最終話 彼にガスマスクを買ってもらったんです
最終話 彼にガスマスクを買ってもらったんです
数日経って、またGが出た。今度はクロゴキブリだ。
要が殺虫剤を構えると、エスパーダはガスマスクを被った。
またネットバンクを通してエスパーダにお金を渡し、小人用のガスマスクを買ったのだ。
殺虫剤をエスパーダがいないときに使うと決めたが、あの戦いの後にエスパーダがいるときに出たらどうするかでモメた。
彼女がスナイパーライフルで殺すのすらイヤだと言うのだ。
「どうして?」
「弾丸はタダじゃないんだから。それにこれから課金もしなくちゃだし……」
「でもエスパーダ言ったじゃん。殺虫剤は毒ガスだって」
「そうだけど……良いじゃん。私をあいつらから守ってよ」
エスパーダは甘えてくる。
可愛いと要は思った。だがこのまま折れてしまって、エスパーダが殺虫剤で苦しむことになると考えるとそれもいけない気がする。
「もしエスパーダが殺虫剤を浴びちゃったら俺は助けられない。だから……」
「大丈夫! これがあれば」
エスパーダは要にメールを送った。
開くとガスマスクの写真が添付されている。
「それさえ買えば私は毒ガスで死ぬことはないの。今ならたったの一万円!」
どこかの通販番組を見て覚えたのか芝居がかった口調だ。だから要は意地悪をした。
「それはエスパーダでも買えるんじゃない?」
エスパーダが一瞬止まった。しかしすぐに再起動して、要に向けて訴える。
「要に買ってほしいの。要の買ったガスマスクを付けて、要があいつらを毒ガスで殺すところを、要と一緒に見たいの」
エスパーダは要の名前を乱発した。あんたと呼ぶことから卒業できて嬉しいのかもしれない。
要は折れてあげることにした。命を守るものだし、あげた物を使ってもらうと嬉しいし。
そういう経緯で買ったガスマスクを付けて、エスパーダは殺虫剤をGに吹きかけた要の側にいた。
「フッフッフッ、ざまぁ見ろ。私と要の家に来るからだ」
「怖いよ。エスパーダ」
「良いじゃない。そいつら嫌いだもん」
要はその敵意が自分に向いたとき、どうなってしまうのかと考えて怖くなった。




