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14-3.戻りし次代

お待たせ致しました







 *・*・*









 とにかく、(れん)は目の前にある小さな次代狗神の元に向かうべく、手を精一杯伸ばしてみた。


 けど、周りの粘着質な何かに、漣も狗神も捕らえられていてうまく前に進めない。


 なら、この場でも歌が歌えれば、漣は狗神の役に立つ。


 幸い声は出せるので、親神の方と同じ歌を紡ぐことにした。気持ちを最大に込めることを忘れずに。




 優しいそよ風


 内に秘めた優しいそよ風


 届け届け、その風の調べ


 優しい、笑顔


 可愛い笑顔


 届け届け、風と共に




 風は癒し。慈しみの象徴でもある。凪いでいけば体に触れ、優しさに包み込まれていく。


 その漣の思いが届いたのか、粘着質な何か達はだんだんと風化していき、狗神の姿をきちんと見せてくれた。



【……これ、は?】



 だが、まだ完全に癒えていないので漣は歌い続けた。





 沙羅さ、沙羅さ


 芽吹きの風よ、吹いてゆけ


 包み込め、優しく風のように


 綿毛が降りる、その先に




 たんぽぽの綿毛のような光の粒が、狗神や周りの消えていなかった粘着質なものらに降り注いでいく。


 そして、光が消えていくと同時に粘着質なものがすべて消え去ってしまった。



「……よかった」



 晁斗(あさと)がいなくても、なんとか出来た。でも、これが正解なのかわからない。ひょっとしたら、漣は狗神の悲痛な声に連れ去られてしまったかもしれないから。


 力を使って、少し息切れてしまった漣にぺろっと温かなものが触れてきた。



(なんじ)は誰だ?】



 正体は癒したばかりの、次代狗神だった。


 不快なものはもう何もなく、親神を癒した時と同じく柔らかな毛並みに顔にいくつもの赤い模様があるのはそっくりだった。



「……僕は、漣です。えと……熊谷(くまがい)漣です」

【漣……とな? 母者に頼まれたと言うのは誠か?】

「はい。……けど、あなたのお母様も癒しましたが。今は……」

【……我を堕とした者どものせいか。良い、汝を責める理由などどこにもない】

「けど!」

【我を次代狗神となすべく、母者に頼まれたのであろう? であれば、我がこの地を統べる土地神として受け継ぐまで】



 そう言いながら、もう一度漣の頬を舌でぺろんと舐めてくれた。



【だが、我を堕とした者どもには。母者と我への報復はきちんとせねばな?】

「……殺す、ってことですか?」

【そうではない。二度と、この地に関わりがないように心を折るまでよ】



 どっちも酷いことなのでは、と口に出そうになったが。おそらく殺されたかもしれない母神への報復をするのであれば、たしかに道理かもしれない。


 記憶喪失だった漣に、まだまだ難しいことはわからないがそれは正しいことなのだろう。



【さ。汝も目を覚ますのだ。心のうちに入るなど、無茶なことをするでない】

「心の……うち?」

【ここは我が魂のうちに等しい。ヒトが長くいると、なりたての土地神の心とは言え同調し過ぎると己の魂が壊れるぞ?】

「ふぇ!?」



 だから、晁斗達がいなかったのも納得は出来たが。術も何も使っていないのにどうやって元に戻れば、と慌てていると狗神が額を合わせてきた。



【我に続けて言の葉を紡げ】

「は、はい!」



 少しばかり驚いたが、早くしなくてはいけないので逆らわずに目を閉じた。



【震え、震え、凍てつく氷よ】

「……震え、震え。凍てつく氷よ】

【我が芦原を汚す者どもを許さん】

「我が芦原を汚す者どもを許さん」

【我が血に盟約を、ここに結ばん】

「我が血に盟約を、ここに結ばん」



 そうして、漣の意識が遠のく感じがして。


 目が覚めたら、晁斗に抱きしめられた形で空呀(くうが)の背に乗っていたのだった。



「ふ、ふぇ!?」

「…………あ、漣!?」

「あ、あさ……とさん。これ……?」

「い、いや、俺もわかんねー!?……いつのまに空呀のとこに乗ってんだ?」

【ふふ。漣をとりあえず落ち着かせよ】

「あ?」



 なんとか晁斗から離してもらった時に聞こえた声は。


 意識を失ってた時にやり取りしてたのと同じ、狗神の声。


 体はやはり母神より小さいが、夢で見たのと同じ狼の体にいくつもの赤い線を引いた狗神であった。



【……悪いが、その女子(おなご)とは盟約を結ばせてもらった】

「「は??」」

「え?」

【これよりは、我は土地神を受け継ぐまで漣の眷属よ】

「け……んぞく??」

「ちょ。次代狗神、あんた何言って!?」

【核は受け取ったが、母者に返すまで。まだ、母者は亡い者にさせられていない】

「「「!!?」」」



 と言うことは、まだ親神への望みはあるかもしれない。


 漣は次代狗神の背に乗るように顔の振り方で指示されたので、迷わずに飛び乗った。運動神経は思いのほか悪くないので怪我はしなかった。



「狗神様のところへ、行きます!」

【風の者達よ、遅れるなよ?】

「お、応!」

「とにかく、今は急ぐか!」



 目的の一つは果たされた。だが、肝心のところまだ何も解決していない。


 以前の漣を知っているらしい、あの黒ずくめの二人を足止めしてくれている親の方の狗神が一応無事であるのなら。


 早く、助け出したかった。

次回は12時〜

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