10-1.新たなスタートへ
お待たせ致しましたー
*・*・*
あれから二日。
ほぼ同日に、漣と柘植奈央美は無事に退院することになった。
柘植の方は、甲本のことがあって意気消沈していたのを菜幸や咲乃が時間をかけて慰めたお陰で、退院時にはいい笑顔になっていた。
「……お世話になりました」
「無茶はしないように」
見送りには、ここの医師ではないのに荘重医師も一緒だった。
「はい。すぐに気持ちを切り替えることは、出来ませんが……今は、一人じゃないとわかってますから」
「とーうぜん、だよ!」
「わ、ユキちゃん!」
まだ話は途中だと言うのに、菜幸が柘植に抱きついて精一杯の笑顔を見せた。
まだ二日とは言え、二人の友情はたしかなものとなっている。
友人は何人かいるが、家族以外だとここまでの絆は得ていない晁斗だったので、なんだか新鮮に映った。
「んじゃ、菜幸。万屋の一員としてしっかり説明してこいよ?」
「了解っす、所長!」
けど、なんだかんだ口調の使い分けている時に、おちゃらけた雰囲気を出すのはやめて欲しいとは思うが。
だが、1社会人としては新米でも学生時代からウィンタージュと万屋に勤めているので経験は豊富な方だ。
でなければ、克己が所長だった時から経理を任せてなんかいない。
「行ってくるっす!」
「またお邪魔しますね?」
菜幸と柘植が先に出発したので、残ったのは晁斗と漣、荘重医師だけだった。
「じゃ、漣ちゃん。いっぱい食べて、いっぱい運動して……君の場合はウィンタージュで働くことかな? 能力についても、皆と考えて使ってね? 毎回倒れたら大変だから」
「は、はい!」
「んじゃ、俺らも行くか?」
「定期的に、漣ちゃんはうちの病院に連れてきなさい。とりあえずは、身体面で栄養失調の治療の方ね?」
「わかりました」
「お、お願いします」
ここで荘重医師とも別れ、晁斗は漣を連れてウィンタージュに帰ることにした。
急ぎなら空呀を使ってもよかったが、いきなり空を旅させると体力消耗もあるからだろうと、ここは車で。
前と違い、今度は助手席に座らせた。
「んじゃ、行くぞ?」
「は、はい」
車を動かすと。後部座席の時とは違い、昼間なのに加えて正面から見える景色に、漣が興味津々になっていた。
「まだ朝だけど、腹減ってねーか?」
「だ、大丈夫です! 病院でもたくさん食べてきたので!」
「はは。遠慮はいらねーぞ? お前はうちの一員だしな?」
「は、はい」
まだまだ出会ったばかりだからか、遠慮がちになってしまっているだろうが。少しずつ生活には慣れていけばいい。
それに、今日から喫茶側の研修も少しずつ始めるつもりだ。
指導は一応、咲乃に頼んではいる。同性なのと、晁斗が教えるよりは丁寧だろうと言う感じだからだが。
とにかく、一度入院で積んだ荷物を自宅に置いてきて、昼過ぎから漣の研修を始めるのにまずは燈のまかないを事務所の方で食べることにした。
今日のまかないは、デミグラスオムライスである。
「うんめ!」
「ほんと、兄貴じゃなきゃ出せねぇな。この味は!」
「この間の、ふわふわオムライスも美味しかったですけど。こっちも美味しいです!」
「「だろ?」」
漣の味覚については、ジャンクフードを食べ慣れていたと言う事実以外は。晁斗と燈の料理のお陰で、少しずつ回復しているらしい。
だが、能力を酷使するくらい使うと、異常な食欲を見せると言う菜幸からの情報を考えると、あまり癒し手の能力は使いすぎない方がいい。
今は細身でも、そんなジャンキーな食べ物ばかり食べさせ過ぎては、ぽっちゃりな漣がいずれ出来上がってしまうからだ。
なら、余裕があればロードワークで体力をつけさせるのもいいかもしれないな、と晁斗は思った。
「んで、漣」
「はい?」
それと、別にもう一つ確認したいことがあった。
「ウィンタージュの仕事で、俺のようなアクセサリーが作ってみたいって言ってただろ? 初心者には結構難しいが、ほんとにそれでいいのか?」
「はい! 晁斗さんのように、いつか作ってみたいと思いました!」
スプーンを持ちながらも、しっかりとした意志を伝えてくれた。
なら、これ以上躊躇う必要はない。
「よし。まず簡単なのを教えてやる。ステップアップ、って、練習を重ねて難しさを上げるんだ。この前お前に上げたのは結構難しいやつだからな?」
「わかりました!」
「だが、今日は店の研修中心だ。咲乃にしっかり教わってこいよ?」
「はい!」
そして、まかないを食べ終えて、咲乃に頼んで漣の制服チェックをしてもらうと。
皆に披露するときに、バイトも含めてスタッフ達から声が上がった。
「いやーん!」
「初々しい! 可愛い!」
と、女性スタッフに囲まれてしまい、晁斗からはよく見えなかった。
「えー、皆僕らにも見せてよ?」
「「はーい、サブリーダー!」」
「晁君も見てみてー!」
離れた女性スタッフと、咲乃に呼ばれて漣の制服姿を見ると。
「……へぇ、いいじゃん?」
中のブラウスと、黒のズボン以外はウィンタージュが仕入れている制服の小物ばかりだが。
意外とある胸以外、まだ幼さを残したあどけない漣が恥ずかしそうに立っていた。
今回は、ネクタイを咲乃につけてもらっただろうが、最初に晁斗が男に間違えただけあって少しボーイッシュな雰囲気になっている。
髪は、少し長いからか、悠耶のように後ろで縛っていた。
「あ、あ、ありがとう、ございます」
「じゃ、これから私は漣ちゃんの研修してくるから、ホールはよろしくね?」
「「はーい」」
「いってらっしゃい」
さて、新人スタッフとしてうまく溶け込めるだろうか。
次回は12時〜




