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9-4.報われない

本日二話目







 *・*・*








 晁斗(あさと)は、御子柴(みこしば)から聞いた報告が未だに信じられなかった。



「……マジかよ」

「……嘘じゃないですよね?」

「嘘偽りありません。……俺の、目の前でしてやられました」

「……そんな」



 今は(れん)の病室から離れて、晁斗と悠耶(ゆうや)だけ呼ばれ、つい先ほど起きた惨状を御子柴から伝え聞かされたのだった。



甲本(こうもと)泰彦(やすひこ)は、依頼した張本人に失敗したと判断されただけで……。追いついた俺の目の前で、腹に風穴を開けられ、絶命しました」

「……じゃあ、守護精も」

「おそらく、消滅してるはずです」



 たしかに、第三者の介入により、半堕(はんお)ちにまで堕とされたとは言え。漣の癒し手の能力のお陰で、ほぼほぼ元通りになり罪を償おうとしていたはずなのに。


 失敗に終わったと言うだけで、わざわざ依頼者が殺すのだろうか。


 しかも、こんな目立つ場所で。



「……甲本の遺体は?」

「既に鑑定が搬送済みです。ですが、おそらくなにも出てこないでしょう」

「その確証は?」

「漣さんのお陰で、半堕ちの核を吐き出したからです。ですが、それも俺が鑑識に受け渡したはずですのに紛失したと」

「それじゃ……」

「くっそ! 手掛かり無しじゃねぇか!」



 許されるだけですまない。


 その依頼者もだが、半堕ちや守護堕にさせた第三者。


 今回は無邪気な中学生くらいの少女だったらしいが、そんな幼い人物が殺しを厭うどころか惨殺を楽しんでたらしい。


 あくまで、御子柴が現場で見た時の見解だったそうだが。



「ひとまず、報告は以上です。万屋のご協力、感謝します」

「けど、こんな結果になるだなんて……」

「俺も悔やんでも悔やまれないですよ……」

「……(あつ)兄は?」

「…………柘植(つげ)奈央美(なおみ)に事の顛末を告げに行ってます。刑事として」

「……そっか」



 なら、咲乃(さくの)も柘植の病室にいるはずだから、おそらく伝わっているはずだ。従姉妹とは言え、万屋の職員ではあっても、あまり聞かせたくなかったが、それはもう遅い。


 隣にいる悠耶もそう思っているだろうが、過ぎたことを悔いていてもしょうがない。


 それに、この事実を菜幸(なゆき)もだが漣に伝えるべきか。出来れば伝えたくないが、漣は甲本を浄化した功労者。


 重度の記憶喪失とは言え、知らないでよくないと言い切れない。



「……晁斗。菜幸ちゃんには伝えるにしても、漣ちゃんには言わないでおこう?」

「悠耶……」

「ショックだけですまないよ。今はやめておいた方がいい」

「……ああ」



 たしかに、体は22歳でも精神年齢は高校生並みに幼い。


 これから記憶を戻す方法もだが、常識を教えるのだから少しずつ、の方がいいかもしれない。


 であれば、菜幸には個別で結果を伝えるかと決めて、すぐに向かおうとしたが。誰かに肩を掴まれたのでそちらを向けば。



「ん?」

「な……菜幸さんが、菜幸さんがこの病院にいらっしゃるんですか?!」

「「あ」」



 晁斗もだが、悠耶もうっかり忘れていた。


 御子柴が、重度の菜幸崇拝者だったと言うことに。



「お、おおお、俺も行っていいですか!!」

「い、いやいや、御子柴さん警視庁に戻んなきゃいけねーだろ?」

「こ、今回は、諦めてください!」

「そ、そんなぁ」



 恋にも近い、盲目的なまでの執愛。


 晁斗はまだ経験がないが、面倒臭いとしか思えなかったのだった。








 *・*・*









「……まあ。凄い食欲ですわね?」

「私も、ここまで食べるだなんて予想外だよ……」



 菜幸はひとり任せれて、漣や顕現させたネージュと一緒にいて。ちょっと菜幸も小腹が空いてたので、漣と一緒にワクワクバーガーのセットを色々食べていたのだが。


 晁斗らがいた時に食べてたチーズバーガーはとうに食べ終えて。今は咲乃が食べてたアボカドのバーガーとセットメニューのナゲットを無心で食べていた。


 それと合間合間に、またLサイズのポテトを。


 一個違いとは言え、凄い食欲だったのだ。本当は、晁斗らも食べるかなと多めに買ってきたのだが、数時間前にも食べたばかりなのに口が食べるのを止めないでいた。



「おーい、漣ちゃーん。そんなに焦んなくていいからゆっくりお食べ?」

「ふ!……すみません。お腹すいちゃって」

「いいよいいよ。けど、少し前にもたくさん食べたのに、どしてそんなにもお腹空いたんだろ?」

「……うーん。わかんないです」

「走った以外、たしか癒し手の能力使ったんだっけ?」

「あ、はい」



 もしかしたら、それかもしれない。


 憶測だが、初めて菜幸達の前で披露した時は食事をした後だったから空腹は満たされていた。


 だが、今回はかなりの間歌っていたと咲乃から聞いてはいたが、能力の使用する欠点に何かしらあってもおかしくはない。


 菜幸は簡易的な縛術(ばくじゅつ)しか扱えないが、生身の体で、しかも守護無しの漣の場合は体力以外に栄養失調気味と荘重(むらしげ)医師から確認は取れている。


 であれば、能力使用後には漣が空腹で倒れてしまうかもしれない説。これは、晁斗にもだが荘重医師にも確認を取らなくては。



「……漣ちゃん。私が言うのもなんだけど、あんまり癒し手の能力使い過ぎない方がいいよ?」

「ほえ?」

「今回みたいに、めちゃくちゃお腹空いて倒れるの繰り返したら。大変じゃん?」

「あ、お金……」

「いやいや、そうじゃなくて。漣ちゃんの体の方だよ」

「……僕?」

「そ。先生からも、ちょっと栄養失調気味……あんまり、体が強くないらしいから。まあ、晁斗先輩達にきちんと説明してから判断は仰ぐけど」

「……はい」

「……菜幸様。晁斗様達の気配が」

「あ、そう?」



 なら、話すのにちょうどいいと持ってたバーガーを急いで食べてドアを開けたが。


 すぐに、晁斗に説明があると呼び出され、部屋の外に出た。



「どうしたんすか?」

「……漣にはまだ言えねーが」

「うっす?」

「半堕ちだった甲本が、殺された。しかも、ついさっき」

「は……はあ?」



 今回の犯人が、誰かに殺された。


 信じられなかい、と思ったが晁斗は暗い表情をもとに戻さなかった。



「俺もまだ信じらんねーが、御子柴さんが教えてくれた。柘植さんには、篤兄が告げてるらしい」

「……ナオちゃん」



 その死んだ甲本と奈央美の関係を、まだ菜幸も聞いてはいなかったが。晁斗が御子柴から聞いた聴取の内容によると、同じ会社の部署違いの先輩後輩だったらしい。


 そして、甲本は一方的に想いを寄せるがなびく気配もなかったので、今回殺された依頼者に何かしらの術を依頼したそうだ。


 だが、結果は失敗に終わったので、素早く殺されたらしい。



「……柘植さんと友達になったのは咲乃から聞いた。……行ってきてくれるか?」

「……もちろんっす!」



 たしかにショックはしたが、もっと辛いのは奈央美の方だ。自分に構っている場合じゃない。


 だから菜幸は、ネージュを中に戻して奈央美の病室に向かった。



「ナオちゃん!」

「…………ユキ、ちゃん?」



 やはり、布団に顔を埋めてる奈央美に迷わずに駆け寄って、抱きついた。



「いっぱい泣きな!」

「…………っ、ユキ、ちゃん」



 甲本もだが。それ以上に彼を殺した張本人も許せない。


 今日出会ったばかりとは言え、大切な友人をここまで傷つけたのだから。



「……柘植さんは大丈夫そうね?」

「こう言う時必要なのは友人だしな?」



 あと、宮境(みやさか)兄弟がいるのはすっかり忘れていた。

章の関係で本日はここまで

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