2-2.市役所からの依頼②
お待たせ致しましたー
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「なんだありゃ?」
晁斗の視界に入ってきたのは黒いずんぐりとした塊だった。
「な? 変なのだろ?」
「正体はわからねぇか?」
「大体は想像つくが、こりゃ星燕も呼んできた方が良かったな。俺と晁斗だけで解決出来っか正直微妙だ」
「なんでだ?」
「眷属の関係だな。五行の中だとあいつは木に属するから金の俺じゃ相性がちぃっとやばい」
「てことは、あいつは土気の類か?」
「定番中の定番、鯰の主だ」
空呀はちょうど塊の側に降り立つが、塊はぴくりとも動かない。
たが、不用意に触れる訳にもいかないので晁斗はそれと距離を置いた。
「これをどうにかすんのになんで俺らだったんだ?」
ならば、相性が良い悠耶の方が確実に解決出来ると思ったが、ここで塊が少し動いた。
「風の匂いですじゃ」
「は?」
塊は体を起こして顔を出してきた。
空呀が言ったように大きな鯰そのもの。
びよんと触覚の髭が地面から出てきて、分厚い唇も顔を見せた。
「儂は、この辺り一帯を治めていた妖の子孫ですのじゃ」
「子孫?」
妖を含め、精霊の類は数多く存在する。
でなければ、守護精のような存在が人間と生活している現実と釣り合わない。神の類はあまり発見されてはいないが。
「そんな妖がなんでこんな荒れた土地に埋まってるんだ?」
体を起こしても半分以上は地面に埋まってる状態。
鯰は晁斗の問いかけに、はぁ、と息を吐いた。
「ここは儂の先祖が清き水と風を求めて降り立った土地なのですじゃ」
「ここが?」
「元は河原があり緑も豊富だったと聞いておりましたが、来てみればこのように」
そして、干からびる訳にもいかずと水気を少しずつ吸い上げていたらこのようになっていたと経緯を説明してくれた。
「なるほど。帰巣本能からって事情か。けど、戻ろうにも元あった水源すら吸い込んでしまって戻れなくなったってとこか?」
「お恥ずかしながら……」
「だが、それなら尚更白虎の空呀でなくて青龍の化身を持つ者だろ?」
そして水を豊富に呼び出せる星燕の力が必要だ。
ところが、鯰の主は左右に首を振った。
「いえ。水気でしたらこの地下に豊富に蓄えておりますのじゃ。お願いしたいのは、風の力で切り裂いて川を作って欲しいのですのじゃ」
「なーるほど! 風刃は俺の得意分野だぜ!」
空呀は得意げに鼻息を荒くした。
それにはなるほどと晁斗も手を叩く。
「んじゃ、空呀。一旦俺をさっきの人のとこに戻してくれ。事情は説明しておくし、この主が元いた場所に戻れるようにすれば水気の問題は解決するだろうな」
「りょーかい」
「お願いしますですじゃ」
晁斗は井上の所へさくっと戻り、鯰の主の説明をした。
「そんな妖が居座ってたんですか?」
「悪気はなかったでしょうが、あとは環境変化も著しく変わってたせいもありますね。そこはとやかく言いませんが、異常事態はとりあえず解決しそうです」
「……そうですね。土地開発があったり放棄されたりしたのは我々人間側の誤ちですから。では、その妖の誘導をお願い出来ますか?」
「元よりそのつもりです。風の刃で土壌を削った後に小規模の川なんかは出来てしまいますが」
「私が上に報告します。ひとまず、その妖を元いた地域に戻さないと何も進めれないでしょうから」
「承知しました」
了承を得たので、あとは実行するのみ。
晁斗は再び空呀に跨って鯰の主の所に逆戻りした。
「了解は得た。川のことも説明したから、空呀は思いっ切り地面を抉ってくれ」
「わーった! 晁斗はその主の側にとりあえず居てくれ」
「ああ」
それと体調面があまりよろしくないので、晁斗は持ってきた鞄の中から携帯食料にと取っておいたフリーズドライのラズベリーを使ったクッキーを取り出した。
「ほとんど水気しか摂取してないんだろ? これ食ったらちょっとはマシになると思うぞ」
「……かたじけのぅございますじゃ」
少し大きく口を開けたので、その隙間目掛けて晁斗はクッキーを投げ込んだ。
鯰の歯は鋭いのでジャリジャリとクッキーを砕いていくが、咀嚼していくうちに舌にまで届いたのか目尻が更に垂れ下がっていく。
「なんと甘酸っぱくもあり香ばしい! ヒトの食物など随分久しいことですじゃ」
「俺じゃないが、俺の先輩が作ってくれたもんなんだ。もっと食うか?」
「いえいえ、充分ですじゃ。それよりも」
主の目線の先にはどんどん地面が抉れて出来た道のようなものがあった。
空呀が風刃を使って突発的な突貫工事のようなものをしたお陰だ。あとはここに主の下で蓄えてる水気を浮上させて流せば、川の出来上がりとなる。
「なんとまあ、お早いことで。これならばすぐに行けますのぅ」
「ここの環境は俺達ヒトの手で壊しちまったからな。すぐとはいかないが、万屋に任せてくれ」
「ほぅ。幽界の片隅に聞いた万屋とはそちらのことでしたか。これはありがたいことで」
「じゃ、水気を解放してくれ」
「はいですじゃ」
ふよんと主の体が動き出し、腹から下の方が地面から離れて浮かび上がった。
その下には主が言ってた通りに大量の水が溜まっていて、今にも噴き上げてきそうであった。
「この水はほとんどが湧き水ですのじゃ。儂がここで動けぬ間体を守ってくれたのはこの水なのですじゃ」
「なるほど。お前が戻っていけば、多分泉かちょっと小さい池になるかもな?」
「そして、そちらの白虎殿の風を吹かせば土の深い所に根付いたままの草も持ち直すことでしょうな」
と言って、主は出来た道に体を降ろして後方の水を巻き上げた。
『我が道を造り給うせ。流るる河の礎よ!』
主の声と共に水が彼に降り注ぎ、道にざぶんと流れ始めた。
緩く、だが次第に速くなり、瞬く間に彼方に見える別の水源目掛けて川が出来ていった。
「では、あとはお任せしますのじゃ」
「ああ。この通路が出来たんならいつでも来れる。緑が戻ったらまた来いよ」
「はいですじゃ」
主は水に体を委ねてそのまま進み出し、晁斗の視界でも米粒ほどになったところで水中に潜っていった。
「依頼はこれで完了なのか?」
空呀はようやく戻ってきたが、晁斗は左右に首を振る。主が言っていた方法をまだ試していないからだ。
「この水を竜巻で上空に持ってって大体500m四方に撒く。あの主が、この水を撒けば地中に残ってる根が息を吹き返すそうだ」
「へーい」
空呀は指示通りにじわじわと溜まっていく泉の水を巻き上げ、噴水のシャワーのように広がせて四方に蒔いていく。
これで、ひとまず依頼は遂行出来た。
晁斗は井上の所へ再び戻り、依頼は井上ら市役所と共同で環境改善に努めることがいいだろうと報告した。
井上からは特に異論もなく、むしろその方がありがたいと腰を深く折られた。
次回は12時〜




