第一章 2話 「賢者」
がたんがたんと、俺は馬車に揺られている。
「すごいわね!アランちゃん!『剣聖』なんて!」
アリアが弾けるような笑顔で言う。
「はい」
「本当にすごいぞ!やっぱりお前は強くなるな!」
ラインも誇らしげに続けて言う。
「はい」
「どうした反応が薄くないか?もっと喜べ!もっと!」
いやいや、喜べるわけ————ねぇえええええだろおおおおお!
どう言うこと?『漏れかけ剣聖』ってどう言うこと?
いろんな本読んできたけど、聞いたことねぇよ!
俺は、帰りの馬車で、そんなことを思っていた。
……ってか、漏れかけって、俺へのあてつけか?神様!
力も全然湧かないし……って、ちょっと聞いてみるか。
「父様」
窓の外を見ていたラインはこっちを向いて、
「ん?なんだ?」
「父様は、職業をもらった時、急に力が湧いたりしました?」
ラインは顎を触りながら上を向き、
「ああ、力が湧き出すし、実際超強くなっているしで、すごかったな……」
懐かしげに言う。
「なるほど……」
全然なるほどじゃねぇ————!
まったくと言っていいほど力が湧かないんだが!
むしろ尿意が湧いてきたわ!
「これで、発表会も安心ね!」
「へ?」
は、発表会?
なんの話?
「一週間後にあるのよ、ネックレッド王国の王家の方々や上流貴族が集まる、パーティーみたいなのがね」
「うそん」
おっと声に出てしまった。
というか、こんな寒い冬なのに、パーティーとかあるんかい。
春とかにやるんだと思ってたわ。
ちなみに今は、12月だ。
この世界の月や時間は前世と同じらしい。
この国は上の方だから結構寒い。
「お前は剣聖だからなぁ……剣撃を見せろ、とか言われるかもな」
「うそん」
おっとまた出てしまった。
俺の額には汗が浮かんで——嘘。
汗だっらだらです!発表会?無理です!
「発表会って、本当の名称ってなんですか?」
俺はテンパってそんなことを口にしていた。
「ま、まあ……そんなことは置いておいてだな、お前も剣聖として、鍛錬を欠かさないんだぞ」
「はい……」
「もしかしたら、皇女様と結婚できるかもしれないしな」
うそん。そんなこと言われたら——
やばい……緊張が……。
……尿意が!
過度な緊張により、尿意が湧いてきた。
ふと、気づいたことがある。何故か体が熱い。
今は冬だから寒いはずなのに、どうしてだ?
体が火照ってきているのか?
熱?風邪?どういうことだ?
そんなことを思っていると——
「——敵襲!」
外にいる馬車の御者が叫ぶ。
ラインが音を立てて立ち上がり、
「何者だ!」
「魔獣です!4匹のダークウルフがいます!」
御者が焦りを孕んだ声でそうこたえる。
「ダークウルフ4匹か……」
ラインが考え込む。
本で読んだのだが、ダークウルフはD級魔獣で体の黒い狼だ。
闇夜に溶けこんで、人を襲う。
よく気づいたな。御者。
……と思ったが、御者は『暗視者』の職業を持っているようだ。
御者が天職じゃん。
魔獣には、等級が存在する。
S級からF級だ。
これは冒険者にもあるのだが……と、そんなことを考えている時間は無さそうだ。
「どうしますか!ライン様!」
御者が声を震わせながら言う。
相当ビビっているな、まあ、外にいるから仕方がないか。
ラインが俺に目を合わせた。
「よし……こうしよう、アラン……お前がやれ」
「え?」
俺?どういうこと?
「どういう事ですか!?父様!僕が魔獣を倒す?無理です!」
俺、まだ子供だし……無理無理。無理でしょ!
「そうよ!まだアランちゃんに魔獣との戦いは無理だわ!」
「安心しろ、わかっている。ピンチの時は俺たちが助ける。だから——頑張れ」
頑張れじゃねぇよ!無理だよ!
どうすれば、回避できる?
魔獣……そんなの倒せるか?いや、無理だ。……というか、無茶だ。
「諦めるなよ……アラン。最初から諦めてどうする?」
威圧感のある眼だ。正直怖い。
どうして、諦めることにこだわるんだ、こいつは。
諦めることだってたまには大事だ!
「ですが……」
「……いいから、やれ」
そう言ってラインは、俺を掴んで、外へ放り投げた。
「どうすりゃ、いいんだよ……これ」
目の前には4匹のダークウルフ。
4匹ともだらだらと涎を垂らしている。
完全に獲物を見る目だ。ギラギラしてる。
「やべーよこれ!どうする……どうする……!」
尿意が——だんだん、込み上げて来た。
馬車を見る。
不安そうにこちらを見る、アリアと御者。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるライン。
なんだよあいつ!
まったく理不尽なことばかりだ。
こんな異世界にくることも。
この世界に来て何故だか簡単に順応できた。
どういうことだ?なんの抵抗もなかったのはどうしてだ?
わからない。前世の記憶も薄れかけて来ているし……。
おそらく俺は完全に、この世界の住人になっているんだ。
ここからなら、ゼロから始められる。無職が転移しても、生きていける。たとえ——クズでも。
だが、薄れている前世の記憶はいつか消えるのかもしれない。
それでもいい。今を後悔しないように生きるために。
この世界は実力至上主義だ。だから——
「今度は……今度は——」
——体が熱い。
俺の体に熱が迸る。心臓から全身へ——
「はぁはぁ……」
じわじわと熱くなっていたものが、弾けた。
「今度は——諦めない。期待を裏切らない!」
剣を構え、ラインに習った通りの型で——斬りつける。
その一振りは、時間を経つごとに勢いがつき、威力も増していく。
そして、ダークウルフの首に——
衝撃波によって、2匹のダークウルフは吹き飛んだ。
気づけば、そのダークウルフ達の首から上は消え去って——いや、斬られていた。
グチャ、と音をたてて、ダークウルフの頭部が地面に落ちた。
ガタガタと、馬車の窓が揺れる音がする。
大丈夫か!みんなは!
俺は、後ろに勢いよく向くと——
ラインとアリア、御者までもが、俺の後ろに指を刺していた。
必死な形相で、何かを叫びながら。
何やっているんだ?
なんと言っているかは聞こえない。聞こえる距離なのに……。
——まさか。
「まずいッ!」
俺は、地面を踏み締め、小さい体で後ろ蹴りをする。
蹴りの先にはダークウルフがいて、吹き飛ばした。
力が、湧き出る。
先程は感じなかった剣聖の力が、今ではこんなにも感じられる。
なんとか回避した——と思えば、
「上か!」
俺は上を向き、目を見開く。
目の前には、大きく口を開いたダークウルフが——
「くッ!!」
俺は、ダークウルフの口に腕を突っ込んでいた。
ダークウルフの牙が俺に右腕に突き刺さる。
痛い……だけど——
「爆裂!」
俺は、ダークウルフの体内で魔法を使う。
使う魔法は『爆裂』。
爆発する魔法で、B級魔法だ。何故かB級だが、使えるようになっていた。
遠距離攻撃もできる。
ダークウルフは体内での爆発により、吐いた血が俺の顔を汚す。
しかし、まだ、力は弱まらない。
さすがは魔獣、生命力が段違いだ。
イメージしろ。イメージするんだ。
イメージを、より一層すれば、中から爆発させるのではなく、相手を破裂させられる。
「うおぉ————ッ!!」
体内でダークウルフの体に触れる。
相手を破裂させるように、イメージだ。
今なら何でもできる気がする。
S級魔術の『破裂』でも、今なら使える——気がする。
「破裂!!」
ダークウルフの体が膨張して——
——パァン。
……と、音を立てて破裂した。
「やった……!」
やっと、ラインの声が聞こえた。
その声は荒々しくて——
「まだだ!アラン!!」
「え?」
確かに破裂していた筈だ。
だがまだ俺は子供だ。子供の魔法だ。
しかも、S級魔術。それが完全なはずがない。
「まさか……!」
破裂していたのは——半分だけだった。
まだ、頭と前足は残っている。
ダークウルフの最後の一体は、その強靭な前足を使って、跳び——俺に向かって、
——これ、無理だ。
走馬灯が駆け回る。
前世の記憶に今世の記憶。
数々の記憶が入り混じり、俺は死へと——
「これは破裂かい。凄まじいのう。剣聖に加え、賢者にもなれるぞ」
誰だ?
誰かが俺とダークウルフの間に立っている。
「だが、まあ、まだ足りん」
その誰かが、ふっと手をかざすと——俺の体から傷がなくなり、ダークウルフも、消滅していた。
二つの魔法を同時に使った?
『ヒール』と、何かもう一つの魔法を。
詠唱も名称も呼ばずして。
「おまけに、勘もいいようじゃ」
なんとも威圧感のある老人だ。
「あぁ……」
声が出ない。
ビビっているのか、わからないが。
何故か声が出ない。
誰だ!と言えない。
だが、そんな俺の疑問に応えるように、ラインとアリアが、
「賢者様!!」
——口を揃えて、そう言った。
***
「け……んじゃ?」
声が出せなかった俺だが、なんとか声を出すことができた。
「真に、儂が賢者、ジーサーンじゃ」
名前、完全に爺さんじゃねえか。
「じ、じーさんさん……なんで俺を——」
「違う!」
俺の言葉を遮り、じーさんは、そう怒鳴りつけた。
「そうよアランちゃん、この御方は賢者ジーサーン様。名前を間違えない!」
ほとんど違わないじゃん!でも——
あのなかなか怒らないアリアに叱られたことで、俺は間違いを正す。
そっぽを向くジーサーンに、
「ジーサーン様、賢者ジーサーン様。申し訳ありませんでした」
ジーサーンは俺の方を向き直り、
「ま、いいじゃろう。今回は不問としよう」
鋭い目つきで、そう宣った。
「感謝します」
「ふん」
この反応からして、まだ少し機嫌が悪いようだ。
「ところで、今日は何故ここに?」
ジーサーンの怒りが鎮まったと思ったラインが、ジーサーンに訊く。
「それはのう、今日は久方ぶりの剣聖とやらを見に来たのじゃ」
「そして、どうでしたか?」
ラインが神妙な面持ちで訊ね、
「想像以上じゃ。此奴は剣才に加え、魔術の才もある」
「それは良かった」
ラインが見るからにホッとした表情をしている。
賢者って……こんなすごい人に期待されて、嫌だなぁ……。
怖い。緊張する。
「これは、面白くなりそうじゃのう」
怖い……。
後でアリアに聞いたところ、賢者ってのは各国に一人いる魔術師の最高位。
俺が読んだ本には載ってなかったけどな……。
ジーサーンはネックレッド王国に認められた魔術師ってことになるらしい。
そんな感じはしないけどな。
いろんな魔法も開発しているみたいで、教科書にも載るレベルだ。
生ける伝説だ。間違いなく、この世界の中でも最強格だ。
でも、ネックレッド王国に貴族としての爵位は与えられてないらしい。
こんなすごい人が、なぜだろう?
「息子は——アランは、どれほど強くなるでしょうか。ぜひ、私に御教授ください」
「それは——」
ジーサーンが、屈んで俺と目と目を合わせる。
ジーサーンはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、
「魔術は儂には遠く及ばんが、剣術と組み合わせたら、世界最強にもなりゆる力じゃ」
「ほう!」
ラインが嬉しそうだ。
「しかし、なぜか今は多少の力しか感じられん。疲れているのか、それとも——」
ジーサーンは俺の顔を凝視し、今度は軽く声を出して笑って、
「何か隠しているのかもしれないのう」
「……?」
ラインとアリアは二人揃って首を傾げている。
まったく、仲がいいことだ。
そして、今怖いこと言わなかったか?
ジーサーン、こいつはやばいな。
ジーサーンは俺から視線を外し、遠くの空を見出した。
何かあるのだろうか?
「ジーサーン様」
俺はジーサーンに声をかける。
こうなったら取るべき手段は一つ限り。
「なんじゃ?」
「俺を弟子にしてください!」
最強になってみたい。でも、この人は賢者だ。
そう簡単に弟子にしてもらえるわけ——
「おう、いいぞ」
意外とあっさり!?
「えぇ————!」
今度は二人揃って異常に驚いている。どうしてだ?
ジーサーンは弟子を取らないとか?
「あのジーサーン様が弟子を取るって————!?」
やっぱりか。まあ、そういう展開だよな。
「まあ、なんじゃ……たまたま、暇していたからな」
「あ、ありがとうございます」
「感謝はお前が強くなってからじゃ。……と、まあ、儂の力でも見せてやるかのう。弟子——第2号にな……」
ラインとアリアが一瞬暗い顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻した。
2号、ってことは俺の兄弟子は?
でもなんかそれについて喋っちゃいけない雰囲気出てるし、やめとくか。
兄弟子に、爵位の与えられないジーサーン。何かありそうだな。裏が。
「力を見せるとはどういうことですか?」
未だ遠くを見つめるジーサーンに俺が訊く。
「力を見せるとは——そのままの意味じゃよ」
「え?」
突如、遠くから何かの鳴き声が聞こえた。
すぐに鳴き声が聞こえた方向に目を向けると——
そこには——竜がいた。
「あれは、ワイジバーン!」
こいつも本で見た。
角がY字で、単純な名前の化け物竜。
A級魔獣だ。
「ふむ……一体か。ちと物足りないが……!」
親指と中指をつけ、音を鳴らそうとする——が、
「いや……これじゃあ、わかりずらいかのう」
目をぎらりと輝かせ、賢者ジーサーンは、
「見ておれよ、才ある剣聖——アランよ!」
その迫力から、全身が粟立つ。
勢いよく、腕を振り上げ、ジーサーンが、魔術を使おうとする。
「流門——開」
上空に龍の紋章のの門が現れ、開きだす。
「龍宮より出でよ。我、共にする死海龍王の一角。東の海を司りし至高の龍王、ゴーウ様よ!」
その名前を叫んだ途端、門から巨大な龍が顔を出した。
ワイジバーンとは比べ物にならないほどの威圧感を放つ、その龍——いや、龍王は俺程度すぐに消し去りそうな眼光でこちらを向く。
正確にはジーサーンを、だが。
『雑種程度……それに1匹。そんな相手に何故、我を呼ぶ。ジーサーンよ』
「申し訳ありませぬ。しかし、私の実力というものを若いものに見せたいと思ったので……」
『それは……』
龍王は俺の方をチラリと一瞥し、
『なるほどな。剣聖……か』
「そうです……ゴーウ様。此奴は、今代の剣聖の、いずれ最強になりうる男です」
『貴様がそこまで言うか……クックック。面白い…………ではとくと見よ!我の実力を!』
そういうと、龍王——ゴーウは口を大きく開き、
「これは……!」
紫色に輝く球体がゴーウの目の前に発生する。
凄まじい力だ。魔力の波動によって意識が飛びそうだし、立っているのがやっとだ。
「『紫炎球』じゃ。この魔法はS級で、儂でもたまにしかできん」
いやできるんかい。
……って、そんなこと考えている暇はなさそうだ。
ワイジバーンがすぐ目の前に来た時、ついに——魔法が放たれた。
「見よ。これが龍王の力じゃ。そしてお前は——」
放たれた『紫炎球』は光の線のようになり、ワイジバーンの体を消滅させ、山を溶かした。
それを背景に、ジーサーンは俺に、言葉を——
「——これを超えることになる」
「うそ……だろ……!」
こんなの超えられのか?……この俺に。クズに。
「決して諦めるのではないぞ。お前は最強になれる」
「どうして、そう確信できるのですか?」
俺にそんな期待しないでくれ、俺はそんな人間じゃない。
弟子になると言っても、本気でやるつもりじゃなかった。
どうせできないから。何も成し遂げられないから。
「それはな——」
「それは……?」
「いつか教えてやる」
「へ?」
くそ!教えてくれなかった。
なんかニヤニヤしている。
「ライン、アリア。此奴は少し借りてくぞ」
「「はい!」」
元気だな二人とも……って、連れてくって!?
どうせ碌でもないとこだろう。
「どこへ行くんですか?」
「ワイジバーンの巣じゃ」
なぜだ?意味がわからない。
どういうことだ?
そんな俺の疑問を脳内を、見透かしたかのようにジーサーンは言う。
「それはな、ワイジバーンは1匹やられると、近くの街や人に報復として攻撃するんじゃ」
「な!?でも、そんな仲間意識の強い奴が、どうして一人で?」
「それが謎なんじゃ。まあ、人的犯行かもしれないのう」
「人がやったと?」
「ああ、今までこんなことは、なかなか無かったがのう」
少し寂しげな目をして、そう話す。
しかしすぐに切り替え、
「ま、さっさと行くぞ!」
「はぁ、わかりました」
どうせできないけどな。なにも。
足手まといになるだけだ。
と、思っている反面、何故か俺の体に未だ迸っている熱が、多少の自信をつける。
しかしそんなものは、微量で、すぐに不安感に塗り替えられる。
「それじゃ、とぶぞ」
「え?」
飛行魔法を使い俺を抱えて、飛んでいった。
凄まじい速度だった。
こんな化け物爺さんのようになれるのかと不安になるが……まあそんなことは置いておいて……。
「ジーサーン様、ここがワイジバーンの巣ですか?」
「うむ。ここがワイジバーン……龍のなり損ない。超下位互換の巣の裏側じゃ。まあ、竜種とも言うがな」
俺の目の前にあるのは巨大な木でできた球状の巣。
何処か異様なオーラを放っている。
ここに入るのか……やだなぁ。
……ってか、どうやって?
「龍というのはこの世に何匹ほどいるのですか?」
龍と竜種これには大きな違いがあるのだが、今はまあ置いておくとして、俺はジーサーンに疑問をぶつける。
ジーサーンは、洞窟から目を離し、俺の方を向くと、
「八——じゃ」
「では!ジーサーン様はそのうちの半分を支配しているのですか!?」
「ああ……そうじゃ、といっても……支配というには無理があるがな」
自嘲げに言うジーサーン。
確かに、ジーサーンはあの龍に対して、敬語だったしな……。
「そ、それでは入りましょうか」
「う……うむ、そうじゃな」
なんか歯切れが悪いな……?
ま、いいか。
俺はワイジバーンの巣にどうやって入ろうか考えていると、ジーサーンが巣の壁に手をつけ、
「危ないから離れておれ——『爆裂』」
爆発音が轟く。
ジーサーンは慎重に進む俺の気も知らず、大胆に巣に乗り込んだ。
「…………」
俺は今、ジーサーンと『炎球』で辺りを照らし、歩いている。
喋ることがなさすぎて……気まずい!
どうすりゃいいんだ!
ワイジバーンもあんな大きな音出していたのに出てこないし。
ということで、質問をしよう。
「ジーサーン様」
「ん、なんじゃ?」
ジーサーンは眠たげに目を擦り、そう返した。
だが、俺が察知できる限り、探知魔法か何かを使っているようだし、警戒は怠っていないようだ。
「少し質問をしても?」
「……はぁ……許す」
めっちゃだるそうだ。
ミスしたかな……今聞くの。
「ジーサーン様は——」
「——待つんじゃ」
ジーサーンは俺の言葉を遮り、足を止めた。
なんだ?ワイジバーンでも出たか?
「いや、続けろ」
「……はい」
俺はジーサーンの態度を訝しく思いながらも質問を続ける。
「こほん。で、では……ジーサーン様は、おいくつなのでしょうか」
「120歳じゃ」
120!?どう言うことだ?
長命な種族なのか?
「言っておくが、人族じゃぞ」
「あ、そうなんですか」
ジーサーンの方から答えてくれた。
どうして、長生きできるんだ?
「それはのう」
だから心を読むな。ジーサーン。
どうして心を読めるんだ?
「魔法みたいなものじゃ」
そんなことよりもまた心を読まれた。魔法って、便利なんだな。
そこで話は終わり、また沈黙が続く。急にジーサーンが足を止めた。
「目を瞑っておれ」
「え?」
なんでですか——と、聞こうとすると、足元からベチャ。という、音が聞こえた。
足を炎魔法で照らすと、地面は真っ赤だった。
奥まで照らすと——そこにはワイジバーンの死体の山があった。
「ひっ!」
「だから、目を瞑れと言ったのじゃろうが」
「な、何があったのですか!これは!」
ジーサーンがギリギリと歯を鳴らす。
暗がりに光る眼からは、強い後悔と怒りの感情が入り混じって存在していた。
「あの馬鹿者!愚か者!」
ジーサーンが咆哮する。
俺は、少し後ずさると、
「すまん。取り乱した」
「いえ、大丈夫ですが……いったい、どうしたんですか?」
「いずれ知ることじゃ。今言っても変わらんじゃろ」
と、自分を納得させるように宣った。
「まずは、このワイジバーンの死体の処理からじゃ」
「はい……わかりました……」
俺はジーサーンと協力してワイジバーンの死体の処理をはじめた。
その間、ジーサーンはいろいろなことを教えてくれた。
「もう慣れたか?」
「はい……少し吐き気はしますが……!」
「そうか……」
それ以上は何も言わなかった。
まず、ワイジバーンなどの魔物には核があり、それは高く売れると言う。
だが、この死体は全て核をひと突きだった。まあ、それ以外にも翼や鱗は売れるらしいから、持てる範囲で取った。
一通りワイジバーンの死体漁りを終えると、ジーサーンが魔法で創った椅子に座った。
「お主も座れ、それじゃあ話すとするかのう」
ジーサーンは真剣な目つきで話し始める。
その表情は未だ、怒りの感情が残っていた。
「あれはのう、お主の兄弟子がやったんじゃ」
「——兄弟子!?」