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親友との再会(1)

 本日開店だった薬屋は、思った以上に反響があった。それについて、ナツハ様も同様の感想を抱かれたとのことだった。

 夕食を終え入浴を済ませた私は、着替えながら閉店までの今日一日を振り返った。

 ナツハ様の狙い通り、『エルフの薬師』という希少性が話題を呼んだらしい。私を見に来たついでに薬を買って帰るという客が、それなりにいたように思う。加えて、二つのギルドからの大口注文。滑り出しは上々といっていいだろう。


「しかし、まさか店の名称まで私の名にされるとは……」


 看板の絵柄を三角フラスコにしたということは、事前に聞いていた。けれど、その絵の下に彫られた店名『ロシェスのアトリエ』については、寝耳に水だった。


『ゆくゆくは薬の調合を応用した生活用品も出して行きたいから、薬を前面に出さずアトリエという表現にしたの』


 私の無言の問いかけにナツハ様はそう返答を下さったが、私が言及したかったのは勿論、『アトリエ』の方ではない。その構想の一つとして語られた『花火』というものには、興味を引かれたが。

 店名の弊害は、私が指摘するより早く(しよう)じてしまった。

 午後から来た客の一部に、午前にも来店した者がいた。何でも購入した薬を病弱な母親に飲ませたところ、ここ数年ではついぞ見られなかったほどに健康が回復したという。それで追加で買いに来たということだった。

 青年は深く感謝していた――――私に。

 隣にナツハ様がいらっしゃるのに、私だけに。

 居心地の悪さにナツハ様を見れば、私の焦りとは裏腹にまるで我が事のように喜んでいる彼女の姿がそこにあった。本来は彼女にこそ向けられるべき謝意だというのに。

 私はナツハ様の功績を横取りしているようなもの。なのに、どうしてあの方はあんなに素直に喜べるのか。私を隠れ蓑にしたいという話ではあった。しかし、それは事情があるからこそ。本心では自分の手柄だと思っていてもよさそうであるのに、あの方はどうして。


「ナツハ様は本当に、私を一人前の薬師として成長させたいとお考えなのでしょうか?」


 実際やってみて、自身でも薬師としての素質はあったように思う。しかし幾ら参考書通りに作れたところで、ナツハ様が仰ったような天才薬師ではないだろう。

 聖水との掛け合わせが上手といっても、ナツハ様を除けば私しか(こころ)みていないわけで。それこそ参考書の著者の方が、余程上手く作成できるように思う。


「私が選ばれた最大の理由は、秘密保持魔法を施された高級奴隷だという点なのでしょうね」


 口に出して、苦笑する。

 あれほど奴隷の身分から抜け出す方法を日々考えていたというのに、その奴隷であることを利点として思う日が来るなんて。

 店に立った私は、まるで普通の人のように扱われた。これは奴隷になる以前、里にいた頃も含めて初めてのことだった。


「皮肉ですね。奴隷であるからこそ、私は『普通』の経験ができた」


 入浴する前とは別の、清潔な服への着替えを済ませる。

 里にいた頃も清潔な着替えこそあったが、私のためだけに用意されたものはなかった。いつもサイズの合わない服を着ており、奴隷商に与えられたものが初めて身体に合った服だったというのは、今思えば笑い話だ。


「二十時以降に着る『普段着』、ですか……」


 鏡の前に立ち、ナツハ様より仕事着とは別に与えられた服をまじまじと見る。

 仕事着は如何にも薬師ななりだが、これは街に溶け込めそうなデザインとなっている。いただいた服をすべて確認したが、寝衣以外はどれも首元まで布地がある――奴隷印を隠せる形状をしていた。

 鏡の中の、どこにでもいるような男に思わず眉を(ひそ)める。


「二十時以降も、あなたの薬師でありたいと思ってしまう」


 身体を反転させ、着衣に乱れがないかを確かめる。

 そして最後にナツハ様からいただいたポーション瓶を懐に忍ばせ、私は脱衣所を後にした。


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