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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
バレンタイン練習
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17-4.バレンタインの練習ー女子編ー

お待たせ致しましたー







 *・*・*








 料理というのは、基本的に難しいイメージを持っていた(れん)だが。


 お菓子作り、と言うのはどうやら普通の料理とも違って分量が大切なんだとか。


 まず、チョコを刻むことが大変だった。漣は包丁をほとんど扱ったことがないので、今回はキッチンバサミで。切っていく感触はなんとも言い難いが、怪我をしないよりよっぽどいいだろう。


 せっかく好きな相手に、そんな血まみれのチョコなんて食べさせたくはない。



「ふんふん。チョコは湯煎で溶かしていいけど、ふるった粉とは別に。卵白とかは泡立てなくていいんだ? これは、漣ちゃん向きね?」

「? はあ、そうなんですか?」

「私のは、バター不使用なんですっごく楽っす!」

「私のパウンドケーキは、メレンゲが必要だから大変だわ〜」



 今はそれぞれチョコを刻んでいるのだが。咲乃(さくの)菜幸(なゆき)は手慣れているのか、包丁で細かく刻んでいる。漣もハサミでだいぶ細かく切ってはいるのだが、少しいびつだ。


 それが終わったら、薄力粉などの粉類を計量してから専用のザルのような、持ち手を引くだけで綺麗に振るうことが出来る道具できめ細かくして。


 次に、バターを溶かすらしいのだが。



「ノワゼットバターだけど。少し焦がしたバターを意味するの」

「こげた、バター?」

「普通のフィナンシェだと、そのまま入れちゃうらしいけど。今回は丁寧にするから、焦げた部分は取り除くの。一度、やってみましょうか?」

「はい」



 そう、今回漣が晁斗(あさと)に作ろうとしているのはフィナンシェ。しかも、バレンタインなのでチョコ味のフィナンシェにするつもりだ。


 このひと月、主に熊谷(くまがい)家でだが。晁斗がプレーンや抹茶だったり、チョコだったりキャラメル味だったり。


 守護精の空呀(くうが)とよく食べているので、好きなのかなと思っていたのだ。ちなみに、漣にも食べさせてくれたりしたので、どんな味のお菓子かは知ってはいる。


 それを、まさか自分で作れる日が来るとは思わないでいたが。



「お菓子に使う、バターの量はすんごいけど。しっとり美味しいものを作るには、妥協……わざと減らしちゃダメよ?」

「は、はい」



 それにしても。砂糖もだが、バターの量が尋常ではない気がする。しかし、咲乃が言う通り、失敗しないためにはこの作業は必要なのだろう。


 チョコと同様に、こっちは食器用のナイフで細かく切ったバターを鍋に入れて、コンロで初めて火をつけてみた。


 少しでも、晁斗を手伝えるように、コンロの使い方を覚えるためだからだ。



「うんうん。ゆっくり溶かして……しばらくしたら、塊が無くなって黄色い液体になるから。そこからが、勝負よ?」

「勝負?」

「泡立ってきて、細かいゴミみたいな焦げた部分が出来るの。けど、気にしなくていいから。その状態をノワゼットバターって言うの」

「わ、わ! 溶けてきた!?」



 中火、と言う火加減で溶かしたせいか、あっという間に塊がなくなってしまい。それからすぐに泡立って、細かい茶色のようなゴミが出てきた。


 だが、咲乃が大丈夫と言うのなら、これでいいのだろう。


 火を止めてからは、目の細かい茶越しと言うので、ゴミを取り除く綺麗なノワゼットバターをボウルに入れて冷ましておけばいいそうだ。



「さて、こっちは冷ましておかなきゃだから。次はチョコの湯煎よ?」

「お湯に溶かしちゃうんですか?」

「違う違う。そうすると、ホットチョコになるわ。菜幸ちゃんがちょうどしてるから見て?」

「ほーい」



 隣のコンロで、菜幸の作業を見てみると。鍋の上にボウルを乗せて、そこに刻んだチョコと溶けたチョコがあるのが見えた。



「? こうやって、チョコを溶かすんですか?」

「そーそー。鍋に沸騰させたお湯とか入れてー、ボウルに入れたチョコを直火……直接火で溶かすんじゃなくて、間接的に溶かすの。焦げとか、香りを飛ばさないためとかー。理由は色々あるけど」

「き、気をつけます」

「さ、漣ちゃんもチョコ溶かしてみましょうか?」

「は、はい!」



 先は長そうだと思っても、これらはまだ練習だ。


 晁斗に美味しいフィナンシェを食べてもらうのに、頑張ろうと漣は意気込んだ。


 チョコの湯煎、卵の仕分け、卵白を混ぜすぎないなどなどなど。


 全部が終わり、ようやく焼きの工程に移る前に、咲乃が型を探して来てくれたのだが。


 漣の知る長細いのではなくて、ハート型と呼ばれる可愛いらしいものがあったそうだ。



「ハートは好きとか、自分の気持ちを表したりするマークなのよ! 漣ちゃんが晁君に自分の気持ちを伝えるのにぴったりだわ!」

「え、え、え!?」

「ナイスっす! 咲乃先輩!」



 まだ想いまで伝えるつもりはないのに。だけど、咲乃や菜幸は応援してくれている分、背中を押してくれているのだろう。


 賛成されているから、その気持ちはありがたいものだったが。



(……晁斗さんに、好きって)



 言えるかな、と考えた途端に顔に熱が上がってきてしまい。咲乃達にはくすくすと笑いながらも頭を撫でてもらえたのだった。



「さて。漣ちゃんのレシピだと。最低2時間は型に入れて冷やし固めてから焼いた方がいいから」

「ぼ、僕、お二人のもお手伝いします!」

「出来ることが増えたらいいものね? じゃ、漣ちゃんにはナッツを砕いてもらおうかしら? 袋に入れて、棒で叩くだけなんだけど」

「は、はい!」



 包丁でもいいらしいが、今回は麺棒で叩くパターンで手伝うことになり。


 咲乃の、悠耶(ゆうや)へのバレンタインプレゼント作りの練習を手伝うのであった。

次回は木曜日〜

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