくナール』の登録申請許可も素直に喜べた。

 それなのに、まさか彼の「やはり」にこんな意味があろうとは……。


「……本当だ。私には見えなかった効果が付いてる」


 片付けまで終わったタイミングで、ロシェスは改めて私に鑑定書について話を切り出してきた。――私の鑑定スキルの落とし穴について。

 まさに、落とし穴だと思う。誰が予想できようか、アイテム説明欄が個別設定だったなんて。

 でもよくよく思い返してみれば、思い当たる節はある。

 以前、商業ギルドで服を買ったときのこと。試着自由ということで、私は買う気はないけれど記念に金属製の()()を装備してみようと考えた。けれど、籠手の側まで行くとアイテム説明欄に『装備不可』の文字があるのを見つけたので、思い留まったのだ。そのときは、「ですよね」くらいの感想しか出てこなかったわけだけれど……。

 ――めっちゃ個別設定だわ。『装備不可』なのは私だわ。


「初級HP回復ポーション+1には、回復速度UP(微)と精神的ストレス軽減(微)。旅らくナールには、HP継続回復(微)、MP継続回復(微)が付いてる。……どうしてこうなった」


 私は(うな)りながら、両手にそれぞれ持っていた鑑定書をダイニングテーブルに置いた。

 聖力の影響で自動的に付く効果があるのなら、初級HP回復ポーション+1と旅らくナールは同じ効果が付いていないとおかしい。

 使っている素材によって、自動的に付く効果が決まる? それとも聖水の配合率が関係している?


「ナツハ様、確認したいのですが」

「うん?」


 ロシェスの声にそちらを向けば、今度は彼が二つの鑑定書をそれぞれの手で持って見ていた。


「最初に初級HP回復ポーション+1用の聖水を作成したとき、傷や体調不良が治って行く様子を意識しませんでしたか?」

「それはしたと思うけど」


 これをかけたり飲んだりしたら(たちま)ちに治るとかファンタジーだわーって、ある種の感動を覚えながら作っていたはずだし。


「おそらく旅らくナールのときは、冒険者が使用することを想定していましたよね。ここに担ぎ込まれた冒険者を見て、思い付いたあたり」

「そうね」


 思案顔で書類と(にら)めっこをしていたロシェスが、ここに来て顔を上げる。

 そして彼は「あくまで私の推測ですが」と、私と目を合わせた。


「作成中のナツハ様のイメージが反映しているのではないかと考えます」

「私のイメージ?」

「はい。初級HP回復ポーション+1作成時は、傷や体調不良が治って行くイメージを。そして旅らくナールのときは、これで旅は身も心も快適になるはず……的なことを考えたはずです」

「それはあるかも。……ん? 待って、つまりそれって」


 ポーションで怪我や体調不良がパッと治るイメージをする

 →回復速度UP(微)、精神的ストレス軽減(微)


 身も心も快適になる

 →HP継続回復(微)、MP継続回復(微)


「私のイメージが反映……」

「はい」


 誰が言ったか、『想像は創造に通じる』。

 実現までのスピードが超高速なすごい世界に来てしまった。


「効果の程度が(微)なので正式な効能としては見なされません。だから騒ぎにはならなかったのでしょう。ただ、今後新製品を出すときは登録申請前に、一度民間の鑑定に出した方が安全そうです」

「そうだね……」


 正式な効能としては見なされないけれど、価値はある……健康食品かな?

 あ、意外と言い得て妙かも。精神的ストレス軽減ってGABA配合の健康食品感ある。道理で商業ギルドにいわゆる箱買いをされるはずだよ。

 私はロシェスの「信用できそうな外注先を探しておきます」という言葉に、(うな)()れ半分に頷いた。

 さらに仕事を増やしてしまい、申し開きもございませんっ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ