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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
バレンタインのために
92/164

21-1.名を受けた

お待たせ致しましたー







 *・*・*









 次代は、空を駆けていた。


 守護についた宿主である、(れん)の歌声を街中に響き渡らせるために。次代は己が媒体になると告げてから、ウィンタージュを離れた。


 (くだん)袈裟羅(けさら)婆娑羅(ばさら)ことケサランパサランの異常な増殖には、母神と己を堕としかけた人間。あの黒ずくめの男女が関わっているかもしれない。


 ならば、なおのこと。今回の件には次代も力を尽くすことに決めた。だから、漣から一時的に離れても神使である己が媒介になれば、きっと役立つ。


 とにかく、中央らしき場所まで駆けて駆けて。


 ここだろうという場所まで到着してから、漣の歌で紡がれた力を体内に貯めていく。



【……うむ。行ける!】



 漣の癒し手である力が伝わり、あふれかえりそうだ。これほどの力を、あの少女が、と思うのは今更だが。守護についたことを後悔はしない。


 ただし、彼女の守護精が無事に戻るまでだが。どうして彼女から離れたかまでは誰もわからない。だが、彼女の失われた記憶と同じように、見つけてやりたい。


 だから、それを胸に留めて、次代は身体を震わせて遠吠えをした。


 風が、空気が、震えて漣の力を響き渡らせていく。


 そして、その振動を街中に伝わせるために、時々吠えながら次代は空を駆けていく。時折見えた、ケサランパサランの増殖は力を浴びせると瞬く間に消えて行った。



「……そこまでにしてもらおうか?」



 やはり、現れた。


 自分と母神を堕としかけた、黒ずくめの人間。女はいない代わりに男の方だけだったが。



【……やはり来たか】

「来ると予想していたのに、あの女の元を離れたのか?」

【山とは違う。あの店では、存分に力が振るえれん】

「そのためか?」

【力を響き渡らせる方法は、(まこと)よ】



 それに、今の次代にはただの守護についた神使だけではない。


 大切なものを宿主にもらった。


 だから、堕ちることはもうないと思っている。相手も気づいただろう。



「……その力。もしや、名付けを受けたのか?」



 男がきりかかってくる前に、次代はまた遠吠えをして力を響かせた。



【……我が名は、璐羽(ろう)!】



 導く羽根。導く路。


 それを連なる者なり。


 そして、宿主を導く者である。



『綺麗な感じだと思ったし、次代の顔の模様? って言うのが、鳥さん達の羽根のように見えたんだ』



 漣の思いが込められた、この名を裏切ることがないよう。務めは果たさせねばならない。


 男の攻撃にも当たらないよう、璐羽は空を駆けていく。


 薄いが、羽根のような結界をまとわせながら、男からの攻撃を直接には当たらないようにさせた。


 向こうも璐羽が影響を受けていないのに気づくと、少し振り返った時に舌打ちをしているのが見えた。いい気分になったが、油断してはいけない。


 名付けでさらなる力を得た璐羽であれど、また堕ちないという完璧な保証はないのだから。



「く……っそ、待て!」

【待たぬ!】



 そして、駆ける速度もどんどん速くしていけば、男がついてこれなかったようで、すぐに気配が遠退いた。


 であれば、璐羽はもうひとりの厄介な女を警戒したが、すぐには現れなかった。


 今のうちに、と陸螺(くがら)市全域に響かせるように、強く遠吠えをするのだったが。



【……ひとつだけ、うまくいかぬ?】



 どこだ、とその場所に向かえば。


 菜幸(なゆき)がネージュと共にケサランパサランを振り払っているのが見えた。

次回は火曜日〜

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