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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
バレンタインまで
77/164

18-1.久しぶりに充実

お待たせ致しましたー







 *・*・*








 ケサランパサランの異常な増加。


 異常と言っても、世間的にはとても緩やかでいて。


 その世間は、バブル成長期の再来とまで言われ始めてはいるのだが。


 正直言って、愚の骨頂。


 そう、警視庁一課の刑事である御子柴(みこしば)清司郎(せいしろう)は思っていた。


 他人、いや、妖にわざわざ幸運を運んでもらうなど、正直言ってバカバカしく感じているのだ。幸運は自分の手で掴んでこそ、成就されるのだと清司郎は思っている側だ。


 特に、世間を賑わせているのは、バレンタイン。


 同じ課であり、級友以上に親友と言っても過言ではない宮境(みやさか)篤嗣(あつし)にも言われたのだが。


 清司郎には、好意以上に崇拝している女性が一人だけいる。


 ウィンタージュ並びに、万屋の経理担当の古厩(ふるまや)菜幸(なゆき)と言う若い女性だ。清司郎とも六つも歳の差がある。


 そんな若い女性に、懸想以上に崇拝している経緯は色々あったのだが。今年のバレンタインこそは、とお世話チョコなるものを手渡そうと決めたのはいいのだが。


 外回りのついでに、百貨店に訪れたのはいいものの。


 清司郎はどの菓子が菜幸にふさわしいか、選び続けて小一時間も時間を食ってしまっているのだった。



「……どれがいいんだ」



 マドレーヌ、フィナンシェ、パウンドケーキにホールケーキ。マカロン、クッキー、ショコラ、キャンディー。


 どれもこれもが、菜幸に相応しいと思ってしまい、手に取るが。よく見たら違う、などを続けていたらそんなにも時間が経ってしまったのだ。



「あの眼鏡のイケメン。さっきからずっとあちこち行ってるよね?」

「彼女かなあ? 逆チョコだよね?」

「あんなイケメンの彼氏に悩まれるだなんて、羨ましいー」



 と、あまりにも悩み過ぎて、周囲の若い女性達には勘違いされてしまう始末。


 たしかに、逆チョコではあるが。違う、好意を込めたものではない。ウィンタージュにも頻繁には行けないが、崇拝する菜幸にいつも万屋で世話になっているからと、お世話チョコを渡すためだ。


 それに、菜幸は決して清司郎には靡かない。清司郎よりもっと前から、想う相手がいるのだと知っているから。



「……無難に、クッキーにしましょうか」



 一人で食べるのも良し、分け合うのも良し。例の癒し手である、(れん)と言う少女にもきっとあげるに違いない。


 そうと決まれば、と会計の列に並ぼうとしたら一人の女性の肩が軽く腕にぶつかった。



「すみません!」

「いえ、こちらこそ」



 ただ、顔を上げられたら、清司郎もだが相手も見覚えのある人物だと認識したようだ。


 先の、半堕ち事件の時に巻き込まれた女性だったのだ。たしか、名前は柘植(つげ)奈央美(なおみ)だったはず。



「刑事、さんですよね?」

「はい。柘植さんでしたね?」

「こんなところで! 偶然ですね?」

「そうですね。あなたもバレンタインのお菓子を?」

「あ、はい! 職場と……あと、ウィンタージュの皆さんに」

「……そうですか」



 そう言えば、彼女は菜幸と友人関係を結んでいたはずだが。きっと、今年世話になった礼と一緒に彼女にも友チョコを渡すつもりなのだろう。



「あ、刑事さん」

「はい。あの、ここでは御子柴と呼んでもらっても構いませんか?」

「あ、すみません! その……御子柴さん、少しお時間をいただいてもいいですか?」

「……ええ。少しだけなら」

「その。万屋に行こうと思ったんですが、警察の方にも相談に乗っていただきたくて」

「わかりました。それぞれ会計を済ませてからにしましょう」

「はい!」



 いったいなんの相談か。


 先の事件のように、呪をかけられたものかもしれないが、奈央美の表情に特に変化は見られない。


 であれば、違う用件かもしれないなと思い、清司郎は会計を済ませてから適当な柱の前に立った。背が結構あるせいか、奈央美もすぐに駆け寄ってきた。



「では、喫茶店とかでいいですか?」

「はい」



 出来れば個室の方がいいと思い、清司郎は馴染みのある喫茶店に彼女を伴い、個室で相談を受けることにした。



「で、ご用件とは?」

「最近……仕事が順調過ぎるんです」

「? 良いことでは?」

「はい。いいことだとはわかってはいるんです。でも、新人の私が頻繁に定時に仕事が終われるのが……不思議で」

「どこを、妙だと?」

「えと。同じくらいからですが、会社にケサランパサランと言うのが出てきてからです。部長が増やせばいいと決めてから……その。なんだか、気味が悪いくらいに仕事が順調過ぎて」

「! あなたの会社にも、ケサランパサランが?」

「も、ですか?」

「ニュースは見ましたか?」

「あ、いえ。普段からあまり、テレビは見ないんです」

「……そうですか」



 ウィンタージュにもだが、世間に増殖したケサランパサラン。こんな身近にも増えたとなれば、いくらなんでもおかしいと感じても当然だ。


 それに、万屋と関わりがあった奈央美が不気味に思うくらいだから、増え方も尋常ではないのだろう。



「一度、ユキ……古厩さんにLIMEで連絡はしたんですが。まだ返事がなくて」

「そう言えば、あなたは彼女と友人になられたのですね?」

「御子柴さんは、古厩さんをご存知で?」

「ええ。万屋と警察は密接な関係ですから」



 特に、菜幸については清司郎が一方的に崇拝しているとは言えないのだが。いくら、崇拝していても一般人には理解しにくい思考だとは自覚しているので、基本的に篤嗣の前でしか見せていないのだ。



「ふふ、ユキちゃんはかっこいいですからね」

「カッコいい、ですが?」

「はい! 最初に彼女と出会った時も……半堕ちになった甲本さんに単身で立ち向かっていましたから」

「彼女は、勇猛果敢に事態に向き合いますからね?」

「ですよね!」



 などと、相談からいつの間にか菜幸の共通点を語り合ってしまい。いい加減戻れと篤嗣から通知が来るまで、清司郎は久しぶりに女性との対話を楽しんだのだった。

次回は土曜日〜

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