16-2.自覚させられる
お待たせ致しましたー
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漣は今、ある意味窮地に陥っているのではと思わずにいられなかった。
万屋幹部である女性二人に囲まれて、何やらニヤニヤと微笑まれるばかり。
場所はちなみに、喫茶側の女性ロッカールームである。他に、女性スタッフは誰もいない。
「あ、あの……咲乃さんに、菜幸さん? お話ってなんですか?」
「「ふふふ、漣ちゃん!」」
「は、はい!」
二人同時に声をかけられたので、漣は反射的に返事をしてしまった。すると、咲乃の方からぽんぽんと肩を叩かれた。
「細かいことはともかく、いきなり聞くよ?」
「は、はい?」
「漣ちゃんは、晁君のことは好き?」
「好き……ですけど?」
素直に答えると、答え方が悪かったのか二人は大きくため息を吐いた。
「違う……違うわ!」
「これ絶対、『like』の方っすよ!」
「漣ちゃん、よく聞いて! 晁君は、私の悠君とは別の意味でお客様から人気が高いの!」
「? いいことなのでは?」
「じゃあ、漣ちゃん? お客様……女の人と誰かが、晁君とお付き合い……つまりは恋人同士になるのはどう思う?」
「お付き合い、ですか?」
「え」
「……ダメっす。咲乃先輩、まずそこからっすよ」
重度の記憶喪失のため、漣には一定以上の常識が欠如している。たまに突飛的な発言もあるが、基本的には中学生以下の子供とほぼ同じ。
とは言え、万屋に引き取られてからは、幹部メンバーなどに勉強を見てもらい、仕事の大半も喫茶側なので少々身については来た。
だが、今回のようにまるでわからないと言うこともあるので、漣は正直に答えたのだがどうやら二人にとっては予想外過ぎたのだろう。
「いーい、漣ちゃん」
「はい?」
「基本的に、恋人は男女がなるの。たまに同じ性別の人とかがなるけど、今回は無視していいから」
「はあ?」
「そして将来的に、結婚。つまりは夫婦になるのよ? 私は悠君とそのつもりでいるけど……漣ちゃんは晁君が他の女の人とそうなったら、どう思う?」
「…………」
漣は、何故か胸が痛んだ。
何故かはわからない。けど、正直に嫌と言えるのかもしれない。
笑顔が絶えず、漣に対して親身に接してくれる上司であり、下宿先のお兄さんであり。今一番近いところにいる男の人だ。
記憶を無くす前はどんな生活をしていたかわからない自分だが、晁斗の側はとても心地よい。ウィンタージュに来てから、生活全部が心地よいのだがその中でも晁斗の近くが一番好きだ。
「お? 漣ちゃん自覚した?」
菜幸に声をかけられると、素直に頷いた。
「その……正直、嫌……です」
「よしよし、その言葉が聞きたかった!」
「やっぱり、自覚してなかっただけっすね先輩! なら、これはあれに巻き込めますねえ?」
「あれ……ですか?」
「前にショッピングモールで、バレンタインの話題したでしょ? バレンタインとはね。ざっくり説明しちゃうと、女の子が好きな相手にチョコを贈る一大イベントなの!」
「チョコ……?」
好きな相手に、わざわざチョコを贈る意味が漣にはまだよくわからないが。どうやら大事なイベントだと言うのは理解出来た。
チョコはどう言うものかは、漣も知っている。茶色以外にも使う食材の色などで味は変わる甘いもの。休憩室などに、アソートという部類のお菓子がよくあるから覚えたのだ。甘くて美味しいので、漣も好きなお菓子だ。
「そう! そして、手作りのチョコは男性の憧れとも言われているのよ? 漣ちゃん、いきなり告白は難しいだろうけど。晁君に手作りのチョコをプレゼントしてみない?」
「手作り……ですか?」
「うんうん。漣ちゃんは調理補助はまだっすけど、先輩の家ではよく手伝いしてるって聞いてましたし、多分大丈夫っすよ」
「手作り……晁、斗さんに?」
喜んでくれるだろうか。
けど、漣が頑張ったことなどにはきちんと笑顔で応えてくれた。なら、きっと喜んでくれるかもしれない。
「僕、頑張ります!」
「よぉーし! 時間も限られているし、材料は私と菜幸ちゃんで買っておくから。明日から私の自宅で特訓よ! 漣ちゃんも休みだし!」
「わ、わかりました!」
とりあえず、確認事項はこれまで、と言われてロッカールームを出たのだが。
事務所に向かう廊下で、漣は思った。恋愛感情を、まさか自覚させられるとは思ってもみなかったことに。
これから事務所の方で、空呀や次代がいるにしても晁斗と向かい合ってアクセサリー製作をする予定ではある。
好きな相手と同じ空間に居て、気持ちが落ち着かないんじゃと思ったが、すぐに両手で軽くほっぺを叩いて気合を入れた。
すると、埃が落ちてきたのか、小さな綿毛のようなものが漣の前に落ちてきた。
「……なんだろう、これ?」
埃にしては、随分と可愛らしいので漣はそれを手にしたまま事務所に向かうのだった。
次回は月曜日〜




