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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
万屋ウィンタージュ
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1-4.万屋ウィンタージュ③

お待たせ致しましたー

 *・*・*










「本当にあの金額でよかったのか?」



 空呀(くうが)悠耶(ゆうや)に淹れてもらった緑茶を飲みながら晁斗に問いかけてきた。



「まあ、本業はこっちでも収入には困ってねぇしな。邪気の程度もあれくらいで済んだから問題はねぇよ」

「ふぅん?」

「問題あり過ぎっすよ!」



 いきなり扉が大きな音を立てて開き、入ってきたのは書類らしい紙を数枚もった銀縁眼鏡の小柄な女性だった。



菜幸(なゆき)……」

「お疲れ、菜幸ちゃん」

「副所長と所長は甘過ぎです! あの浄化術なら通常でも二万は支払ってもおかしくないっすよ!」



 いつから見ていたのか、はたまた自分の守護精に視てもらったのかえらく憤慨していた。


 やれやれと晁斗(あさと)は紅茶を飲んでから、小さく息を吐く。



「代金は悠耶が決めたんだしとやかく言うなよ」

「副所長は女性には甘々っすからね!」

「口うるさくない人には、だけどね」

「それより、修繕費がようやく落ち着いたんで報告書出来たっすよ」

「ああ。ありがとう」

「ほとんど晁斗先輩が空呀と一緒に壊したものっすけどね」



 怒ってるのはそちらもかと晁斗は頭が痛くなってきた。


 バイト時代からずっと居てくれてる経理担当所員は、事あるごとにこうやって提出と共に愚痴を言ってくるのだ。高校の後輩でもあったから、気兼ねない付き合いをしてきたのもあるが。



「しょーがねぇだろ。防いでなきゃあの程度で済まなかったぜ?」

「にしたって、国会側では認知されてても助成金がおりる訳じゃねぇんすから加減は考えてくださいっすよ!」

「へいへい」

「それと、依頼入ってきたんでしょう?」

「さっすが悠耶先輩、察しが早いっすね」



 と言って、菜幸は一枚の書類をソファに座ってる晁斗に差し出してきた。



「晁斗先輩……所長に指名があった依頼っす」

「俺?」

「風を担い手とする浄化の依頼っすよ。水は吸うのに土が何故か荒れてしまうらしくって、調べてみても風の影響かどうかって程度しかわからないみたいっすよ」

「水は吸うのに土が荒れる?」

「なのに土壌に影響……風天の力が行き届いてないせいかもしれないね」

「ふうてん?」



 なんぞやと菜幸は首を傾いだ。



「仏教における十二天の一人でね。風を神格化した武将のような姿をしてる神様みたいなものかな。化身は守護精にもいるらしいけど、超レアだから今現在いるかどうかは怪しいけどね」

「その神様が今回の依頼にどう関係が?」

「風天は悠耶が言ったように風を司る。五大元素で言えば風、そして空にも繋がるんだ。わかりやすく言えば空気のことだな。清浄な空気に関係するのがこの神のもう一つの役割だ」

「………聞いたことないっすよ。で、空気が悪いとなんで土が荒れるんすか?」

「ここは普通の理科知識だろ? 空気に含まれる水蒸気の成分に何らかの不浄が混じってりゃ、いくら水が良くたって栄養素豊富な空気が濁ってりゃ土も呼吸すんだから悪くなるもんだ」

「ああ!」

「ってことは、白虎の特性を活かす浄化術じゃなきゃ対応出来ねぇってわけか」



 菜幸から書類を受け取り、さらっと内容を見ておくと大体が彼女が言ってきたのと同じことだった。



「んじゃ、早急に片付けた方がいいだろうし……悠耶、店は任せた」

「りょーかい」

「絶対器物破損しないでくださいっすよ!」

「わーったって」



 出来るだけ、と内心ごちるのはお約束だが。

 それを悠耶も菜幸も大概はわかってるだろうからか敢えて口にはしない。


 ひとまず、制服から着替えるのにロッカールームへと向かった。



「所長単独は久々だなぁ?」


 着替えてる間、空呀は宙に浮かびながら毛づくろいをしていた。



「ま、(あかり)兄貴と共同が割と多いし、今日は指名制だからな。兄貴もフル稼働で動いてっから無理だろ」



 女らしい名前の男性だが、実際は晁斗と変わらないくらいガタイの良い歳上のウィンタージュ唯一のシェフだ。調理補助はいることはいるが、基本的に調理を行なっているのは燈とその守護精である。


 晁斗は春物のオーバーコートを羽織ったところで、ロッカールームを出た。


 だがそのまま裏口に向かわず、祖父の克己(かつき)がいるカウンターの方へと足を向けた。



「オーナー、指名入ったんで出かけまーす」

「ほう。そうかい?」



 克己は晁斗程高身長ではないが、老齢にしては背がある方で骨もしっかりしているから体格も良い。面差しも何処と無く晁斗を老成したように見えるが、蓄えた銀の口ひげがいかにも『マスター』を思わせる。


 克己は注文が入ったのかコーヒーを淹れているが、手と口を別々に動かしても問題ないくらいのベテランなので心配はない。



「帰りは遅くなると思っていいかな?」

「そうしてくれ。一応まかないは取っておいて欲しいけど」

「燈君に言っておくよ。二人共気をつけてな?」

「行ってくるぜ!」



 空呀が元気よく声を上げるのに、少しうるさいと軽く小突いた。


 その時、視界の隅に先程依頼を完了したばかりの奈央美と守護精のライトが仲良くティータイムを過ごしてるのが見えた。対応しているのは茶髪のウェーブが特徴的な店員、従兄妹の咲乃(さくの)だ。



(治って良かったな……)



 ただ、あのように邪気を溜め込むのは少し珍しいケースではあったが、今は頭の片隅にでも置いておこう。


 それよりも、指名が入った方が急ぎの仕事だからだ。

 ひとまず喫茶店の裏口を通って店から出た。



「場所は市街地か……」

「どーする? 俺が元の大きさに戻って駆けよっかー?」

「そうだな。時間も惜しいし、頼むぜ」



 空呀は三メートルを優に超える白虎と変化し、晁斗は慣れた様子で跳躍してその背に跨った。

 主人が乗ったことを確認した空呀は地面を蹴って飛び上がり、そのまま空を駆けていく。



「時間指定はなかったよな?」

「まあ、一応は急いでくれ。三倍速くらいで」

「わーった!」



 そして晁斗の指示通りに空呀は速度を上げ、風を纏うようにしてウィンタージュ上空から姿を消した。

次回は明日の7時くらいにー

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