13-5.妨害②
本日三話目
*・*・*
晁斗が何か術を使おうとしているのが、漣にもわかった。
ならば、漣は助けにはならない。まだまだ新米なのと、他者を癒すことしか出来ない能力者だから戦闘向きではない。
だから、空呀にしがみついているしか出来ない。それに、晁斗の邪魔もしたくなかった。
「炎舞招来!」
掛け声と共に、黒ずくめの男に向かって何か飛んでいった。少しだけ空呀の頭の上から覗いてみると、男の身体にたくさんの赤い札が張り付いていた。
そして、晁斗のさらなる掛け声により、炎が上がった。
「更なる浄化の炎をーー翔来炎舞!」
「くっ!?」
晁斗は相手を傷つけないようにしているとは思うが、この男やさっき追いかけていた声の主は、狗神に酷いことをした。
ならば、菜幸がよく言っていたやられたらやり返す、何倍にも、それをやるしかないのだろう。
しかし、炎は男の黒ずくめなマントみたいなのを軽く焦がしただけで、焼け落ちもしなかった。
「くっそ、全然効かねえ!」
「風もダメ、炎もダメってどうすりゃいいんだよ!」
「無駄なことを……だが、多少熱く感じた分。お返しせねばな?」
男も同じ考え方なのか、持っている武器をこちらに向けた途端、先端から青い炎が出てきた。
「わ、やべ!?」
「障壁が間に合うか!」
このままでは、自分達は焼けてしまう。
殺されてしまう、そんな緊迫感を感じた漣は体を起こして無意識に両手を前に出した。
「……僕の、大事な人達を」
「「れ、漣??」」
「殺すだなんてさせない!!」
なにが起きたのか、漣にもよくわからなかった。
可能な限りの大声を上げただけなのに、男の出した青い炎の波が、見えない透明な壁かなにかに遮られた。
当然、炎もだが熱さも伝わることなく、消えるまで壁は存在していた。
「漣、お前……?」
後ろから晁斗のぽかーんとしたような声が聞こえてきたが、今漣に振り向く余裕がなかった。
攻撃を仕掛けてきた男の方から、はじめて浮遊してた場から突進してきたのだから。
「……やはり、連れ帰るべきか!」
「来るぞ!」
「漣、壁はいいから逃げるぞ!」
「は、はひ!」
前に出してた手を引っ込めると、それで維持していたのか壁は消え去ったが男が武器を構えて突進してくるのに変わりない。
空呀がまた暴風を繰り出しても、男は斬り伏せてこっちにやってきた。
「くっそ、手立てがねーなぁ!」
「かと言って、漣は渡さねーよ!!」
「ふん。漣と呼ばせているのか、癒し手の女」
「悪いか!」
「悪くないけど、おかしな名前〜?」
「な!?」
「この、声!?」
今度は前方に、少し前に追いかけてた黒ずくめの少女が浮いていたのだった。
「んふふ〜。準備出来たから、呼びにきたよ〜ん?」
「ふ……もう出来たか?」
【ま……まさか!?】
こちらを援護しようとしていた狗神からも、驚いたような声が上がった。
「ふふ〜ん。次代狗神は、僕らの手できっちり堕としたよー?」
【き……さま!?】
少女からの言葉による衝撃を受けて、狗神はかつてないくらい怒って、少女に向けて炎を吐き出したのだが。
「む〜だ無駄! ただの妖になったワンちゃんの妖気なんか。僕には聞かないんだも〜ん!」
その無邪気さには、さすがの漣ですら頭に来ないわけがない。
「……さっきから聞こえてきた、あなたの声」
「んー?」
「狗神様達だけでなく、あの時のお兄さんにまで酷いことをして……僕、あなた達が許せません!」
「そうは言っても、援護型の君になにが出来るのさ?」
「なにも……出来なくたって」
護りたいと思う気持ちは変わらない。
未熟者だという自覚はある。だが、癒す以外にも出来ることがあるのならやってみたい。そう思えるほどに、漣の心は熱く燃えたぎっていた。
【……癒し手の少女の手をわずらわせるわけにはいかん】
すると、狗神が空呀の前に出た。
【此奴らには、我がきっちりお返しとやらをせねばな。主には、次代狗神を頼みたい】
「で、ですが!」
【もし、我が亡き者になろうとも、次代がいればあの地は安泰だ。だから、癒してほしい】
「……わかり、ました」
攻撃は出来ないが、漣は癒し手だ。
可能な攻撃の術などはすぐに扱えないが、癒し手としても未熟なのに狗神は頼んだと言い切ってくれた。
であれば、ここで漣の出来ることはない。
だがしかし。
「ふふーん。行かせないよ〜? ついでに癒し手のお嬢ちゃんは僕らのとこに連れてってあげる」
「行きません! 僕がいるべき場所は、万屋です!」
「あ、そう。振られちゃったなあ?」
「呑気に言っている場合か!」
「はいはーい」
「こっちも漣は渡せねーよ!」
「応!」
空呀が空高く駆け上がり、何度か暴風を放って、後を狗神に託した。
晁斗は空呀に、枯れた土地向かって突き進むように告げた。
だんだんと狗神からは離れてしまうが、大丈夫かと心配する漣に晁斗は頭を撫でてくれた。
「万が一のこともだが、俺達は俺達に出来ることをするまでだ」
「……はい」
「それにお前は、あんな奴らの一員じゃねえ。万屋の人間だ」
「……はい!」
力強い言葉をもらえたので、ほんの少しだけ勇気が出た漣だった。
次回はまた明日ー




