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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
バレンタインに向けて
85/164

19-3.話し合う①

お待たせ致しましたー







 *・*・*








 (れん)が、倒れた。


 突然、(あかり)からきた連絡に、晁斗(あさと)は視界が真っ暗になったように思えたのだ。


 だが、悠耶(ゆうや)に支えられながらも、なんとかスマホを落とさずに済んだ。それだけショックだったせいで、悠耶と燈の声が少し遠くに聞こえた気がしたが。


 次の燈の発言で持ち堪えた。



『精密検査を受けたけど、異常はなかったよ。けど、健忘症のこともあるから必要以上のストレスは貯め込んでいたみたいなんだ』

「……兄貴。漣は……今大丈夫なのか?」

『うん。とりあえず、君が時間になったら迎えにきてくれるかい? あと、君にきちんと話したいことがあるからって』

「……俺に?」

『僕の口から言うよりも、彼女がきちんと言いたいらしいんだ。そっちの練習が終わってから、ちゃんとおいでよ?』

「……おう」



 どう言う理由かちゃんと聞きたかったが、燈がはぐらかすのでダメだった。


 とりあえず、通話はそこで終わり、晁斗は思わず床に座り込んだ。



「……とにかく、大事がないならよかったね?」

「……ああ。マジで肝が冷えた」

「僕もだよ……」



 けれど、無事ならよかった。


 狗神と次代の件で無理をさせ過ぎたからかもしれない。


 それでなくとも、日常で記憶喪失者の秘密を抱え込み過ぎて、必要以上にストレスを抱え込んでしまったのだろう。


 晁斗の采配ミスだと、実感したのだった。



「……とりあえず。全部出来てたからだから良かったが」



 もう、マカロンを焼き終えて。乾燥やクリームを挟む工程まで終わっていたのだ。味見もしたし、もういっそ、これを漣に渡すべきか。


 漣の話もだが、晁斗も彼女に伝えようと決めた。


 断られたとしても、漣が大切なことには変わりないのだから。


 悠耶にその旨を伝え、包装を手伝ってくれてから二人で車に乗り込んでウィンタージュに向かった。


 裏口から入り、まずは燈と克己(かつき)に漣の様子を聞くことにした。



「うーん。本人よりも、次代様がかなり落ち込んじゃってね?」

「次代が?」

「晁斗に悪いことをしたとか……で。漣ちゃんと一緒に今事務所の方にいるよ?」

「わかった。行ってくる」

「僕はこっちで待ってるねー?」

「ああ」



 次代はきっと、漣と話し合うのを止めたことを悔いているかもしれない。もし、漣が今回倒れたストレスの原因にそれもあるのならば。


 けれど、晁斗も自覚出来たし、頭を冷やすことは出来た。だから、すべてが彼のせいではない。


 渡り廊下を進んで、一度空呀(くうが)を降してから事務所に向かう。ノックをして声をかければ、少し上擦った声の漣が返事をしてくれた。



「晁斗さん! 空呀さん!」

「調子はどうだ?」

「あ、はい。僕は大丈夫です!」

「……そっか。次代、どうした?」

「えっと……狗神の小型のまま、咲乃(さくの)さん達に思いっきり撫でまわされて」



 なので、今も小型のまま落ち込んでいるらしい。もふられたこともだが、漣との間に通せんぼをしてたことも。


 深刻な落ち込みようではないのに安心出来たので、晁斗は包みの一つを空呀に渡して、次代と休憩室に行くように頼んだ。



「なあなあ、次代? 美味いもん食って元気出そうぜ?」

【……応】

「んじゃ、行ってくるー」



 人型になった空呀が次代を抱え、事務所から退室してくれた。扉が閉まり、階段を下りる音が遠くなったら、完全に晁斗と漣は二人っきり。


 いくらか緊張はしたが、晁斗は同じく緊張している漣の髪をぽんぽんと撫でてやった。



「兄貴から聞いたぜ? 思った以上にストレス抱え込んでたって」

「……すみません」

「お前は悪くねーって。で、話って?」

「あ、あ、あの……!」



 まずは落ち着かせてから本題に移ろうとしたのだが。


 余計に緊張を煽ってしまったらしく、漣は顔を真っ赤にしてしまったのだ。



「お、おう?」

「け……ケサランパサランなんですが!」

「あ?」

「一度だけ……願ったこと…………なんですけど」

「おう?」



 すれ違いのきっかけとなったことを話してくれるらしい。


 なので、立ったままは疲れさせると思い、二人で向かい合うようにソファに座ることにした。

次回は火曜日〜

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