14-2.奪われし次代
本日3話目
*・*・*
漣には聞こえていた。
次代狗神の苦しみ、痛み、空虚を。
親神である狗神から引き離されて、哀しみにくれる次代の悲痛なくらい痛い叫びを。
そして、意識を飲み込まれてしまい、次代の中に引き込まれてしまったのか。
暗い闇の中に、晁斗や空呀はいなかった。
「……晁斗さん? 空呀さん?」
声をかけても聞こえない。
漣自身、今は気絶して晁斗に抱えられていることを知らないからだが。
前に進んでみても、闇以外何も存在していない。ただ、時折不思議な感触が手に絡み付いた。
「……なんだろう、これ?」
ねちゃっと、ぬとーっとした不思議な感触。どこにあるかわからないが、ねちゃねちゃした感触に漣の不快を感じたが、肝心のその正体がわからない。
それともう一つ、まだかすかにだが、次代狗神の声も耳に届いていたのだ。
【……るしい。く……るしい。痛い……痛い!】
聞こえる声に、前に進もうにも、その粘着質な何かに阻まれて、漣もうまく動けないでいた。
「ダメ……ダメ! 僕が癒すから、まだおちちゃ!?」
狗神の時のように、死の間際になっても大変だが。悠耶達に学んだ時に堕ちた存在から癒すのは、たとえ癒し手でも可能かはわからない。癒し手という存在がある意味都市伝説でもあるからだが。
【……だ、れ? 我に声を……誰、だ?】
「僕の声が聞こえてる? あなたを助けに来た者です! あなたの、親神様に!」
【は……はじゃ、に?】
「はい!」
まとわりつく、粘着質をもう気にせずに進んでいけば。黒い、これまた粘着質な何かに行く手を阻まれている、親の狗神よりはいくらか小さな狗神がいた。
どういう巡り合わせかはわからないが、次代狗神の意識の中に漣は入り込めたかもしれない。
なら、ここで癒すまでだ、と次代に触れられるように近くまで足を進めるのだった。
*・*・*
酷い光景だった。
どこからが、次代の狗神で、どこからが堕とされた部分から境目がわからない。
それくらい、晁斗は目の前にある光景が信じられなかった。
どす黒い粘着質の強い物体が、次代らしき獣型の何かを取り込んで、形を得ようとしているが。正直言って、今この状況に漣が動けないのに苦戦しか浮かばなかった。
「どうすりゃいいんだ……?」
「俺と晁斗の浄化じゃ、軽く背中を炙る程度だろ? 漣起きねーか?」
「その漣が、こいつと交信中に気に当てられたかで気絶したんだろ?……無茶言うな」
「けどさあ!?」
空呀の言うことも尤もではあるが、無理に漣を起こしたところで目の前の堕ちた次代狗神を元に戻せるかはわからない。
だが、このままでは黒ずくめのやりたい放題で、この土地を中心に天変地異まで起き兼ねない。
なら、と晁斗は漣を空呀の背に乗せた状態で、自ら地面に降りた。
まだ浸食してない土地の上でも、邪気が染み込んでいるのか靴裏からでも不快な感覚を感じた。
「空呀、少し下がってろ。漣が起きたとしても、無茶はさせんな?」
「お、おう。って、晁斗。まさかお前一人で対処するつもりか!?」
「無理でもやるだけやるさ!」
どこまで出来るかわからないが、悠耶や咲乃には劣るが浄化の対処法は修行してきている。腰のベルトにフォルダーはさしてあるので、その中から浄化専用の札を取り出した。
陣を張る前に、次代らしき塊が前に動こうとしていたのを見て、時間がないと晁斗は詠唱を唱えることにしたのだった。
「震え……悪しき宿木よ震え、凍てつく氷の如く!」
札を飛ばして、陣を張るべく詠唱を唱えると、瞬時に五芒星の線が晁斗の頭上と次代の頭上に走った。
「言の葉、ともに震え。我が言霊は凪の如く。散れ……散れ、言の葉よ!」
晁斗もだが、次代の陣から赤い糸が生じて、体に絡みつく。その光景を見て、空呀が声を上げた。
「晁斗、お前自分の霊力を!?」
「今はこれしかねーんだよ!」
自らの力を糧に、進行を止めるしか。
晁斗が思いつく最上の方法だった。
だが、二人が悲痛な声を上げた途端。
次代の方から、浸食した邪気の中から光が溢れ。
晁斗もだが、漣を背負った空呀諸共、包み込まれてしまったのだった。
次回はまた明日〜




