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3-2.帰り際に

お待たせ致しましたー






 *・*・*









「なんだかんだでやっぱ遅くなったな」

「けど、うんまい菓子食わせてもらえたじゃん!」

「お前はそれでいいだろうがなぁ?」


 事案がなかなかに厄介だったのを一端とは言え解決したからと、井上が謝礼も兼ねて少しばかりの茶席を用意したいと言ってきたのだ。


 土木産業課とは言え市役所の一角。陸螺(くがら)市の面積はそれなりに大きい。その中央部分を任されている役所は他の区と比較しようがない。

 案内された産業課は市政の場よりも小さいが、人数は割といた。


 そして出された茶菓子は、空呀(くうが)の舌を唸らせるものだった。晁斗(あさと)(あかり)のと比べると多少劣りはするが悪くはないと思った。


 育ち盛りの頃から慣れ親しんだ味と比較するのは悪い癖だが、オールマイティにこなせれる燈の調理スキルが凄過ぎるからだ。なので、晁斗には母親の味よりも燈の味の方が体に馴染んでしまっているわけで。


 そこは置いておくが、井上との茶席よりもその上司の方が晁斗と空呀に興味を持ってしまい、上司が膝のりサイズになった空呀をあやして色々菓子を与えたのだ。


 それから数時間、団欒もだが環境改善を市が促すことを考察した方がいい事は決まり、環境課まで一緒に茶を共にすることとなって雑談を交えて意見交換が相次いでしまった。


 結果、夜も更けて役所の終業時間まで居座っていたと言う次第に。


 帰りにも産業課や環境課に菓子を持たされ、空呀は上機嫌で晁斗は少し疲弊していた。



(水質改善とか土壌改良とかそう言うのだけじゃないと思うんだよなぁ?)



 環境課の白熱した口論にはあまり口は挟まなかったが、話題を振られたらどう答えていいのか晁斗なりに考えあぐねてしまったのが多々あった。


 晁斗は所長を継いで日が浅いが、知識としては独学もだが克己(かつき)や燈の下で従兄弟達とそれなりに学んできた。だからこそ、科学だけでは解明出来ない霊的要素がどうしても顔を覗かせてしまう。



「今日のまかないなんだろな?」

「あれだけ菓子食っといて飯は別って、普通逆だろ?」

「燈の飯は美味いからな!」

「まあな」



 即答するくらい否定はしない。


 晁斗も自炊は調理補助に入ることもあるので出来なくはないが、燈の味には遠く及ばないと自負している。

 とりあえず、まかないは取っておいてくれてるから急ぐ必要もないので交通機関を使って帰ることにした。

 ウィンタージュは最寄り駅やバス停から徒歩10分圏内なので余裕だ。


 空呀は膝乗りサイズから更に頭に乗るくらいにまでサイズを変えさせてから、頭に乗せていた。高位の守護精は大きさを自由に変えれることが出来るので、ここは下位のようにカモフラージュさせる。


 と言うのも、高位の守護精は周囲の注目を必要以上に集めてしまう傾向が強いので苦肉の策だ。わかる人には小さくさせててもわかるが、そう言うタイプは大概敬遠してくれるので晁斗達は助かっていた。


 市バスは帰宅ラッシュからは逃れてるのか乗客は少し多いくらいで、守護精は出してたり内に戻してたりとまばらだったお陰か、晁斗は自分の巨躯くらいしか目立たなかった。



「まかないはポークカレーと見た!」

「お前の予想大概当たるからな? けど、兄貴のカレーは美味い!」



 バスを降りてまた徒歩になってから、晁斗らはまかないの予想を互いにしていた。


 車中では守護精との会話は普通であるが、疲れで少しうとうとしていた為に道中に出てから会話を再開させたのだ。


 今は副菜当てにいそしんでいる。



「サラダはシーザーかグリーンか」

「おかずはストックの古い順からコロッケかメンチカツか」

「どっちも捨てがたい!」

「あー……菓子ばっかじゃ腹余計減るな」



 成長期に比べて食べる量は減ったものの、それでも晁斗は体格に裏切らずよく食べる方だ。ウィンタージュの残飯処理には大抵晁斗と空呀が名乗りを上げる。他のスタッフもその守護精もだが、菜幸(なゆき)も小柄の割によく食べる。


 下手をすれば晁斗に匹敵するくらいの大食らいだ。

 時々咲乃(さくの)の少食を見習ってほしいとは思うが、彼女の場合は成人女性にしても軽めにしか食べないので心配にはなる。



(まあ、咲乃の場合は俺が心配せずともあいつ(・・・)がいるし)



 体調管理は接客業でなくとも第一に大事なので深くは考えんないでおこう。彼女は別に一人で抱え込んでいるわけではないのだから。


 さて、腹を空かせては待たせてる燈にも悪いと思って急ごうとしたが、ふいに晁斗は足を止めた。



「どーした?」

「……………いや」



 晁斗は否定しながらも、元来た道を少し戻った。

 街灯に照らされた道は至って普通の住宅街。


 歩道は整備されてて街路樹が植えられている辺り、少し広い道と言うくらいしか特徴はない。

 だが、晁斗は視界に見える奥の奥がどうも気にかかったのだ。


 空呀は黙っててくれているので構わず通りを進んだ。



「……いるのか?」

「その類でないでほしいが」



 何が、とはこの夜半で口にしてしまうと引き寄せる可能性が高いので隠す。


 時代が移り変わっても、言葉に宿る霊力は守護精を宿す人間が変わらずいるから、言霊は深く注意せねばならない。


 人間もだが、はぐれ守護精や『守護(おち)』なんかと遭遇してしまえば、素人でないにしろ戦闘経験値が玄人より少ない晁斗では太刀打ち出来るか。



「おい、晁斗!」

「ん?」



 急に空呀が声を張り詰めながら晁斗の髪を引っ張ってきた。


 考えに浸ってたので何事かと足を止めたら、空呀はぴょんと地面に降りて前足で奥を指した。



「あれ、ヒトの足じゃねぇか?」

「なに?」



 どこだ、となるべく相棒の今の目線に合わせて首を動かせば、二個先の角の方にたしかにあった。


 スニーカーしか見えないので男か女かも年齢も分かりにくいが、座り込んでいるのだけは動いていないことが物語っていた。当然、すぐに空呀と駆け寄る。



「おい、大丈夫か!?」



 近づくにつれ街灯に照らされた箇所は大きくなっていくが、相手は晁斗の大声にまったく反応どころか微動だにしない。


 その様子に少し焦って足を早めると、住宅の壁と電柱の間に小柄な体格の人間が一人座り込んでいた。

 顔はフードを被っていて見えないが、目立った外傷はない。


 先についていた空呀は鼻と耳を使ってその人物の容態を見ているところだった。



「どうだ?」

「出血の匂いはしねぇし、血の巡りや呼吸音も問題ないな。心音も至って平常。酒の匂いもねぇから酔っ払いじゃねぇよ」

「……高校生くらいだろこの体格じゃ」



 とは言っても、晁斗とは逆の意味で規格外と言うのもあるから、あながち高校生とも言えない。


 相棒の診断にひとまずほっとしたが、見つけたからには放って置くわけにも、と晁斗はしゃがんで肩を揺すってみた。



「おい……おい、大丈夫か?」



 出来るだけ弱めに揺すったものの、一向に反応がない。



「…………寝こけてんのか?」



 空呀もペシペシと前足で腹の部分を叩いているが大した刺激にはなってないようだ。晁斗も少しだけ力を入れて再度試してみても、効果は変わらずだった。



「眠りにしては深過ぎんな?」

「俺が中の守護精呼ぼうか?」

「頼む」



 人が倒れるか、深い眠りに入ってる場合は守護精は自発的には出て来られない。主にそれは下位の場合だが。


 空呀のような高位ならば基本的に出入りは可能となってくる。それでも、普段の喫茶店側の仕事最中は晁斗のナカで休眠しているから出て来ないでいる。



『……呼び声に応えよ、我が同胞(はらから)よ』



 空呀が目を細め、声を低くして相手の内にいるであろう守護精に呼びかける。


 普通はこれで出てくるのだが、予想を裏切って相手の守護精は身体からまったく出て来なかった。何故だ、と空呀と晁斗は顔を合わせるが、晁斗が術で無理矢理引き出すのは負担がかかるので執り行えない。



「…………どーする?」

「この時間じゃ夜間診療も多いだろうし、目立った外傷もなくて守護精が反応なしだとうちの方がいいな」



 ならば連れて行くしかないと頷き合い、空呀は晁斗の上着のポケットに潜り込んで、晁斗は座り込んでいる人物を背負うことにした。


 それが、思いの外軽過ぎることに晁斗は驚きを隠せなかった。



「45キロもなくないか?」

「悪いことか?」

「痩せ過ぎだろ」



 事務所に戻って目を覚ましたら燈にしっかりとしたものを作ってもらおう。そう決断して早歩きで店に戻ることにした。


 大通りに戻っても、付近が住宅街のお陰で人通りは少なくて晁斗達はそこまで目立たなかった。


 ただ、あと数分の距離で店に着く直前、晁斗の横を黒い車が止まった。



「おーい、晁斗」

「お、(あつ)兄?」



 ミラーを開けて声をかけてきたのは、咲乃の兄で従兄弟の宮坂篤嗣(あつし)だった。


 この時間ここに来るとは仕事は早上がりなのが伺えたが、車とは少し珍しかった。いつもなら自身の守護精を使って飛んでくることの方が多いから。



「珍しいな、車」

「今日は足頼まれたから篠瑪(しののめ)じゃぁな」

「ああ、飛行に慣れてねぇ上司とか?」

「そんなとこだ。つーか、誰背負ってんだ?」

「あ」



 車高の関係上見えるのは当然だった。

 だが弁解するよりも、素直に答えようと思った。

 何せ、篤嗣は刑事なのだから、こう言うのは晁斗よりもプロだ。



「道端で倒れてたの見つけて、揺すっても起きないからとりあえず連れてきた」

「守護精は?」

「俺が呼びかけても出て来なかったぜー?」



 ポケットから空呀が顔を出して答えると、篤嗣は綺麗な眉を眉間に寄せた。



「守護精が応じない? 妙だな」

「それもあって、余計にほっとけなくてな」

「どこにいた?」

「こっから俺の足でも5分くらい」

「近いな……その辺ならさっき通ったが篠瑪は特に何も寄越さなかったのに」

「ひとまず店行かね? 篤兄も飯まだだろ?」

「そうだな。乗るか?」

「ああ、せっかくだし」



 距離は然程なくとも店前では目立つだろうから、晁斗はありがたく篤嗣の車に同行させてもらうことにした。背負ってた人物は横にさせた方がいいと思い、後部座席に横たわらせて晁斗は前に乗った。

次回は17時〜

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