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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
バレンタインまで
78/164

18-2.待機させられる

お待たせ致しましたー







 *・*・*








 バレンタインチョコの候補も決まった。


 作る日も、練習日程も決まった。


 あとは、(れん)と仲直りするだけ、と晁斗(あさと)は決めたのだが。漣が、漣が同じ家に住んでいるのに捕まらない。


 今日、漣は仕事が休みなので先に帰ってはいたが。祖母の暁美(あけみ)と料理の練習をしていたり。暇な時間があれば、次代の仮名を決めるのに書庫に籠っていたり。


 書庫にいる時に声をかけようとしたのだが、人型の次代によって通せんぼさせられてしまった。



「……なんでダメなんだよ」

【あれの集中力を途切れさせないためだ。汝も、今は耐えてくれ』

「……けど」

【漣と気まずい感じになっているのは知っている。だが、理由を問いただすのには。もう少し待ってやってくれないか?】

「次代?」

【……あと一週間。すまぬが、耐えてくれ】



 何故、その期限か。


 すぐには理解出来なかった晁斗だったが、次代が待てと言うのなら待つしかない。


 なので、次の日に(あかり)に相談に乗ってもらうことにした。



「ふむ。次代様が待てとおっしゃるのなら、楽しみに待っていればいいんじゃないかな?」

「……そうは言うけどよ、兄貴」



 同じ家に、同じ職場に居て。接点は多いはずなのに、ここ最近はすれ違うばかり。


 挨拶とかは無視されないのだが、あの人懐っこい笑顔ではない。ちょっと苦しいような、目が合えば顔を真っ赤にしてしまうのだ。それに似た反応をどこかで見た覚えがあるのだが、すぐには思い出せない。



「いいじゃないか。我がウィンタージュの新所長の青い恋だ。僕は応援するよ?」

「! 兄貴、いつから……?」

「ん? 割と最近かなあ? 君はわかりやすいからね?」

「……バイト達には」

「多分、勘のいい子達は気づいているんじゃないかな?」

「〜〜〜〜……っ!」



 勘のいい、つまりは大多数に知れ渡っていると言うこと。全員が全員ではないらしいが、それでも気恥ずかしく感じる。


 今は蛍嵐(けいらん)のいないウィンタージュの厨房だが、晁斗はカウンター側で頭を下ろした。



「はっはっは! いいじゃないか? 若いから大いに悩みなさい。今しか出来ないからねぇ?」

「……そう言う兄貴こそ、菜幸(なゆき)のことはいいのかよ?」

「!……僕は、いいんだよ」



 菜幸本人だけ気付いていないらしいが。本人の燈への気持ちは大多数にバレてしまっているのだ。信奉者である御子柴(みこしば)にまで。


 しかし、彼女は告げることもなく、ただただ燈を尊敬して慕っているだけだ。今回のバレンタインでも動くかどうかは怪しいところだが。


 だが、燈はどうなのか今年はわからない。突っぱねてもいないが受け入れてもいない感じだ。



「そう言ってっと、あいつ滅多になくったって。客からラブレターもらうこともあるんだぞ? 横取りされてもいいのかよ?」

「晁斗君、まずは自分の事を考えようか?」

「あ、今逃げた!」

「むむ!」



 珍しく、揚げ足を取れた。


 にしし、と笑ってやると、燈はコック帽の上から頭を掻いた。



「自覚してんのは、兄貴もじゃねーか!」

「く……不覚」

「いいじゃん? 俺と違って両想いなんだから」

「とは言え、こんなおじさんにねぇ?」

「三十代前半はオッサンじゃねーよ」

「……そうかなあ?」



 だが、燈が悩むもう一つの理由があることは、晁斗も知っている。もう少し若い頃に、裏のせいで目の前で友人だった女性を死なせてしまったのだ。


 まだ菜幸と出会う前だったので、彼女はおそらくそれを知らないでいる。二度と、目の前で大切な人を失いたくはない燈の気持ちを。



「歳の差だって、別に気にし過ぎない方がいいぜ? 芸能人とかはやり過ぎだけどよ?」

「まぁね? で、晁斗君は漣ちゃんには言うのかい?」

「…………わだかまり、が解消すれば」

「じゃ、バレンタインには気合いを入れないとねぇ?」

「……ところで、今作ってんのが。漣に頼まれた?」



 わざと話題を変えれば、燈はうんと頷いた。



「ちょっとだけ、アボカドを熟させるのが大変だったけど。いい出来に仕上がりそうだよ? 次代様の分も余裕で出来そうかな?」

「食べ慣れたものが、バーガーかもしんねーか」



 あの黒ずくめの男女とどう関わりがあるかは未だに謎ではあるが。


 漣は、漣だと悠耶(ゆうや)に言われた事を思い出すのだった。



「俺、ポテト揚げるわ」

「休憩中なのに、いいのかい?」

「ま。なんでもいいって言ったのは俺なのに、なんもしねーわけにはいかねーよ」



 次代を連れ帰った時の、あの笑顔。


 あれをもう一度でも見たいと言う、不純な動機ではあるが。


 手伝うことで気を紛らわしたいのも本音ではあった。


次回は火曜日〜

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