20-4.見えない敵
お待たせ致しましたー
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菜幸はいいのかどうか、少しは悩んだが。
所長の晁斗が構わないと言ったので、お言葉に甘えて、早番にしてもらってから柘植奈央美の実家を目指した。
拡散したケサランパサランはあまり見かけなかったが、一応ネージュを顕現させて根の一部を体に纏わせた。
こうすることで、簡易的ではあるが結界の役割をしてくれるからだ。東西洋の魔術を多少なりとも心得ている菜幸だからこそ成せる技だ。
本来であれば飛行も可能だが、あまり目立ち過ぎてはいけない万屋の方針もあるので、有事以外は飛行を控えている。と言うか、菜幸の霊力は先輩達である晁斗達より大したことがないので、持続力も微々たるもの。
唯一の後輩になった、つい昨日所長の晁斗と恋人になれた癒し手の漣よりも、ひょっとしたら劣るだろう。
彼女の守護となった、次代狗神の報告を受けた時。倒れたりはしたが、狗神らの加護があり復活出来たとも。
加えて、現在はその次代狗神がついている。
別に嫉妬心は出てこないが、適材適所の場がまた広がったんだなと思えた。今日の、ケサランパサランの異常な増殖を抑えるのには、菜幸がいなくともおそらく大丈夫。
だからこそ、晁斗も友人を優先していいと言ってくれた。二歳違いなのに、相変わらず出来た先輩である。
とりあえず、電車とバスを乗り継いで移動している途中。
時々だが、ケサランパサランの増殖が見受けられた。
一部の人間は持ち帰りしたがる者も居て、人間だから仕方がないと思ったりもするが。
菜幸が尊敬以上に、恋をしている安斎燈は、自称妖博士を名乗るくらいに、妖については詳しい。ケサランパサランが生じても、興味は湧いても貪欲になることはなかったそうだ。
菜幸が中学生だった昔に、助けてもらったあの頃となんら変わらない。
今年のバレンタインに、告げられればいいとは毎年のように繰り返していたが。漣が勇気を出して晁斗に告げた通りに、菜幸も頑張ってみようと思えた。
なら、明日のバレンタインに向けて用意した、生チョコ風味のパウンドケーキを渡す時に言ってみよう。
言えればいいのだが。
「マスター、そろそろ着きますよ?」
「あ、ごめん。ネージュ」
ちょっと考え込み過ぎたせいで、危うく降りる停留所を過ぎるところだった。降車ボタンを押して、電子マネーで支払ってから降りたのはいいのだが。
これまでと、比べ物にならないくらいに、ケサランパサランが拡散されていたのだった。
「これは……」
「何これ? 篤嗣先輩んとこも凄いって聞いたけど、それくらい?」
「おそらく、それ以上かと」
「ナオちゃん!!」
ひょっとしたら、このケサランパサランのせいで奈央美の体調も優れなかったかもしれない。菜幸も少ししか聞いていないが、異常な増殖には例の二人組か『裏』が関与してるかもしれないと。ならば、霊力どうのこうの言っている場合じゃない。
菜幸は、ネージュとの結界を解除させてから、小さな彼女の手と自分の手を合わせた。
「伝われ、震え。天地に降り注ぐ雨よ」
「我が力を伝え、震え。優しき雨よ」
緑の光に包まれ、光が柱状になったらその爆発的に生じた光を四方八方に飛散させていく。そうすると、綿のケサランパサランで埋め尽くされていた道が開けた。
「行くよ、ネージュ!」
「はい! 行く先々も、道を開けます!」
そうして、所々見える目印を頼りに柘植の家に向かえば。
彼女の実家があるマンションの一部、おそらく奈央美の自宅がある部分が異常にケサランパサランで覆われていたのだ。
「ナオちゃん!?」
「これは……わたくしでも出来るかわかりかねます」
「やるっきゃないよ!」
「はい!」
そうして、もう一度手を合わせようとした時。女の子の笑い声が聞こえてきた。
「きゃははは! 万屋のお姉さんかー? あっちのお姉さんよりも弱そー?」
「……誰!?」
初対面の割に失礼な物言い。
だけど、どこを見てもケサランパサランばかりで見つからない。
だが、その話し方に。菜幸自身は会ったことがないが、漣と晁斗の報告を思い出した。漣とそう変わらない、黒づくめの女を。
「……まさか。甲本を殺した犯人!?」
「あっれぇ? 頭の回転は悪くないねー? うん、そーだよー?」
「!? じゃあ、柘植奈央美さんを殺すために!?」
「うーうん? 僕の正体を正解したお姉さんには言ってあげるけどぉ。もっと、面白いことをするのに、あのお姉さんには核になってもらったんだー?」
「……核?」
姿の見えない女は、またケラケラ笑ってから菜幸に告げてきた。
「幸せな幸せなバレンタイン。それを逆にさせようかなって。あのお姉さんは、刑事さんが好きらしいんだよねぇ?」
「刑事?」
「そー、眼鏡かけたお兄さん?」
「!?」
奈央美と関わりがある、眼鏡をかけた刑事。
きっと御子柴のことだろう。何故、彼を気にかけたことを菜幸も知らないでいるのに、この女は知っているのかわからないが。
とにかく、幸せを不幸にさせると言うのは許せない。
ネージュと対抗しようとしたら、女はまた笑い出した。
「あ、お姉さんの相手してる場合じゃないんだよね〜? あの子がまた頑張っちゃいそうだから……邪魔しなくちゃ?」
最後の言葉だけ、邪気を含んだようなぞっとする声に背筋に悪寒が走ったが。待て、と言う前に目の前を何かが横切った気がした。
このケサランパサランの中を自由自在に移動出来るのか、と思ったら、もう笑い声も何も聞こえなくなった。
「っくしょー!」
「無茶をしないでください。あのような邪悪過ぎる気の持ち主。晁斗様でも対抗出来るかどうか」
「う〜〜……けど、このケサランパサランどうしよう」
中に、奈央美とおそらく母親もいるらしいのだが。きっと悪用させられているに違いない。
とりあえず、中に入る前に一度晁斗へ連絡しようとLIMEを起動したのだが。
ケサランパサランのせいで圏外にされてしまっていた。
「……ダメですか」
「あ〜〜!? もう出来るだけ頑張ろう! 回復用のお茶もちょっと持ってきてるし、少しずつでもいいから進もう! あいつに言われた弱弱の汚名も少しは返上するんだ!」
「御意」
なにもしないよりも、出来ることを少しずつやっていけばいい。
燈や克己から教わった、大事な言葉だ。
次回は水曜日〜




