第3話 何か認められました
次回は20日に更新します。
新しい家に慣れるのは、思ったよりも大変でした。
だって、我々は男爵家しか知らないのです。更に上の伯爵家の日々は、思った以上に緊張したのです。廊下には、高そうな壺や家具。歩くだけで怖い!
慣れない伯爵夫人の仕事をする母の補佐に、先代夫人がつきました。かなり厳しい方で、母はすっかり忙しく、姉を構う時間もありません。姉はそれが、気に入らないようです。前にも増して、ヒステリックになる姿を目撃しました。姉つきのメイドさんに、頭を下げたくなりました。姉が、ごめんなさい!
それから、我々も時間を頂いて、新しいお婆様にご挨拶しました。
「はじめまして、長女のカレンディアと申します」
「はじめまして、先代伯爵夫人様、次女のエリスティーヌと申します」
姉は、ちゃんとすまして、拙いけれども、カーテシーをしました。対して私は、必死に練習して、まぁ、見よう見まねですから仕方ないのですが、やはり、拙いカーテシーを披露しました。
「まぁ、良いでしょう、伯爵家の名に恥ずかしくないように、頑張りなさい」
厳しい方というのは、本当のようで、ニコリともされませんでした。
姉は挨拶が終わると、直ぐに離れていきましたが、私は聞きたい事があったので、その場に残りました。
「どうしました?」
「あの、先代伯爵夫人様、どうやったら、伯爵家に相応しい子になれますか? 伯爵家の恥になりたくありません!」
正直に、ぶちまけました。男爵家に居た頃、父方の祖父母がよく、男爵家の恥にはならないようにと、口癖のように言われたのです。だからこそ、伯爵家でも同じではないか? 私はそう考えたのです。
先代伯爵夫人様は、最初驚いた顔をしたかと思えば、急に笑いだしました。おかしな事は勿論していませんし、まわりも驚いていました。
「ウフフ、何を聞くかと思えば! ウフフ、良いでしょう、気に入りました、エリスティーヌ、私の事をお婆様と呼ぶことを許可します」
何故か、私は気に入られ、本来ならば許されないお婆様呼びを許可されました。まわりも驚いていましたから、本当に破格の事なんでしょう。なお、姉は許可されませんでした。後から、姉がヒステリーを起こしたと聞かされ、母は頭を抑え、私はため息をつきました。姉よ、努力しなければいけません。昔とは違うのです。
なお、アンジェリーナ様とは、お互いを愛称で呼ぶくらい仲良くなりました! 私は彼女の事を、エラと呼びます。何でも、彼女の実のお母様がつけたんだそうです。家族だけの愛称として。伯爵様も呼んでいて、アンジェリーナ様からお願いされました♪ とても嬉しいです!
代わりに彼女は、私の事をエマお姉様と呼びます。伯爵様や母、姉は、エリーと私を呼びます。伯爵様は、呼び方が近いから、家族の愛称になりました。エラとエマでは、近いですからね。エラは自分だけの愛称が欲しかったみたいです。可愛い子です。
「エマお姉様! 絵本を読んで下さい」
エラは、私と同じように読書好きなので、お互いの部屋に行っては、本を読みます。私は絵本や子供向けの本は既にスラスラ読めるようになりました。エラは流石、伯爵家のお嬢様。私と同じくらい読めます。2歳下とは思えません。私も伯爵家の恥だけはならないように、頑張らねばなりません。
なお、姉は本に興味がなく、美容や流行りを見ていました。うーん、教養は必要だと思うんですが?
とはいえ、我々にも家庭教師が決まり、伯爵家の令嬢に相応しいお勉強が始まりました。私には、中年の女性の方が。姉には、年配の女性の方が。因みにエラには、私と同じくらいの婦人が、先生についていました。
私の先生は、出来たら誉めてくれます。それが嬉しくて、私は一生懸命がんばりました。姉は逃げて、それがバレては叱られていました。何をしてるんですか、姉。母は天を仰いでいました。大丈夫でしょうか?
そんなバタバタした日常が当たり前になった、ある日。
「カレンディア、エリスティーヌ、アンジェリーナ、大切な話があるの」
その日、母と父がどこか嬉しそうにしていて、私達はキョトンとしながら、話を聞いていました。
「あのね? 赤ちゃんが出来たの」
それを聞いた瞬間、私とエラは笑顔になって、お互いの手を取り、喜びを分かち合いました。ただ一人、姉だけが、微妙な顔をしていました。
◇◇◇◇◇
息子は、伯爵位を継ぐと同時に、お嫁さんを貰いました。同じ伯爵家のご令嬢で、私もパーティー等で会った事があり、評判も上々。穏やかな日常が過ぎていきました。良く出来た嫁と、回りからも誉められましたから。
しかし、アンジェリーナが出来て、誰もが喜んだのもつかの間。出産後、彼女は産後の肥立ちが悪く、天へ召されました。
あの時の息子が、我々は忘れる事が出来ませんでした。泣く訳でも、喚く訳もなく、ただ淡々と過ごしていましたから。エラ・・・アンジェリーナに関しても、溺愛はしていましたが、どこかぎこちなく。
再婚も進めましたが、首を縦に振らない息子に、強くは言えませんでした。
そんな息子が、親友の嫁と再婚! 最初は我が耳を疑いましたが、話はトントン拍子に進み、お相手の女性も、それならばと引き受けてくれました。
元が男爵夫人だけあって、伯爵家の仕来たりや決まりに苦戦していましたが、一生懸命頑張る姿は好感が持てました。小さな我が儘も、迷惑がかかるものでもなく、逆に心配になりました。彼女、素直過ぎます。
連れ子の二人とは、私は距離を置くつもりでした。
が、次女の言葉には、久方ぶりに笑いが止まりませんでした。お着きの者達が、驚いていた事など、些細な事。
「伯爵家の恥にはなりたくありません!」
まだまだ幼い子が言ったのです。自分の言葉で! 恐らく、マーナル男爵家の先代奥様の口癖を、覚えていたのでしょう。あそこは学者肌の方が多く、真面目で穏やかな方が多いのです。
「ウフフ、何を聞くかと思えば! ウフフ、良いでしょう、気に入りました、エリスティーヌ、私の事をお婆様と呼ぶことを許可します」
気付けば私は、エリスティーヌに対し、こう言っていました。この子の父には会った事があり、自慢話を思い出しました。溺愛している娘達で、長女は美しさを。特に次女の教養の高さを声高々に話していました。
まさか、その子達が私の義理の孫になるなんて・・・。
それにしても、エリスティーヌはエラに何処と無く似ている気がします。淡い色彩も、瞳の色も。
この子達の為にも、まずは母親に頑張ってもらいましょう。