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静かな夜(1)

 店の二階、手前の部屋。私はナツハ様に与えられた部屋に入り、丁寧に扉を閉めた。

 入口付近で立ち止まったまま、室内を見回す。

 平机、その横に二段の小さな本棚。やや離れた場所にワードローブがあり、その隣にベッドサイドテーブル、ベッドと並んで置かれている。

 (いず)れも新品で、ここへ住むにあたり新しく買い与えられたものだ。しかもあろうことか、これらの家具はすべてナツハ様の部屋にあるものと同じ……。

 私は唐突に現実味が帯びた現況に、頭を抱えた。


「理解が追い付かない……」


 ナツハ様が特別な人だというのは、わかっていたつもりだった。だが、こうして一人になると改めてそれを実感させられる。

 一番衝撃的だったのは、ナツハ様と出かけた先で大半の住人が、私を奴隷として認識していなかったことだ。

 以前は別の街にいたため、ここに来てから日が浅いという背景はある。しかし、だからといって今までは、そういった状況でもそのような誤解を受けたことはなかった。

 確かに奴隷の印が見えない服を着用してはいる。けれど、理由はそれだけではないだろう。


「まさか本当に私をビジネスパートナーとして周りに紹介されるとは……」


 商業ギルドでも、街角の店でも、ナツハ様は私を同等の立場の者として紹介していた。最初はあまりにも予想外のことで、名乗るのが一瞬遅れてしまった。

 私をアクセサリーとして自慢する主人はいたが、奴隷を連れとして紹介する人は初めて見た。私が初めてそうされたというより、これまで見てきたすべての人間を含めての感想になる。


「これについても、どう取り扱えばいいのか」


 私は手の中の巾着に目を落とした。

 その中身はナツハ様から渡されたときに(あらた)めるよう指示されたので、既に確認してある。

 銀貨が二十枚――2万ダル。給料の半額を前払いだと説明された。商業ギルドで薬師の給料の平均を聞き、そこから生活費などを諸々差し引いて決めたということだった。


「ナツハ様は奴隷商から私を()()()はずでは?」


 私は雇われたのではなく、彼女に買われた。彼女の所有物だ。それなのに、何故その私に給料を払う話になっているのか。

 奴隷商は出来損ないの私を持て余して価格こそ下げていただろうが、それでもナツハ様は相当の額を支払っているはず。

 加えて、今私がこの部屋でぼんやりと突っ立っていることからしておかしい。


『二十時から翌朝の八時までは、自由時間にするから』


 私に給料を渡した後、さも当然のようにそう口にしたナツハ様を思い出す。

 奴隷に勤務時間などというものは存在しない。しかし、主人にそう言われたからには、それに従うほかないわけで。

 私はもう一度頭を振った。


「せめてナツハ様が起きてこられるまでに、朝食の準備をしておきましょう」


 無理矢理落とし所を見つけ、言葉として声に出す。

 それから私は、ベッド側まで歩いて行った。


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