11-1.狗の声
お待たせ致しましたー
*・*・*
ああ、どこだ。
どこにいるのだ。
我が仔、我が仔よ。
視えぬ。
今は視えぬ。
この眼がお前を目にすることが出来ぬ。
どこにいるのだ、我が仔よ。
昏がり、昏がり。
内の中。外の外。
どこを探しても、目的のモノがいない。
ある者達により、目を患った狗神は己の仔を失くしてしまった。
いるはずの気配もない。あるはずのものがいない。
こんな悲しいことはない。
誰か、誰か。
目を失った己の代わりにあの仔を探し出して欲しい。
*・*・*
不思議な、夢を見た。
「ん、んー?」
漣が熊谷家に厄介になってから、今日でだいたい半月。
睡眠も、無茶をしなければ過度に寝ることもなく。癒し手の能力もあの事件以来発動させていないので、倒れることもなかった。
「んー、あ、まだ6時前だ」
だが、下宿させてもらっている身として、出来ることはしたい。
漣は身支度を整えてから、おそらく既に起きているであろう晁斗のいるキッチンに向かった。
「おはようございます!」
「おう、おはよう。早いな?」
「はい」
漣と名付けて、漣を見つけてくれた恩人。
実年齢は漣と然程変わらないらしいのに、晁斗の体格は大人でも群を抜いていると漣は常々思っている。
ウィンタージュの厨房担当である燈も相当大きい方だが、漣としてはこの晁斗がすごいと思っているのだ。
接客も人当たりもよく、笑顔も素敵でいろんなアクセサリーを作れる優れた人。おまけに、万屋の若い所長だ。素敵でないはずがない。
漣も少し前から、研修を受けてバイトの一員としてウィンタージュの方でも働かせてもらっているが。ほぼ未経験なので、まだ大したことが出来ない。
漣自身が記憶喪失なせいもあるが、きちんと恩返しが出来るように、癒し手としても活躍出来たらなとは思っているが。
万屋の依頼が、特に漣が必要な案件がないので、実質手持ち無沙汰ではある。だから、日々の生活の方も合わせて、彼の役に立ちたかった。
「お手伝いします」
「お、そっか? んじゃ、箸とか並べててくれ。もうほとんど出来てんだ」
「はい」
それと、箸の練習もだいぶ上達してきたと思う。
あえて、晁斗が朝のほとんどを箸の使う食事にしてくれたお陰もあるが、ウィンタージュでも時々咲乃達が教えてくれたからだ。
食器の置き方も、研修でみっちり叩きこまれたので大丈夫だ。
「あらー、漣ちゃんおはよー」
「あ、おはようございます」
そして、昨夜から熊谷家に戻ってきた住人がひとり。
「ばーちゃん、はよ」
「ん、おはよう」
克己の妻であり、晁斗や咲乃達の祖母でもある暁美の帰還だった。
克己とそう年は変わらないらしいのに、漣の目から見ても老成した美貌は眩しく映っている。
今も、ラフな格好をしていても、どぎまぎしてしまうのだ。
「もう出来てっから、先座ってな」
「あいよ。んー、飲み物はどうしようかねー?」
「あ、僕淹れます!」
「あら、ありがとう。んじゃ、漣ちゃんと同じでいいわよ?」
「え、僕。カフェオレですけど……」
「いいのいいの。あ、濃さとか気にしなくていいからねー?」
「あ、はい」
「ばーちゃん、漣には甘々だな?」
「素直ないい女の子は、咲乃よかいいよー。あの子は悠耶と引っ付いてから色々変わっちゃったし」
「は、はあ……?」
「おや、おはよう」
克己も起きてきたので、漣も急いでカフェオレを淹れてから席に着く。漣以外、守護精はそれぞれ降ろして、自分達の隣に座らせて食事をとらせてる。
暁美の守護精は不思議な赤い模様が目立つ犬の形だ。名は、紅月と言う。
それと、漣は前まで晁斗の向かい側だったが、暁美が戻ってきてからは、何故か隣に座ることになった。
だが、それがしっくりくるのだった。
「漣ちゃんは今日も喫茶側かい?」
「ん、ああ。休暇日は明日のつもりだから」
「そうかい。実は、昨夜LIMEで知人から連絡が来てね?」
「おや、万屋の方にかな?」
「ああ。なんでも土地神が荒れているらしい」
「とちがみ?」
「ある一定の土地を守ってくださる神様のようなもの、とでも思っておけ」
「はい」
それが荒れているのと、漣が関係するかまだ判断力が鈍い漣にはわからなかった。
だが、晁斗は箸を置いて息を吐いた。
「癒し手として、経験積みに土地と神の浄化をか?」
「フォローとしては、あんたが付いていってやれば大丈夫だろう?」
「けど、まだ大規模な癒しは漣の負担になる」
「入院の話は聞いたさ。けど、何もさせないで埋もれるのも、宝の持ち腐れ。漣ちゃんのためにもならないよ?」
「……僕、役に立てるんですか?」
難しい話はよくわかってはいないが、漣自身が役に立つのであれば喜んで協力したい。
たしかに、あの事件のように広範囲で癒した後に、倒れてしまったのはよくないとわかってはいても。
「うーん。まあ、一度に浄化するのではなく。経過を見て、回数をこなした方がいいかもしれないね? それなら、私も許可するよ」
「克爺はばーちゃんに甘々だよな?」
「ふふ」
「フォローありがとう、克己さん」
「僕、頑張ります!」
「漣……」
やる気を出した漣がぐっと拳を握り締めると、晁斗は大きく息を吐いているのを空呀に宥められていたのだった。
次回は12時〜




