親友との再会(7)
「……ナツハ様?」
ベッドに横になった途端、壁の向こうから聞こえてきた物音に私は思わず全身を硬直させた。
決して大きな物音ではなかった。現に、昨夜までは気にも掛けていなかったはずだった。
それもそのはず。ただ、壁の向こうでナツハ様が身じろぎしている。その事実だけを知らせる音に過ぎないのだから。
「……まずい」
起き上がり、ベッドの端に腰掛ける。
この部屋とナツハ様の部屋の間取りを思い浮かべ、壁を挟んで真横に彼女のベッドがあることに気付いた私は、考えるより先に立ち上がっていた。
ベッドから最も遠い壁に背をつけ、そのままズルズルと床に座り込む。
壁から離れたことで、もう物音は聞こえない。しかし、自分は知っている。この家で鍵が掛かるのは二箇所、外から店へ繋がる玄関と店から居住空間へ繋がる扉のみ。ナツハ様の部屋に鍵は付いていない。
私が思い立って行動に移すだけで、容易に眠る彼女の側まで行けてしまう。しかも間の悪いことに、奴隷に夜の相手をさせる主人がいることから、そういった行為は「主を害する行動」に該当しない。明確にするなと命令されない限り、奴隷でも主人を穢すことができてしまう。
それをしないのは、自発的にそうしたいと考える奴隷がいないからに他ならない。
だが、私は――
「あまりに無防備ではありませんか?」
頭を抱え、うずくまり、目を瞑る。
明日になったら、こちら側にベッドの位置を移さなくては。
「熱が収まらない……」
一度は鎮まったはずの熱が、あのときと同様――寧ろそれ以上に解放しろと主張している。
エルフは長命のためか、性欲が乏しい。呪いを受ける前から、このような激情に苛まれることなどなかった。
これまでの女主人同様、私に夜の相手を求めていたなら喜ばれたことだろう。けれど、よりによってその逆、私を不能だと思って買われたナツハ様のときにこうなってしまうとは。
「……いや、ナツハ様だからこそ、私はこうなってしまっているのか」
現実から逃れるために目を閉じたのに、先程から瞼の裏に繰り返し映されるのは彼女を組み敷いた『私』の光景。ただでさえ下着同然の格好をしているナツハ様の服をまさぐり、その素肌に触れている。
この不埒な妄想を止めなければ。――最初はそう思ったはずだった。
だが私は甘美な誘惑に、あっさりとその罪悪感を手放してしまった。
「ナツハ……様……」
興奮した『私』の声が、私の口から零れる。
彼女の短い黒髪を梳いて、そのこめかみに口付ける。
指先にも一本ずつ丁寧に口付ければ、蕩けた表情で私を見上げる彼女と目が合う。
『抱いて、ロシェス……』
彼女の声に震えた身体は『私』なのか、私なのか。
彼女の両脚に手をかけた『私』が、その柔らかな肢体に覆い被さる。
「ナツハ様……あなたが欲しい……」




