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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
バレンタインまで
79/164

18-3.念願のバーガーセット

お待たせ致しましたー







 *・*・*








 気まずい雰囲気にさせたのは自分だと、(れん)自身が強くわかってはいる。


 わかってはいるが、どうしても晁斗(あさと)と目が合わせれないでいる。


 あの時、克己(かつき)に指示されて、ケサランパサランにほんの些細な願い事をしたせいだ。それは、本当に些細なことで、嬉しいと本心では思っているのに。咲乃(さくの)達に恋心を自覚させられたばかりの漣には、どうしたらいいか考えあぐねていたのだ。


 それから、喧嘩に似た気まずい雰囲気になってしまい、数日は晁斗と挨拶以外まともに会話していない。



「……僕が、いけなかったんだ」



 あの時、晁斗に自分に振り向いて欲しいと願ったから。そしてそれは、思ったことが実現されてしまい、漣に意識を向けてくれたのだが。


 晁斗に、ケサランパサランの影響で、漣を気にかけているんじゃないかと思いかけたりもした。でも、それは違うと咲乃や次代に言われたのだ。



【袈裟羅・婆娑羅の影響力は、個別では然程大きくはない。汝が願った一体のみでは力が足りぬよ】

「……けど、実際晁斗さんに申し訳なくて」

【好いているのであれば、振り向いて欲しいとは思うのであろう?】

「そうだけど」



 今は、万屋の事務所で次代とミートタイム中だ。肝心の食事は今(あかり)が作ってくれているので、内線で連絡が来るまで待機している。


 今日は、漣の念願だったアボカドとチーズのバーガーセットを作ってくれる日だ。楽しみにしていたのだが、せっかく晁斗にもお願いしたのになんだかそわそわしてしまう。


 ちょっとため息を吐きながら自己嫌悪していると、内線の電話が鳴り出したので、漣は以前教わった通りに受話器を取った。



「はい、漣です」

『あ、漣ちゃん? 出来たから、次代様と一緒に取りにおいで?』

「わかりました」



 出来上がったのなら、取りに行かなくてはいけない。次代にも人型になってもらい、二人で喫茶側の厨房に取りに行けば。カウンターの前に置かれていたバーガーセットは、まるで夢を体現したかのような出来栄えだった。



【おお】

「すっごい、美味しそうです!」

「はは、ありがとう。普通のバーガーよりボリューム多いし、しっかり挟んではあるけど。こぼれるかもだから、気をつけてね?」

「はい!」



 サイドにも、ワクワクバーガーにあったようなオニオンのフライとポテトまでついていた。サラダも食べやすい適量であるし、ここで今にもかぶり付きたくなるくらい。


 けど、客に見える位置なので。落とさないように次代と一緒にトレーを持って行こうとしたら、燈から声を掛けられた。



「あ、オニオンとポテトだけは晁斗君担当だから」

「え?」

【ほう。あれもか?】

「じゃ、ごゆっくり」

「は、はい」



 晁斗も作ってくれた。


 なら、お礼を言わなくてはならない。


 けれど、今は仕事で声を掛けられないし。帰宅したら、彼の祖母である暁美(あけみ)の手伝いで料理の練習。その後は、お風呂まで書庫にこもって次代の名前候補決め。


 だけど、次代から提案があったのだ。約一週間後のバレンタインで、きちんと謝ればいいと。きっかけがなんであれ、想いを告げるまでに至らないかもしれないが。


 晁斗に心を込めて、バレンタインチョコを贈る時に謝ればいいと。


 けれど、漣のリクエストを燈と一緒に叶えてくれたのだから、一言告げた方がいいかもしれない。


 なら、これを食べてから、御礼だけは言おう。


 そう決意してから、事務所の方に戻っていく。



【うむ。美味そうだ。漣よ、すまぬがこれの食べ方を教えてくれぬか?】

「いいよ」



 と言っても、漣はここに世話になってからの記憶しかない。が、次代と出会う前にちょっとだけ入院していた時も、菜幸(なゆき)にたくさん食べさせてもらった。


 だから、こういうのはとっても大好きなのだ。



「こっちの大きいのがハンバーガー。中にはお野菜だったり、お肉のハンバーグが挟んであるんだよ。包まれてる、紙の部分を手で持ってかぶりつくの」

【ほう? 握り飯とは違うが、手で食べるのか?】

「えと。一番上と一番下にあるのがパンだから、パン食らしいよ?」

【ふむ】

「で、こっちのお野菜はサラダで。こっちの揚げ物が玉ねぎとじゃがいもを揚げたのだって」

【興味深い】

「じゃ、食べよ?」



 冷めないうちに、と手を合わせて。


 次代と一緒にかぶりついたら。これまで食べてきたハンバーガーのどれよりも美味で。


 どれよりも食べ応えがあって、漣は涙が出そうになった。



【うむ。肉と野菜が調和している。美味だ】

「ね! すっごく美味しい!」



 バンズは燈の手作りではないらしいが、燈の伝手で手に入れたらしいふわふわのパン。噛み応えがあり、ハンバーグのパティとの相性も抜群。アボカドやトマトは冷たいが、歯で簡単にほぐれるくらいの柔らかさで、バンズから落とさないようにするのが少し大変だった。



【……ほう。塩のみで味付けしているのか。だが、そのおかげで素材の味が生かされている】



 次代は半分ほどバーガーを食べてから、サイドの方に手を伸ばした。


 たしかに、胡椒もなくシンプルに塩で味付けしただけのに、野菜の甘さを引き立ててすごく食べやすい。


 サラダもシーザードレッシングで和えてあったので、食欲をかき立ててくる。これは贅沢なバーガーセットだった。



「……あ」



 夢中で食べていたら、あっという間になくなってしまった。


 ただ満足感は得られたが、どこか物足りなさを感じた。


 それはきっと、晁斗にありがとうを言えていないから。


 次代にもそれを悟られたのか、空いている手でぽんぽんと頭を撫でられたのだった。

次回は金曜日〜

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